過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

Profile

September30

Author:September30

Visitors Counter

Search form

パリのメトロ

T01paris10b-blognew.jpg

凝視
Paris, France



パリの街を歩いていて時々ギョッとするのは、女性の大胆な下着すがたやほとんどヌードに近い広告写真のポスターが、目抜き通りのあちこちに堂々とかかっているのを目にした事だった。 ポスターだけではなく、ビルボードやビルの壁一面に張られた巨大な広告から、薄い下着を魅力的な肢体に着けた魅力的な女が、下に流れる群集を見下ろしているのは僕の住むアメリカでは見ることのない光景だった。
日本はもちろんのこと、同じヨーロッパのイタリアやスペインでもここまで大胆なものは見た覚えがない。 ミラノのような、町中が化粧品や衣料品の広告に埋められた、世界のファッションの本拠地でさえも、ヌードだけはなかったと思う。

その年、パリで僕らが滞在していた小さなホテルは、メトロの “Les Gobelins” の駅のすぐそばにあってとても便利の良い場所だった。 毎日のようにそのメトロの階段を下りるたびに、いやでもこの全裸の女性のローションの広告が目に入った。 いやらしさはまったく無いし、化粧品の宣伝としてむしろ洗練されたものだったが、その広告につい僕の目が行ってしまうのは、これは自分の中にある「男性」が無意識に呼び起こされているのだろう、と苦笑をしてしまう。 もちろん広告のスポンサーの狙いもそこにあったのにちがいない。 これがもし赤ん坊だとか犬の写真だったらたぶんちがっていただろうから。

この広告を背景にして何か面白い写真が撮れないものか、と考えてみる。 まず頭に浮かんできたのは、性に目覚めはじめた小学生の男の子でも通りかかって、(昔自分がそうであったように) 美しい女性の裸体をそれとなく盗み見しているところなんか絵になるんじゃないか、と考えた。 そこで僕は向かいのプラットフォームのベンチに陣取り、カメラをかまえて 「何か」 が起こるのを待つことにした。
僕はそこに、たぶん1時間以上も座っていたと思う。 そのあいだに数知れず雑多な人々がこの広告の前を横切った。 かんじんの小学生のグループも何回か通りかかった。 ところが期待に反して、誰一人として、タダの一人として、この魅惑的な女性の裸身に注意さえ払う子供はいなくて、彼女は完璧に無視されてしまっていた。 その前で立ち止まったのはむしろ数人の若い女性でたぶん 「このローション、一度使ってみようかしら」 などと考えていたのかもしれない。

すっかり失望した僕が、カメラを片付けようとしていてふと顔を上げると、いつのまにか一人の中年の男がそこにいた。 その男は裸像の前に立って食い入るように女性の裸体を凝視していた。 (彼はちらっと盗み見るというような謙虚さをまったく持っていなかった)。 僕は何も考えず夢中でシャッターを切り続けたが、その数枚のショットは寸分もちがわない画面になったはずだ。 なぜなら男はそのあいだ微動だにしないでそこに立ち続けていたから。
しばらくしてようやく振り向いた男の顔を見ると、それは僕らの同行のひとりのKさんだったのだ。

Kさんはもちろんアメリカ人である。



裸体は露出にすぎないがヌードは表現なのだ。
ヌードとは裸になることではなくて、
一種の衣服を着けることである。
John Berger


にほんブログ村 写真ブログ モノクロ写真へ
スポンサーサイト

コメント:

*

こんばんは。
ローマの下町のピッツェリアでおじさんに”ねえちゃん、いいケツしてるね。”とからかわれたことがありますが、日本でもてはやされる小尻とはとても言い難い私のお尻でも、褒められる(需要がある)ことがあるのかと、世界の美意識の多様性を感じた一件でした。
ラテン系の人は胸よりお尻を重要視するようです。
子孫繁栄ですね。
2011/01/19 [micio] URL #O/XG6wUc [編集] 

* Re: No title

Micio さん、こんばんは。
それとまったく同じ話をドイツ在住の日本人女性から聞いたことがあります。
また南米から来ていた友人(男性)も女性はお尻だと明言していました。
アメリカではどうなのなかと考えたのですが、これがどうもよくわかりません。
そういうことを女性に向かってアケスケに褒めたりしないので、この記事のKさんもどの部分を凝視していたのか私にはわかりません。(笑)
2011/01/19 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

*

このKさん、チラ見しないで凝視しているところが、素直で好感が持てます。
後姿からでは見えない彼の表情を想像すると、いつまでも退屈しなさそうです。(笑)
2011/01/20 [fumie] URL #LGP0CJfA [編集] 

* Re: No title

Fumie さん、
あとでこの写真を見たKさんの奥さんが、
「まあ・・・!? 男ってしょうがない動物ね」と苦笑をしていました。
まわりにいたみんなが大笑いです。彼らの二人の息子も含めて・・・
2011/01/20 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

*

私は女ですが、この背中にはみとれます。
しなうような長い背中、美しいです。
男はちょっとゆるんだ体の方が好みです(笑)
2011/01/20 [ムー] URL #qiVfkayw [編集] 

* 話の最後を読んで

思わず笑ってしまいました。パリには大きな広告がたくさんあって、私の背の高さだと全体が見えないときもありましたね、そういえば。でもメトロの中からも気になる広告が結構あり、電車の中でのあれはなんだったんだろうと気になったものでした。
2011/01/20 [inei-reisan] URL #pNQOf01M [編集] 

* Re: No title

ムーさん、よかった!
私はちょっとゆるんだ体の持ち主です。(笑)
2011/01/21 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: 話の最後を読んで

inei-reisan さんが気になる広告とは何だったのでしょう?
センスが良くてインパクトのある広告はついつい見てしまいますよね。
アメリカの広告は日本やヨーロッパにくらべると、その点でレベルがいくつか下がるようです。
2011/01/21 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

コメントの投稿

:
:
:
:
:

:
: ブログ管理者以外には非公開コメント

トラックバック:

>>>> http://blog1942.blog132.fc2.com/tb.php/110-3e68d3ae
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)