過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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南の島から

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2億年目の死
Hilton Head Island, South Carolina USA


アメリカ中西部という海の無い場所に永く住んでいると、「海を見たい」 という衝動に時々襲われる。 その衝動は 「故郷へ帰りたい」 という気持ちに似ているし、「幼馴染みの友に会いたい」 という懐かしさに近い。 日常の生活の中でそんなことをいつも思っているわけではないけれど、時おりふっと胸をかすめるそんな感情は、少しづつ自分の内部に蓄積されていくようで、それがある時強い衝動となって溢れ出てくる。 ちょうど、海の満ち潮が遠くからゆっくりと時間をかけて海岸を満たすように。

そんな時にアメリカ南部に住む友人が2年ぶりに遊びに来ないか、と声をかけてくれたので、僕は一も二も無く車を12時間運転して、大西洋に浮かぶこの島まで来てしまった。
島といっても大西洋のど真ん中にあるわけではなくて、(それだともっと良かったんだけど)本土のサウス・キャロライナ州とのあいだを長い橋でつながれている大きな島である。 夏になると休暇を過ごす夥しい数の人々で埋まってしまうこの島も、5月末の今はどこへ行ってもひっそりとしていた。 1週間の滞在中、僕は毎日自転車に乗って人気の無い海岸へ出ると、泳いだり歩いたり、砂浜に寝ころんで本を読んだり、そのうちにうとうとと眠ってしまったりして半日を過ごした。 本は、日本の友人が送ってくれた中島敦の 『山月記・李陵』 と井上靖の 『楼蘭』。 どちらも古い中国の話だった。

この海岸で、日本ではもうあまり見られなくなったカブトガニをいやというほど見た。 満ち潮の波打ち際を歩いていると、すぐそこの水面下を無数のカブトガニがすいすいと泳いでいる。 この 「生きる化石」 が2億年生存したあと今は絶滅期に近いといわれているのが嘘のようだった。 そしていくつかのカブトガニの死骸が波に洗われながら、夕日の沈む寸前の赤い斜光に照らされているのを見るのは、さっき読んだばかりの中国の古代の物語とあいまって、悠久な「時」の流れをしみじみと感じさせた。


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コメント:

*

素晴らしい一枚です!今はカリフォルニア州の海沿いに住んでいますが、今週末には夏の始まりなので、人気の少ない海岸を楽しむのも今週いっぱいとなりました。南カリフォルニアの海は年中やけに明るくて、「ひっそりとした」雰囲気はありませんが、それでもシーズンオフには、夏のバカンス期間中とは違った顔を見せてくれると思います。
2011/05/28 [わに] URL #- 

* Re: No title

わにさん、ありがとうございます。
アメリカの中西部に住むようになるまでは、生まれて以来海の無い町に住んだ事は一度もない私です。ボストンでは海岸から50mほどのところにアパートを借りていました。
夏になって湖やプールで泳いでも何となく物足りないのは、鼻にツンと来るあの強い塩の味が無いからですね。 (笑)
2011/05/28 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* はじめまして

素晴らしい写真と文章をありがとうございます。
何時も更新されるのを楽しみに心待ちにしております。

実は僕も先週ボストンへ出張して来ました。
何時もは空港とFraminghamの山の上を往復して終わってしまうのですが
ほぼ一年ぶりなのですが今回は少し時間があったので初めてダウンタウンへ出かけてきました。

しっとりとして落ち着いた実にいい街でした。
2011/05/28 [MasaURL #HfMzn2gY [編集] 

* わあ

本当に素敵な写真です。前の記事のモナを撮った人と同じには思えません。本当にいろいろな顔をお持ちですね。。。
海へ12時間かけていったのですか?長距離運転お疲れ様でした。きっとゆっくり時間をすごして心も体もリラックスしたことでしょうね。
2011/05/28 [inei-reisan] URL #rayiHRxo [編集] 

* Re: はじめまして

Masaさん、はじめまして。いつも読んでいただいてありがとうございます。
ボストンには私は多数の知人友人と思い出を残したまま離れてしまったのですが、最後に訪れたのがもう10年以上も前になってしまいました。近いうちにぜひ帰ってみたいものだと思っています。
2011/05/29 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: わあ

inei-reisanさん、顔は一つなのですが、心はいくつか持っているのかも(笑)
その顔が日に焼けすぎて裏も表も分からないほど真っ黒になって帰ってきました。もっとも友人に言わせれば日焼けではなくて酒焼けだと言います。
2011/05/29 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

南の島と中島敦と井上靖いい組み合わせですね。
ゆったりした時間にぴったりの時間の流れを感じられる小説だと思います。
中島敦は好きな作家ですが難解なので評価が低いので残念です。
2011/05/29 [上海狂人] URL #wuZV7DPc [編集] 

*

写真が何かを語りかけてくるようです。

私もカブトガニを大西洋で初めて見つけた時は、本当に感動したものです。
車も来ない島での生活、いいですね。
子供たちが小さい頃は、毎年夏にとある島の友人のカントリー・ハウスに、合計数週間ずつ滞在させてもらい、September30さんのように、読書三昧をしたりとの、贅沢な時間を過ごさせていただいたのを思い出しました。

また、リンドバーグの夫人であった女性の、”Gift from the Sea" という昔読んだ本のことを思い出しました。
子供を育てた今、この本を読んだら、どんな風に感じるのだろうか、とこの写真を見て思いました。
2011/05/29 [けろっぴ] URL #ok7oinrE [編集] 

* Re: No title

上海狂人さん、井上靖はともかく、中島敦は私は読んだ事がなかったか、読んだ事を忘れていたのか、今読んで改めて感銘を受けました。それに久しぶりに漢字の勉強にもなりました。(笑)

2011/05/30 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

けろっぴさん、この島はリタイアした人たちのコミュニティになっていて、若い世代の人は少ないようです。高価な邸宅が並び、住人たちは終日芝を刈ったり、花をいじったり、ゴルフをしたり、パーティに集まったり、典型的なsuberbiaの生活です。
私には退屈すぎて、ここに一年中住むのは想像できません。でも、裏庭の池にはワニが泳いでいたり、深い林がいたるところにあったり、海は近いし、毎年ここで数週間過ごすのは悪くないと思いました。
それに、何よりも本がたくさん読めそう!
2011/05/30 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

何度でも覗いてしまう、何時までも立ちすくんでしまう、そんな写真ですね。

また写真に呼ばれて、訪れてしまいましたょ。
素敵だと思います。
2011/05/30 [fumie] URL #LGP0CJfA [編集] 

* Re: No title

fumieさん、素敵なコメント、ありがとう。
この写真、最近手に入れた16mmの超広角です。ほかのレンズでは絶対に撮れないアングルなんですがまだまだ修行中です。今回の南部への旅行はこのレンズを試すために行ったようなものでした。

2011/05/31 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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