過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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てんとう虫の話

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Ladybug (てんとう虫
Oakwood, Ohio USA



僕には人間の友達はそんなに数が多くないのに、動物にはなぜか好かれるらしく (人間には嫌われるという意味ではない。 念のため)、あちこちに動物の友達を持っている。
たとえば、バイクに乗っていつも通る近所の家の、ゴールデン・リトリーバーの犬がそうだ。 広大な庭のどこにいても遠くから僕を見つけてワンと短く吠えて疾走してくると、木柵の内側に両手をかけて尻尾をちぎれるように振りながら僕を待っている。 僕はバイクをそこで止めると、「いい子だ、いい子だねえ」 と言いながら手を伸ばして彼女の(そう雌犬なのだ) 頭や首すじや背中を撫ぜながら目を見つめ合っていると、お互いの気持ちが暖かく通じ合うのを感じる。 ある時、そこにいわせた犬のオーナーの若い女性に名前を尋ねると (もちろんオーナーの名前ではなくて犬の) イヴァだと教えてくれた。
「今度イヴァにビスケットをあげてもいいですか?」 と僕が訊くと
「もちろん構わないわ。でもいつもあなたが通るのを待っているのに、そんなことをしたらこの子ますますあなたに夢中になるんじゃないかしら」 と笑って答えた。
それからはバイクに乗るたびに、ピスケットを1個ポケットに入れて出かける習慣になった。それでイヴァと僕の交友はますます緊密になっていった。 ときどき彼女の姿を見かけないことがある。 おそらく屋敷の中に入っているか、散歩に行っているかだろう。 そんな時、僕はデートにすっぽかされた若者のような失望感を感じてしまうのである。

それ以外の動物の友達では、いちばん長い付き合いはこのてんとう虫 (ladybug) の佐伯さんだった。
佐伯さんが我が家の同居人になってからもう2年以上は経っている。 なぜ、この2ミリもない小さな虫が佐伯さんかというと・・・
むかし学生時代のフランス語のクラスに佐伯さんという、双葉かどこからか来たすごく上品で楚々としたお嬢さんの女子学生がいた。 胸元にフリルのついた白いブラウスにタイトスカート、というような服装で大学に来ていたその佐伯さんを、僕はあるときデートに誘いだすことに成功して、いっしょに新宿御苑の桜を見に行ったことがある。 うららかな春の日曜の朝に僕の前に現われた佐伯さんは、学校で見るおとなしくてシックなお嬢さんとはまったく別人だった。
濃いめの化粧、鼻をくすぐる香水の香り、踵(かかと) のうんと高い靴(そのため僕よりもすこし背が高くなっていた)。 そのうえパラシュートのように裾の大きく広がった艶(あで) やかなスカート姿で、(その下に、ペチコートなるものを着けていたのだとは後年になって学んだ) その燃えるような真っ赤なスカートにはテニスボール大の無数の黒点が散らばっていた。 あっと驚いた僕はすっかりドギマギしてしまった。 並んで歩きながらいろんな話をしたそのデートはとても楽しかったけど、それ以来てんとう虫を見るとあの日の佐伯さんを思いだすのである。 (佐伯さんは大学を卒業するのを待ちかねたようにかなり年上の外交官と見合い結婚をして、ベルギーに行ってしまった)

その佐伯さんがいつの頃からか夜になると僕の机の上に現われるようになり、一晩中あちこちを歩き回る。 重い本を置いたりするときに、彼女を潰してしまわないように気を使わなければならなかった。 何日も、あるいは何週間も姿を見ないかと思うと、ある夜に突然飛んで来て僕のシャツの胸に留まったりする。 家族に言わせると、いつも同じてんとう虫だとは限らないと異議を唱えるけれど、1匹以上を同時に見たことがただの一度もないので、我が家には佐伯さんだけが生息していることに僕はかなりの確信を持っている。 そしてもう2年以上も、机に向かう僕の良き相棒を務めてくれているのだった。

きのうの朝のこと、シャワーを浴びていてふと気がつくと、シャワーカーテンの内側に佐伯さんがポツンととまっている。 考えてみるともう何ヶ月か彼女を見ていなかった。 彼女を水で流してしまわないように注意深くシャワーを終えた僕は、指先に佐伯さんを拾うと、サンルームの明るい光の中に布をおいて、その上に彼女をそっと放す。 そして彼女の写真を撮った。
いつもなら、その小さな体にしては驚くほどの速度で歩き回る佐伯さんが、箱の上に布を敷いた急造のスタジオでじっと身動きすることなくカメラに収まった。 最初の試みに失敗して(マクロなので手ブレしてしまった)、1時間ほどしてまたサンルームに戻ってみると、僕の失敗を見抜いていたかのように、彼女は前の位置から動かないで待っている。 今度は三脚を使って撮りなおした中の1枚がこの写真となった。
そのあと夜になってから、ふと気がついてサンルームを覗いてみたら、佐伯さんはもうそこにはいなかった。


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コメント:

*

てんとう虫がお友達? 何とも可愛らしいお話、
Septemberさんの違う一面を見るようで、
思わずほくそ笑んでしまいます^^

てんとう虫って、一匹で生きられるものなのでしょうか?
悪い虫を食べてくれるので、家の中の観葉植物などが
宿になっているのでしょうか?
いずれにしても、良いお友達がいて羨ましいです♪
2011/02/03 [bluemillefeuilleURL #Xlf.8pIU [編集] 

* Re: No title

Hanaさん、調べてみると、てんとう虫は冬でも戸外で生き延びる力があるのですが、寿命はふつう1~2年だそうです。
この次に佐伯さんを見なくなったら、もう会えないと思ったほうがいいのでしょう。
良いときに写真を撮りました。
ホンモノの佐伯さんは今頃どんなおばあちゃんになっているのでしょうね。
2011/02/03 [September30URL #- 

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