過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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(続々) 煙草を嫌いになる薬

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永遠の名品 キャメル



最初の数日
キリが良くて数えやすいように月曜日から始めることにする。
最初の3日間は半量の 0.5mg の錠剤を日に1度だけ。 これは身体を薬に慣れさせるためだろう。 抗生物質を服用する時に少量から始めて少しずつ量を増やしていくあのやり方と同じだ。 4日目から服用回数が日に2回と変わるけど最初の1週間は半量の 0,5mg というのはそのままだ。

第1週目が終わった時点で気がついたのは、身体にも気分にもほとんど変化がみられないということだった。
タバコを吸う回数が今まで通りに日に15本から20本のあいだ、というのも今のところはそのままである。 薬は朝夕の食後に飲めと指示されているので朝食をほとんど食べない僕は無理をして何かを腹に入れるようにする。 そして服用する時に水をたらふく飲むと服用後に腹具合がおかしくなるのが防げることを発見した。

第2週目
服用分量が全量の 1mg に増える。 朝夕に2度飲むのはそのまま継続する。
煙草に手が伸びる回数があきらかに減ってきている。 そして煙草に火を点けても味がしなくなった。 味覚を変えてしまうのかとちょっと心配したが食べ物の味は変わらないので安心する。 これは効用書きどおり 「おいしい」 と感じる脳の感覚を殺しているのだろうと推測する。
今までのように朝眼が覚めてなんとなく煙草が欲しいという欲望がなくなった。 いつもなら毎朝の犬の散歩で川岸沿いに歩きながらその日の最初の1本を口に加えるのが習慣だったのが、吸っても味がないと思うと何となく気が削がれて、欲しいという気が無くなることに気がついた。 しかし食後の1本はまだ欠かせない。 煙草が一番うまい、と思うのはこの食後の一服だから。
ところがそのうまい煙草を吸っても味がなにもしないから、半分も吸わないで眉をしかめて灰皿に押し付けて火を消している自分に気がつく。
それでもまだ1日10本は吸っているようだ。

第3週目
煙草を吸っても何も味がしなくなった代わりに、煙草を鼻に近づけた時の匂いをずっと強く感じるようになって、それをすごく良い匂いだと思い始める。 比較的匂いの薄いフィルター付きのポールモールが、昔愛好したあの両切りのキャメルのような強烈な匂いがした。 その結果、煙草が欲しいと思う時に鼻につけてクンクンと犬のように匂いを嗅ぐだけで、ある程度の欲望が治まるのを発見した。
発見したのはそれだけじゃない。
だいたい身体がニコチンを要求するのは激しい運動したあとが一番というのは昔から経験していて、今の僕の場合それはテニスをやったあとだった。 とにかく煙草が吸いたくなりいつもテニスコートの駐車場で車にたどり着くなり、エンジンを掛ける前にまず一服するのが習慣だった。 それがある日、自分では気付かずにその習慣をスキップしたのを家に帰ってから気がついた。 煙草のことなどまったく忘れていたのである。 これはすごいことだと、われながら感心してしまう。

第4週目
心配していた副作用はこれといって特に無いが、1つだけ最初から経験したのは睡眠が浅くなったことだった。 とはいえもともと僕は睡眠が浅く、眠りに落ちるのに時間がかかり、しかも夜中に何度も目が覚めるのが普通なので、薬を服用し始めてからさらにそれがひどくなったとは思えない。 その代わり毎夜すごい量の夢を見る。 これはインターネットにも大部分の服用者が書いていたように次から次へと荒唐無稽な夢が続く。 でもこれは僕にとってはあまり苦にならない、というより少し楽しみにしているところもある。 大部分の夢は眼が覚めたときにはもう忘れているけれど、中にはいつまでも頭に残っているものもあった。

先日は自分が数人の女といっしょにいる夢を見た。 みな顔見知りの女ばかりで過去に何らかの関係があった女ばかりである。 その中には現在の女房もいれば45年前に別れた先妻や、それより昔20代の頃に付きあった女など、僕の過去のさまざまの部分から現れて来た女たちだった。 その女たちが仲良くしゃべりあっている。 そこにいる僕は完全に無視されていて、口を開くことも許されずただ彼等の会話を聞いているだけである。 なぜか彼等の会話の内容が完全に記憶から落ちているが、昔と変わらず陽気に喋っているのはあのレベッカで、それに時々女房が口を挟む。 無口なモナはいつもそうだったように真剣な顔つきで発言者の顔をじっと見つめているし、エヴァが煙草の煙を吐く時に唇をすぼめるようにするのも昔と変わらない。 中には顔はよく覚えているのにどうしても名前が思い出せない女もいた。
そして目が覚める。 ゆっくりと現実に復帰しながらついさっきまで自分がいた世界をもう1度反芻する。

第5週目
吸う煙草の数が目に見えて減ってきている。 昨日も今日も1日に4本しか吸わなかった。 とくに夕方から夜にかけては吸いたいという気持がまったく湧かない。 どうしても吸ってしまうのは昼間だと気がついた。 外に出ている時はまったく煙草無しで過ごしても平気になっているから、あとは自宅の仕事部屋で机に向かっている時が危険なのだ。 対策として何か食べるものを口に入れることにした。 体重の増加はこの薬の副作用の一つに挙げられていたけれど、僕の場合あと 2kg は体重を増やしたいと思っていた矢先だからこれはかえって都合がいいのだ。 そこでいろいろなものを食べる。 ピーナッツ、和菓子、チョコレート、餅、かりん糖、時には豆腐を冷やっこで食べたりキムチを食べたりする。 もともと間食というものをほとんどしない僕にとってはこれは新しい習慣となった。


(続)





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