過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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祖国ということ

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障子と階段
鳥取民芸美術館


今回の大震災とそれに続く原子力発電所の事故ほど、僕を揺すぶったものはなかった。
地震はもちろん予期せずに襲ってきたのだけれど、それを遠くアメリカから眺めるだけしかなかった僕の反応は、自分でもまったく予想していなかったほど強かった。 アメリカ人たちにとっては対岸の火事でしかなかったのに、僕は自分の家が燃え続けている実感に襲われていた。

20代のころ、こせこせした島国の日本に見切りをつけてアメリカに渡り、新世界で水に帰った魚のように生き生きとした生活を得た、と思ったのはもう40年も昔のことである。 それからいろいろな事があった。 そした長いあいだ、僕は祖国を失った異邦人として生きてきたような気がする。

異変が起こったのはほんの数年前のことだったと思う。 その時僕はアメリカの市民権をとるべく膨大な数の書類をそろえていた。 僕のまわりにはとっくの昔に市民権を取得した日本人が多くいて、宙ぶらりんな永住権だけを持ってアメリカで長く生活をしている僕をいつも不思議そうな目でみていたようだ。 僕が長いあいだ市民権の事を真剣に考えなかったのは特に理由があったわけではなく、そのための煩雑な手続きを考えるたびに、生来の面倒なことを嫌う性格が頭をもたげてきて、いつもつい放っておいた、ただそれだけのことだった。
今の僕の年齢なら市民権は比較的簡単にとることができる。 それで僕はようやく必要な書類をインターネットからプリントをしたりして、手続きを始める事にしたのだった。

書類を全部そろえて送り出してしまうと、あとは移民局からの呼び出しを待つだけである。 数週間たってシンシナティの移民局から連絡が入り、面接の日取りが決められていた。 面接の当日、シンシナティまで1時間ばかりの距離を僕は車を運転しながら、今自分がやろうとしていることを改めて考えていた。

日本人でなくなってしまう・・・・

それは耐え切れないほど悲しいことのように思えた。 若いとき、あれほど嫌ったり避けたりしていた日本や日本人なのに、この悲しみはどこからくるのだろう? 長いあいだ僕を優しく受けとめてくれたこのアメリカには感謝も親愛も感じているのはまちがいがない。 そのアメリカ人に今これからなろうとしている。 しかし僕が最近になって強く自覚していたのは、自分が日本人であることの秘かな誇りのようなものを、僕はいつも持っていた、ということだった。 こうやって長いあいだ異邦の地で暮らすことができたのは、日本という帰るべき祖国があったからだ。 その祖国を、僕は捨てることができるのか?

深いため息が出た。
(おれは結局、どうしようもなく日本人だったんだ)
僕はハイウェイの次の出口を下りると、家に向かって引き返していた。

・・・

そして今回の東北大震災。 それに続く原発の恐ろしい事故。
僕はうろたえてしまった。
あの懐かしい日本の山河が消えてしまう。 帰るべき故郷(ふるさと) がなくなる。
「障子と階段」 の美しい国が壊滅する。
祖国を失う。
(そんなことになったら、おれはどうすればいいのだ?)

祖国日本よ
どうか立ち直ってくれ。



マッチ擦る
つかの間海に霧深し
身捨つるほどの祖国はありや
寺山 修司



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コメント:

*

米大使ツイート「日本当局が事態を近接に監視し情報を一般公開することを想定します」←信用されていません。

米大使、日本政府発表(をまったく無視)じゃなくてIAEA発表を参考にしているようですね。広報や透明性に関しては米政府と米軍から学ぶことが多いです。震災後、ソーシャルメディアやサイトで分かりやすく、明瞭なメッセージを細かく発信。米市民がどれだけ安心することでしょうか。(しかし何故こういう情報を得るのに外国に頼らなくてはならないのでしょうか。私は中国に住んでいるのでしょうか。)
プロの広報訓練を受けた人が担当するからうまくいくのでしょう。日本ではそんな訓練を受けた人はいません。

日本人も外国で通用するスキル(語学力含む)を持って、変化に対応できる柔軟さと何処でも生活できる(移住も視野に入れて)フットワークの軽さを持たなくては生き延びて行けないのではないでしょうか。
という話をしたら、怒られたのを思い出しました。(怒るのは大体中年男性)

日本移民が劇場建設とかさとうきび畑労働とかに従事する時代が再来するのかもしれません・・・・。
2011/03/26 [micio] URL #O/XG6wUc [編集] 

* Re: No title

micio さん、日本人自体があらためて「日本人とは何なのか?」 という命題を考える最良の機会が、このような最悪の状態でしか浮かび上がらないのは悲しいことです。
micio さんの云うように、日本人はもっと外国に出かけていって、名所旧跡まわりやショッピング以上のものを見て欲しいですね。それで初めて自分なりの3D 的なものの見方ができるようになるのでは、と私は思います。
そのためには私のように四十年も外国に住む必用はないのです。
2011/03/26 [september30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 寺山修司

