過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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ヨーロッパで珍しく旨い中華を食べた話

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うん、これはおもしろそうだ
Via Indipendenza, Bologna, Italy


ボローニャの旧市街のど真ん中を、南北に走る主要道路がインディペンデンツァ通りである。
通りの両側にはびっちりと商店が立ち並び、長いポルティコの下を雑多な人々が行き交う。 気をつけて見ると若い世代の人が多いのは近くにボローニャ大学のあるせいだろうか。 この大学は開設されたのが1088年という、何しろ文句なしに世界最古の大学なのである。 日本では平安朝の中期に当たり 『源氏物語』 が書かれたのとほぼ同じ時期に、ここではイタリア中から集まったエリート学生たちが医学や哲学や宗教学の知識を追求していたのだ。

賑やかなインディペンデンツァ通りから、ふいとそれて無数にある横道に入ると、とたんに人通りが少なくなり、そこにもカフェやリストランテが林立している。 そんな中に1軒の中華料理の店を見つけて、ランチを取ろうとそこへ入ってみることにする。 だいたい、ヨーロッパで食べる日本食や中華料理をおいしいと思ったことが一度もない。 ヨーロッパまで来てそんなものを食べなければいいのに、と思いながらも、長く逗留しているうちにどうしても恋しくなってつい何度も失敗を繰り返してしまった。 だから今回もあまり期待をしないようにと自分に言い聞かせながらドアを開けた。

席に案内されてメニューを開く。 品書きはとくにユニークなものがあるわけでもなくて、この手の中華料理店ではどこにでもありそうな料理が並んでいた。 注文しようといているところへ、オーナーらしい中国人の老人が出てきて、英語を話さない彼と、カタコトのイタリア語をしゃべる僕との間にイタリア語の会話が始まった。 お前は何人だ、と老人が最初に訊いてきた。 僕が日本人だと判ると彼の顔がほころんだ。 ここには日本人の客はほとんどないそうだ。 日本人だけど実は生まれたのは中国なんだと僕が告げると、彼はおおーそうか、という風に嬉しそうに頷いた。 ワインリストから適当にボトルを選んで注文すると、それよりもっと良いものがある、といってリストにはない取って置きのワインを出してくれたり、注文もしないのに、当店自慢の品だ、と言って大きな鉢に入った卵と海鮮のスープが出てきたりした。 そして何よりも嬉しかったのは、出てきた料理がすべてびっくりするほど良い味だったことである。 どちらかというと控えめな味付けに素材の風味が生きていて、揚げたものも炒めたものも油気がほとんどない、大人向きの洗練された味だった。 こんな美味しい中華にはパリでもロザンナでもバルセロナでもお目にかからなかった。 

勘定を払う時になって、出てきた鉛筆書きのビルを見ると総計が驚くほど少ない。 怪訝そうな顔をして見上げる僕に店のオーナーが言った。
「ワインとスープは "No pagare" (無料) だよ」

***

ボローニャを基点にして車であちこちを走り回ったこの旅で、もう一度この店へ行きたいと思いながら、それが果たせなかったことが残念だ。 今では、店の名前も場所も忘れてしまっているのに、彼の言った言葉だけが残っている。
「日本人と中国人は昔いろいろあって仲が悪かった時代もあったけど、今はそんな事はないよね。 そうでしょう?   今はそんな事はないよね」




ひとりの女に忠誠であるよりも
一軒のレストランに忠誠であるほうがずっと易しい。
フェデリコ・フェリーニ



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コメント:

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物事に期待などしないわけなどないと言い聞かせながら
その落胆予測をあっさりとひっくりかえされるとそれが小さなことであってもものすごく嬉しい。だから期待をしないことが生きていく術なんだよと私に語った成功している社長さんが言いました。私はまだその方の境地に入り口までも入れません。
2011/04/30 [kp] URL #- 

*

よく中国人はずるいとか人をだますとか言われますが、それは中国人同士でもあること。一度できた信頼関係は、日本人のそれより強固です。だからワタシは中国にがっかりすることはあっても絶望は感じていないのです。
2011/04/30 [上海狂人] URL #wuZV7DPc [編集] 

* Re: No title

kp さん、結果がよく出る事を期待してしまうのは人間の自然な気持ちだから、それを抑える事はできません。ただ、そのあとで、いやいやこれは期待しないで結果をまとう、と考えられるようには私もどうやらできるようになったようです。一種の自己防御ですね。
2011/04/30 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

上海狂人さん、私は自分が中国で生まれていながら、振り返ると中国人とはまったく接触の無い人生を私は送ってきたようです。最近、周りからいろいろな話を聞かされるたびに、上海狂人さんのように、自分の眼で見て自分なりに判断をしている人たちがどれくらいいるのだろうか、と思ってしまいます。
2011/04/30 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

こんにちは。この中華料理店、一体何処なんでしょう。一度足を運んでみたいものです。
ところで今日の写真のタイトルの、うん、これはおもしろそうだ、とは写真の中の犬の声なのでしょうか。だってほら、犬がじっと見つめながら独り言を言っているみたいに見えますから。
2011/05/01 [yspringmindURL #UOM.WK7I [編集] 

*

日本に帰ってきてから中華料理を食べ過ぎて太ってしまいました。
今ならフェリーニの映画のオーディションを受けても、一発で合格するのではないかと思われます。
2011/05/01 [micio] URL #O/XG6wUc [編集] 

* Re: No title

yspringmind さんと会っていっしょにワインを飲んだあの “Swinebar" ? と同じ通りだったような気がするし、でもあれは Via Indipendenza の東側でしたよね。たしかこの中華料理店は西側だったような気もするのです。何度も地図を見て思い出そうとするのですがだめです。あの界隈で中華料理屋を数軒通り過ぎたのは覚えているのですが・・・

犬が見ているのは拡大してみるとスペイン語の学習キットのようです。
2011/05/02 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

micio さん、ああ、日本の中華料理が食べたい!
横浜の野毛あたりの怪しげな店や、ホテル・オークラの上で食べたかなり気取った中華など、思い出は尽きません。

2011/05/02 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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