過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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フィラデルフィア物語 (1/3)

110410

朽ちる
King of Prussia, Pennsylvania USA



東京で結婚をした僕らは7年後にボストンで離婚していた。
今となっては自分の周りに嫌な思い出しか残っていないボストンの町から脱出したい、という強い願望があったにもかかわらず、それではどこに行きたいのか、となると僕にはまったく何のアイデアも無かった。 ボストンでなければどこでも良かったのだ。 そうしたところへ恰好の話が舞い込んで来たのである。
以前にボストンに住んでいた人で、しばらくの間僕のアパートにも転がり込んでいたりして、フィラデルフィアの郊外に良い仕事を見つけて越して行った板前さんが、僕にそのレストランのマネージャーをやって見ないか、という話を持って来てくれたのだ。 日本人らしい 「一宿一飯の恩義」 というのだろうか。 僕はそれに飛びついた。
それである日、僕はレントしたuホールのトラックにピアノや家具類を詰め込むと、引越しを手伝ってくれるという二人の友人とともにボストンを後にした。 運転席の下には仔猫のムチャチャが怯えて縮こまっていた。

『プロシャの王様』 という名前を持つその町はフィラデルフィアの北西20マイルの位置にあって、僕を雇ってくれたレストランはその町のヒルトンホテルの中にあった。 レストランはヒルトンホテルの直属経営だったから、マネージャーである僕も、僕を呼んでくれた板前さんも、ほかのウエイトレスや皿洗いも含めて全員がヒルトンの社員というわけだった。 そのおかげでレストラン業界では珍しく健康保険や有給休暇が付いている上に、マネージャーやシェフにはホテルに隣接しているヒルトン直営の高層アパートも無料で支給、という願ってもない条件だった。 ボストンのあちこちの日本レストランで数年のあいだアルバイトをしたことのある僕には、マネージャーの仕事などすぐに見当がついて、慣れるのに長くはかからなかった。 しばらくすると僕は経済的に少しずつ楽になって行き、やがて中古の車を購入したりできるようになっていた。

すぐ近くには Valley Forge という広大なナショナルパークがあって、昔ジョージ・ワシントン が大軍を率いて英国軍と激烈な戦いをした場所だった。 その公園に車を乗り入れて、森の中を何時間も歩いたり、ベンチで本を読んだり、木陰で昼寝をしたりして僕はボストンでは経験できなかった田園の生活を満喫していた。
時にはフィラデルフィアまで出かけていって図書館で本を借りたり、チャイナタウンと呼ばれる一画に食事に行ったりした。 しかし、東京‐ボストン、と相次いだ都会生活の後、僕はフィラデルフィアの町にはあまり興味が無かった。 むしろ周りの古い村を巡ったり、人の入らない深い森林を歩いたり、夏はホテルのプールで泳いだり、近所の人達とポーカーをやったりして、ボストンのことは遠い遠い思い出になったように思えた。

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コメント:

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プロシャの王様町に巨大モールが出現する前のでしょうか。日本人は、そのモールを「キンプル」と呼んでいます。
2011/08/01 [中田久乃] URL #D2C0PZQI [編集] 

* Re: No title

中田さん、ええっ! あの小さな町に巨大モールが? まったく知りませんでした。
なにしろ私のこの話は1975年ごろのことですから。
近くのモールに “John Wanamaker" というフィラデルフィアの古いデパートがあったのを覚えています。
2011/08/01 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 王様町のモール

John Wanamakerは、今Macy'sになっています。中に、パイプオルガンがあって、日本橋の三越の原型みたいです。
たぶん、90年代に全米でも指折りのモールが建設され、近州からもお客が来ます。モールからしばらくいくと、今でもSeptember30さんの写真のような風景が見られます。
2011/08/02 [中田久乃] URL #D2C0PZQI [編集] 

* Re: 王様町のモール

中田さん、フィラデルフィアの John Wanamaker はあの古い高層のビルによく行きました。何階かにピアノ売り場があって、スタインウェイのフルグランドに触りたくて行くのですが、係りの人たちも喜んで私に弾かせてくれました。
2011/08/04 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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