一本の樫の木やさしそのなかに血は立ったまま眠れるものを
人生はただ一問の質問にすぎぬと書けば二月のかもめ

今日の文章、心に沁みました。
いつかこの現実が収束してseptemberさんが戻るべき祖国が甦りますように。
私もその日を心待ちにしています。
2011/03/26 [みん] URL #6moyDOY6 [編集] 

*

この時ほど遠きにありて祖国を思うことがくやしく思うことはありませんでした。
2011/03/26 [上海狂人] URL #wuZV7DPc [編集] 

*

山も河も人も祖国はちゃんとあります。
今は荒れていますが大丈夫。
外から見た日本がどうであれseptennber30さんの居場所は無くなりません。
たとえば今東京は怖いと西の方又は外国へ出てしまう人が居ますが、
それはそれでいいんです。
旅から帰るように帰って来ればいい。
祖国とはそういうものです。
2011/03/26 [ムー] URL #qiVfkayw [編集] 

* 外から見る

私たちの国は、私たちしかみえてこないのかも知れませんが、今回の祖国の見え方も辛く感じます。
また年代が違えど、祖国と呼べることがなんだか変な感じもします。
日本の文化、いろいろ大事だったものがなんだか私の中で誇張されてきた気もしていているのです。
もっと自分を捨ててまっさらに物を見る必要があるようです。
2011/03/27 [inei-reisanURL #rayiHRxo [編集] 

*

形はどうあれ、祖国というのは心の中に
あるものなのではないでしょうか。
今日のseptemberさんにはこれをお送りします。
http://kizuna311.com/
2011/03/27 [bluemillefeuilleURL #Xlf.8pIU [編集] 

* Re: 寺山修司

みんさん、寺山修司の短歌は高校のころに愛読しました。彼が天井桟敷とかいろんなことを始める前の、彼にとってもまだ人生が何なのかそんなにわかっていたとは思えない年齢で詠んでいるのに、それが自分がこの歳になって改めて身に沁みるように感じています。
ありがとう。

いつか日本で会いましょうね。
2011/03/27 [september30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

上海狂人さん、このような同胞感というのは、愛国心の強いアメリカ人にも理解できないでしょうね。東欧の多数の小国の国民にはきっと分かるのでしょう。
2011/03/27 [september30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

ムーさんの言葉に血のつながる同士の強い愛情を感じます。自分は独りではないのだとあらためて自覚ししています。
ありがとう。
2011/03/27 [september30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: 外から見る

inei-reisan さん、昔から長いあいだ「祖国」などという言葉は私にとっては、政治的な匂いもして何か古臭くておおげさな雰囲気をまとっていたのに、今ほど自分の気持ちにぴったりと感じたことはありませんでした。新しい世代の人たちには笑われるかもしれませんが、彼らもまた、いつかその意味を痛感する時が来るのだと思います。
2011/03/27 [september30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

hana さんはきっと正しいと思います。たとえ私が市民権を取ってアメリカ人となっていても、祖国日本は私の心から失われる事はなかったかもしれません。でも後悔はしていないのです。
それに何よりも、日本国の赤いパスポートの方がアメリカの青いのよりも私はすきだから。(笑)

「雨にもまけず」は私のこころに沁みました。
ありがとう。
2011/03/27 [september30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 忌野清志郎

septemberさん
http://www.youtube.com/watch?v=v5Hxt2CsNp8&feature=fvwrel
http://www.youtube.com/watch?v=MIbrxhv_s_M&feature=related
忌野清志郎が最後に、長生きしてえな~と歌って、その清志郎は昨年、癌で亡くなりました。
(私は二年前、彼の出ているジョンレノンスーパーライブで彼の曲を聴きました。そのときには、まさかこんな日が来るとは、気づいていませんでした。)
86年がチェルノブイリ、この曲が88年、とうとう現実になってしまいましたね。
川端さんのブログにあった平井さんのお話、震撼とするお話ですがこれを読むと、ずっと昔から引かれていたレールの上を私たち人類は無自覚に歩き続けているのかもしれません。たまたま、日本で起きただけで、もう全地球的なレベルの問題であると気付かされます。
でも、確実に今の私を含めた大人全体が、次の世代、次の次の世代に押し付けた責任を負わなくてはなりません。
2011/03/27 [みん] URL #6moyDOY6 [編集] 

* テラヤマ

septemberさん、わたしの寺山修司は高田馬場の小劇場で天井桟敷の公演に行ったとき、狭い階段を上がる途中、ふと見上げるとストライプのスーツを着た見覚えのあるあの眼が目の前にあって、こちらをじっと見ているのです。でも、彼が本当に見ているのは私の後ろのずっと遠くの何かだったのを思い出します。その寺山修司も亡くなって、もうずいぶんと時間が経ってしまいました。でも、体は無くなっても、短歌は残ります。こんな時代こそ、大切な気持ちを湛えたまま。

2011/03/27 [みん] URL #6moyDOY6 [編集] 

