過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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失われた川

lost-river-blognew.jpg

失われた川に巡り会った日
Springfield, Ohio USA


そこは瓦礫 (がれき) の海だった。
フットボールのフィールドを2つも3つも並べたほどの果てしなく広大な場所に、自動車の死骸の、考えられる限りのありとあらゆる破片が、すべての秩序や規律を無視して投げ込まれているメタルの墓場だった。 その光景は僕に、いつか映画で見た、何百という兵士の死体が散らばった悲惨な戦場を思い出させた。

その戦場の真っ只中を歩きまわっていた僕がふと気がつくと、強い西日を浴びて白く光るものが眼に入った。 近寄ってみるとそれは、醜く折れ曲がったバンパーに貼りつけられたスティッカーで、それには 『失われた川を見つけた』 と書かれてある。 そしてそのスティッカーは、瓦礫の海の暗い波間に漂う発光魚のように、ひっそりと光りを放っていた。
『失われた川』 とは何だろう? と考える。

それは何かしらとても大切なもの。 一度は自分が持っていて、失ってはならないものなのになぜか長いあいだ見つけることのできなかったもの。 かつては自分の心の中に勢いよく流れていた清流なのに、いつのまにか涸(か)らしてしまい、 もう二度と見ることはないと思っていたもの。

そんなもののような気がした。
そして 『失われた川を見つけた』 とは、長い旅路の果てに、ようやくその川に巡り会えたのだ。
ところが巡り会えたそのときには、その川はすでにこうして 「死の海」 に注ぎ込んでいた。
僕は呆然とそこに立ちすくんで、何十年先の自分の死骸を見ているような気がしていた。

****

ずっとあとになって、そう、この写真を撮ってから29年以上も経って、僕がインターネットで 『失われた川』 を検索してみたことがあった。 検索の結果を見てがっかりしてしまった。

『失われた川 を求めて~渋谷川(渋谷から表参道まで)~ 』
『タモリさんの「 失われた川 」 - お気に入り:livedoor Blog』
『失われた 「 川 」を求めて - 大阪市内さんぽガイド』

ちがう! 『失われた川』 とはそんなものじゃない。 もっと深い意味があるはずだ。
次に 「ランダムハウス英和大辞典」 を引いてみる。

"Lost River" (米語)
     「末なし川:乾燥地帯などの地下水路や下水溝に流れ込んでいく川.」

これもがっかり。

この写真を撮ったときに僕が感じていた 『失われた川』 はどうも僕だけの川だったようである。

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コメント:

*

この写真を撮ったときにSeptember30さんが感じていた気持ちは、今はもうなくなっているのですよね。
だとしたら、安心です。
この写真とSeptember30さんの文章を読んだ時に、私はなぜだか涙が溢れたのです。
もしかしたら、これ、私かもしれない、って思えたのです...。
怖いことです。
2011/01/09 [けろっぴURL #ok7oinrE [編集] 

* 私は

この瓦礫の中をさまよっているseptember30さんの姿が目に浮かびました。瓦礫だとか、廃墟だとかに私自身には抵抗はありません、なぜなら誰かに捨てられた「もの」の前を考えるのが好きなのです。

ただ失われたものには強い後悔を持ちます。
自分にとってたいした意味が無かったかもしれない物も失われただけで、強い意味を持ってしまうのです。
なので失われたものは私にとって、とても危険です。


2011/01/09 [inei-reisanURL #rayiHRxo [編集] 

* Re: No title

けろっぴさん、そうです。現在はもうこの気持ちはないと思うのです。
なぜそうなのか? たぶん、私にとってはブログを始めたことではないでしょうか。ブログを書いてこの記事のように昔の自分に帰ってみることによって、ずっと昔になくしたと思っていたものを探し出すことができたのでは、と思います。(私は古い写真アルバムなど全部失くしてしまいました)
けろっぴさんもご自分の古い写真や日記や手紙などをもう一度訪ねてみて、そのときの自分と現在の自分とのあいだにいったい何があったのか、とゆっくり考えてみたらどうでしょう。

2011/01/10 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: 私は

inei-reisan さん、私はいつも瓦礫だとか廃墟だとか死んだ樹々ばかりの風景だとか、閉鎖された工場だとか、捨てられた玩具だとか、に惹かれるのですが、それがなぜかと考えてみたことはありませんでした。
『捨てられた「もの」の前を考える』と、inei-reisan さんに言われてみてそれが解ったような気がします。

また、自分が失ったものは何だったのか? を自覚できるひとは多くないです。


2011/01/10 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

*

洞察力に優れたSeptember30さんの貴重なご意見、ありがとうございます。
私も、なくしたと思っていたものを探しだせたらいいなぁと思います。
過去の自分の思いに、現在の自分が寄り添ってみる、ということをしてみたいと思います。
たしかに、なにか見つかるような気がします。
2011/01/10 [けろっぴURL #ok7oinrE [編集] 

*

かつてシルクロードにロプノールという湖がありました。井上靖の楼蘭という小説にもでてきます。
ここに流れ込む川はあっても流れ出す川はありません。また何年周期かで場所を移動する湖でもあって、さまよえる湖とも呼ばれました。いまはどうやら無いようです。
ワタシはこれを思い出しました。
いつかこのほとりに立ってみたいと思ってます。

2011/01/10 [上海狂人] URL #wuZV7DPc [編集] 

* Re: No title

けろっぴさん、そうしてみてください。
いろいろな困難な道を歩いて来られたけろっぴさんは、きっとご自分が思っているよりずっと強い人間なのだということを疑いません。
2011/01/11 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

上海狂人さん、実はつい先日友人とこの話をしたばかりだったのです。
私は小説を読んだ記憶がないのですが、ぜひこの本を手に入れてみたいと思っています。
中国に長かった上海狂人さんにはことさら身近に感じられる話でしょう。
2011/01/11 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

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