過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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アパートの住人たち

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ダウンタウン 1





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ダウンタウン 2


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ダウンタウン 3




ダウンタウンへの引っ越しが終わって2ヶ月も経つと、そろそろ同じアパートにどんな人たちが住んでいるのかが少しづつわかってくる。
このビルには70世帯が入っているという話だが、若いカップルや独身者がその大半を占めているのは明らかで、あとはわれわれのようなシニア層の人たちが少数派として居住するみたいだ。 子供のいる家族はまるでいないか、いるとしてもまだ1度も子供を見たことがない。 ここには3ベッドルームの大きなアパートもあるから小さな子供を持つ家族がいてもおかしくはないはずなのに。 そしてほとんどの住民が仕事持ちの勤め人であることは、夜にはぎっしりと詰まっていた駐車場が朝はがらがらになっていることでわかる。 10数台だけ残された車の持ち主が、引退したシニアの連中だとみてよいのだろう。 もっともしばらくして気がついたのはそうばかりとは言えないようで、ブルーの仕事着の若い医者や看護婦をよく見かけるのはすぐ近くに大病院があるからだろうが、この人たちの生活は夜も昼もないようで、夕方に出勤して朝早くに帰宅したりする。 また戦闘服にブーツという格好の軍関係の人たちもけっこういて、彼らもまた昼夜の区別がない勤務をしているようだった。

住民たちは人種的に見ても、白人、黒人、東洋人、ヨーロッパ人と雑多に混じっている。 耳に携帯電話を当てて通り過ぎる人の会話が、スペイン語だったり韓国語だったり、あるいは僕には判別のつかないどこかの東欧語だったりする。 でも日本人だけはまだ1度も見かけたことがない。

とまあこんなぐあいで、年齢も人種も職業もいろいろな1群の人間が1つのビルの中で生活しているわけだから、お互いに接触するチャンスがいろいろとあるのは当然で、ロビーですれ違ったり表玄関のドアで鉢合わせしたり駐車場に同じタイミングで車を停めたりする。 ただ1階に住む僕らにはエレベーターの中で誰かと一緒になる、ということだけはないけれど。 ほとんどの人たちが驚くほどフレンドリーで、「ハイ」 とか 「ハロー」 とか 「グッドモーニング」 とか笑顔で挨拶をする。 ほとんどの人たちが、と書いたのは中にはそうじゃない人もいて、向こうから顔をそらせて無言ですれ違う人も時々はいる。 そういうの決まって若い女性で、「知らない人と誰でも気安くするという習慣は私には無いからね」 という意固地さがその動作に表れているようである。

それで思い出したのは僕らが入居して数日目に、隣の部屋の住人とばったりドアの前で顔を合わせた時のことだった。
40代のアメリカ人男性で、僕の顔を見ると 「ハイ」 とそっけなく言い捨ててあたふたと出かけていった。 隣人同士の初対面の挨拶でもしようと思っていた僕はちょっとあっけにとられて、失礼な奴だなあと思いながらそのことは忘れてしまっていた。
その日の夜、誰かがドアをノックするので開けてみるとそこに今朝会ったばかりのお隣に住む彼がいて
「今朝ほどは失礼しました。 私は空軍基地に勤めるエンジニアなんだけど今朝は仕事に遅れてしまって泡を喰らってたんでね、 勘弁して下さい。 何かわからないことがあったらいつでも声をかけてください。 といっても私は一人住まいで勤務時間がメチャメチャなので居ないことのほうが多いかもしれませんが。 とにかく今後ともよろしく」 と言って握手を求めてきた。
それ以後ほとんど2月(ふたつき)が経つというのに、この彼の顔を見たことは1度もない。


同じビルの住人と顔を合わせるチャンスが何といっても一番多いのは、犬の散歩である。
ペットを飼う人たちがけっこう多いということは管理人から聞いていたけど、これほどまでとは思わなかった。 プードル、ラブラドール、ピットブル、数種のテリア、ワイマラナー、レトリーバー、ダルメシアン、など、外に出ればたいていどれかの犬を見る。 しかも気がついたのは、たいていの犬は外でさっさと用を足してしまうとすぐにオーナーに中へ連れ戻されるようで、僕らのようにゆっくりと時間をかけて散歩をする犬は少ない。 だから犬のオーナーたちと話をするなんてことはほとんど無く、ふだんは簡単な挨拶を交わすだけである。
犬同士の交際は、概していえばまあまあうまくいっているようでオーナー同士がお互いによく気を使うからこれといった問題はないようだった。 ただ、ひとりのオーナー、彼女は若い中国人なんだけど大きめのレトリーバーのコントロールがあまりできなくて、猛烈に吠えまくって他の犬と掴み合いになったり、ロビーでいきなり僕に飛びかかってきたりする。 犬としては攻撃というわけじゃなくて親密さを過度に表現しているのだとは犬好きの僕ならわかるけど、犬の好きじゃない人にとっては恐怖の体験だろう。 と思ったら案の定、彼女に対しては(犬に対してではなく)幾つかの苦情がすでに事務所に出ているという。 もし彼女に愛犬のコントロールができないようなら、飼うことを止めるかそうでなければこのアパートを出るような結果になるだろう、とはこれは毎日のように出会う仔犬のワイマラナーのオーナーの話しである。

このワイマラナーのオーナーというのは年齢が60代後半のアメリカ人男性で、僕と同じくリタイアしたらしく仕事に出ることもないようで、僕とは毎日のように何度も犬の散歩で顔を合わせる。 独身者であるのは明らかで、このニッキーという名の、美しいグレーの光沢に輝くワイマラナーの仔犬を眼に入れても痛くないほど可愛がっている。 古いボルボのステーションワゴンに乗って買い物に外出する時も、仔犬が一緒でないことはまず無い。 時々、1日2日のあいだ彼のボルボが駐車場から消えてしまうことがあるのは、たぶん家族の誰か、娘とか息子とかに会いに行ってるのかもしれないと推測するだけで、そんな話を聞くほどにはまだ親しくなってないのである。

このビルの住人たちのことでもう一つ気がついたことがある。
ゲイやレズビアンが多い、ということなんだけどそのことを書くのは次の機会にしよう。







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