*

私も今回の天災と原発の事故にまるで自分の家が燃えてしまったような大きな動揺と衝撃を感じました。未だに心は硬くなったままです。何時かまたいつもの自分に戻れること、それ以上に自分の国が昔のような平和でゆったり、そんな風にもどれることを心から望んでいます。市民権に関しては色んな考え方があるでしょう。私はやはり日本人というタイトルを出来るだけ長く手元においておきたいのです。
2011/03/27 [yspringmindURL #- 

* Re: 忌野清志郎

みんさん、忌野清志郎は予言的な唄を歌って、予言的に自分も死んだのですね。
反戦とか反核をもろにアートに呼び込むのは私の好むところではないのですが、たぶん世代の違いなのでしょう。私はジョン・バエズの反戦フォークに生きた世代なのです。叫ばないで語る続ける、という・・・
それにしてもこの2番目の曲は迫力がありますね。
2011/03/28 [september30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: テラヤマ

みんさん、私が60年代に覚えている天井桟敷のポスターはあれはたしか横尾忠則の作ではなかったのでしょうか。なぜかそんな気がします。それとも東大駒場祭の「背(せな)のイチョウが泣いている」 というのとごっちゃになっているのかな。
いずれにしろ、あのころを最後に私は日本を出てしまったのです。
2011/03/28 [september30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

yspringmind さん、イタリアはアメリカと違っていわゆる Dual Citizenship (二重国籍)を認めているのかどうか私は知りませんが、そうだといいですね。
2011/03/28 [september30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

ああ、なつかしいですね、そうです、横尾忠則のポスターです。

前出の「原発がどんなものか知ってほしい」平井憲夫さんのサイト 私は友人に送ってもらいました。川端さんも紹介していますが、ここに直接ご紹介します。私には一番ショックでしたが、もう顔をそむけるべきではないと思うので。
http://www.iam-t.jp/HIRAI/index.html
2011/03/28 [みん] URL #6moyDOY6 [編集] 

* Re: No title

みんさん、この平井さんの記事は衝撃でした。
こんな事実を知っている日本人がはたして何人いるのか?
書かれたのはずっと前なんですよね。
福島の原発もあちこちに出てきていて、もう亡くなられているのにまるでピッタリと予言をしたみたいです。
2011/03/29 [september30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

初めてコメントさせていただきます。
エキサイトブログのころから通って愛読させていただいておりますm(_ _)m

今回の大震災とそれに続く福島原発の惨事は、関西に住む東京人である私にも、衝撃的でした。
関東以北にしか身内がいないので…帰る故郷を喪失するような恐怖とやるせなさを感じさせます。
特に原発の崩壊は、この先には絶望しかないと思ってしまい、日に日に壊れゆく原子炉建屋をみては身もだえしています。

【原発がどんなものか知ってほしい】の内容の真偽についてはこちらのサイトが詳しいです。
※悪意からの精査ではなく、ネット上に公開する文書では、誤解をまねく表現気や誇張は慎むべきという観点からの検証です。
http://www.faireal.net/articles/6/12/#d20903

今は情報過多の時代でもあります。
ネット上に公開された情報や文書が全て「正しい」とは限らないのも、恐ろしいことです。
2011/03/31 [nicoURL #KqigePfw [編集] 

* Re: No title

nico さん、初めまして。
文章の力というのはとても強いと思います。人から話で聞くよりも、同じことを文章で読むと無条件で信じてしまうという癖は誰しも経験のあることではないでしょうか。私の性癖としては常にある程度差し引いて自分の中に吸収するということをしているようですが、それが今回の原発に関しての様々なニュースや記事や解説を読んでいて感じたのは、ことの内容が「核」という自分にまったく知識のない分野だけに、自分なりの判断を下すのが非常に難しかったということでした。知らない世界のことだから疑いようがないわけですね。どこまで信じていいのかその基準さえも持たない自分だと痛感したようです。
nico さんの示されたサイトを読んで、すべての物事は必ず多面性を持っているのとあらためて感じました。
ありがとうございました。

これからもよろしくお願いします。
2011/03/31 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

こんにちは。
私のブログでも「原発がどんなものか知ってほしい」へのリンクを出しているのですが、「nico」さまに教えて頂いたリンク先の文章を読ませて頂きました。確かに個人の考えをだすブログとはいえ、偏った情報が出るのは特に今回のような状況では良くないと思います。
ということで、上のサイトへのリンクを私のところでもお知らせしたいと思うのですが、よろしいでしょうか?
2011/03/31 [川越URL #uvrEXygI [編集] 

* Re: No title

川越さん、もちろんです。知らせてあげてください。
情報というものはどれが正しいかはほとんどの人にはわからないとすれば、できるだけ多くの情報を得て、それをもとに自分なりに判断するしかありませんから。
2011/03/31 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

>September30さま

ありがとうございました。早速リンクを張らせて頂きました。
2011/03/31 [川越URL #uvrEXygI [編集] 

*

September30さん、nico さん、川越さん、正直、ほっとしました。現状はほっと出来る状態ではないのかも知れませんが、とにかく、反論してほしかったので。ありがとうございます。自分の目で見て、読んで、判断しつづけないと、すぐ暗闇に迷い込んでしまいそうな現実ですから。

2011/03/31 [みん] URL #6moyDOY6 [編集] 

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