過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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2017年03月10日

思い出を食べに帰る旅 (1)

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桜餅


帰国の時期が近づいてきてもう心は日本へ飛んでいる。
いつもそうだけど、数年ぶりに帰る日本でやることといえば、会いたい人に会うことと、食べたいものを食べること、この2つに尽きる。 それだけで2週間が3週間があっというまに終わってしまう。
会いたい人の写真はブログで公表するのは支障があるから、そのかわり食べたいものを片っ端から載せてみよう。

ここに載せた一連の食べ物は見ればわかるようにとくに贅沢なものでも金のかかるものでもない。 日本にいればそのへんの大衆食堂や街の料理屋で食べられるものばかりだ。 今まで帰国するたびにこれ全部と言っていいくらい食べた。 そして今回もまた飽きずに食べるつもりでいる。 食通の友人がそれを見て笑う。 たまに帰ってくるのだからそんなありふれたものを食べなくたって、もっと旨いものを食わせてやるのにと。 それをいつも断る。 僕はこれが食べたくて日本へ帰るのだ。 友人には理解できないだろうと思う。
そう、僕は思い出を食べに日本へ帰るのである。

桜餅がその筆頭に来る。
紙のように薄いピンク色の皮の中には大好物のアンコがびっちり詰まっている。 桜の葉を剥いて、頼りないほど柔らかな餅を口に入れると、甘い中に桜の葉の香りが薄っすらとするのがたまらない。 そのあとむしゃむしゃと食べてしまう桜の葉が口の中を爽やかにしてくれる。
桜餅はまさに日本女性の象徴だと思っている。
この関東風の薄皮の桜餅は、繊細で優雅でたおやかでまるで昭和の頃の少女という感じがする。 それにくらべるとむっちりとした粒粒の餅を使う関西風の桜餅は、太り肉(ふとりじし)の熟女というところだろうか。 どちらを食べるのもそれぞれに好きだ。
あ、食べるのは餅の話です。






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餃子


この銀座の 『天龍』 の餃子はたしかに美味しいかった。 美味しかったがわざわざ銀座まで出かけて長い行列に並んで食べたいかと言われると、うーんと躊躇してしまう。 僕は餃子には目がなくてどこでもいつでも食べたい。 簡単に手軽に食べることができるから街を歩いていて看板を見るとつい入ってしまう。 どこで食べてもそれぞれ少しずつ味が違っていて美味しい。 言い換えれば、不味い餃子を食べたという経験がない。 それほど好きなのである。






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ふだん日本酒を飲まない僕が、というよりアメリカで旨い日本酒が手に入らない僕が、いったん日本へ入ったとたんに酒浸しになってしまう。 それを知っている郷里の叔母は僕が来るのがわかると、いつも一升瓶で何本も買っておいてくれるのが兵庫の銘酒 『剣菱』 だった。 亡くなった叔父が一生死ぬまで飲み続けたのがこの酒で、もし僕が日本に住んでいればまちがいなく同じものを飲み続けたにちがいない。 もちろん 『剣菱』 でなければ口にしない、ということはない。 酒ならなんでもいい。 辛口であれば。
昔ほどは飲めなくはなったけど。






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刺身


芥川龍之介の 『芋粥』 は中年の貧乏侍が、大好物の芋粥を一度だけでいいから飽きるほど食べてみたい、という願望を抱きながら、いざその夢がかない、ある時大鍋いっぱいの芋粥を出された時に、なぜか食欲がまったく失せてしまう、という話。
僕はといえば、ある時日本橋の小料理屋でこの大盛の刺身が眼の前に出てきた時に、感激で全身が打ち震えた。 芋粥を見た侍のように食欲が失せるどころか、同席の人達の会話も耳に入らずただ夢中で食べた。 ああ日本へ来て幸せだ、と改めて思うのはそんな時である。






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牡蠣フライ


これもアメリカの自宅ではほとんど食べることのない料理の一つ。
牡蠣は手に入ることは入るが粒が小さすぎてフライには向かず、といって生牡蠣でチューっと啜るほど新鮮じゃない。 シーフードのレストランならちゃんと牡蠣フライはメニューに載ってるけど、芯までパリパリに揚げられて牡蠣の味も何も無いという代物だからまず注文することはない。

ある年、横浜の牡蠣専門の店のカウンターで食べた牡蠣フライは、カリッと揚げた中から柔らかでジューシーで、ほとんどエロチックとも言える巨大な牡蠣が出てきた。 ああこれだよ、これが食べたかった、と大きくうなずきながら採れる産地名の付いた数種の牡蠣を選ぶ。 あれは旨かったなあ。






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サンドイッチ


日本のサンドイッチは実にエレガントな食べ物だと、食べる度に感心する。
アメリカなら食パンをポンとカウンター(まな板じゃなく)へ投げ出して、その上にハムやらレタスやらトマトやらあれこれ適当に重ねると、塩コショウを大ざっぱに振りかけマヨネーズを大々的にたらし込み、それをもう1枚のパンで上から抑えると全体を手のひらでポンポンポンと叩いてハイできあがり。 実に大陸的な食べ物となる。

日本は違う。
もっとずっと丁寧に手をかけて作る。 味付けも繊細で中身によってちゃんと変えてあるし、種類もはるかに豊富だ。 そして何よりも最後にパンの耳をきちんと切り落とすところが凄いところだ。 あれこそ日本人の優しさの表れだと信じている。 試しに耳を切り落としたサンドイッチとそうでないのとを同時に食べくらべてご覧。 僕の言ってる意味がわかるはずだ。
アメリカでサンドイッチをほとんど食べない僕が、日本へ帰ると何度でも食べる。 道端のベンチに腰掛けてサンドイッチをほおばりながら、目の前を川のように流れ動いていく群衆を眺めるのが好きだ。

(続)






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