過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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鬼灯(ほおずき) のころ (1/4)

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《壁画の女》
Dozza, Italy


もう二十年も前の話である。 そのころ僕が勤めていた会社のクライエントにインディアナ州の建築会社があって、そこに設計技師として働くSさんという、若い独身の日本人がいた。 米系の会社の営業部で働いていた僕は、クライエントの会社のいろいろな部門のいろいろな肩書きを持つ人たちと仕事をする機会があって、当然ながらその中にはとても気の合う人もいれば何となく苦手なタイプの人もいた。 どういうわけか僕は自分と同じ営業畑でも、頭の切れる、派手で口八丁手八丁というタイプの人よりも、地味な技術畑にいて口が重くあまり英語も上手でないけれど、自分の技術にプライドを持ってそれを頑固に押し通す、というタイプの人と気が合ってしまうことが多かった。 たぶんその理由は、自分は営業という部門にいて仕事をしながら、「頭の切れる、派手で口八丁手八丁」 なタイプではないからだと思っている。

このSさんもその中のひとりで、何度かいっしょに仕事をするうちにすっかり仲が良くなり、彼は自分よりずっと年上の僕を煙たがることもなくつき合ってくれた。 彼の会社があるのは僕の住む町から車で二時間半という距離だったから、僕もしょっちゅう訪ねるということはなかったが、行けばたとえそれが彼の会社のプロジェクトと無関係の用事で行ったときでも、彼を誘い出して食事をしたり飲みに行ったりしたものだった。そこでいろいろな話が出た。
Sさんはそのころまだ三十代の半ばで、顔も身体もぽっちゃりと丸く、身体は大きかったけど子供のような顔をしていて 「とっちゃん坊や」 という言葉がぴったりだった。 どちらかというとふだんは言葉数の少ないそのSさんと酒を飲みながら話をするたびに、いつも話題に上ったのが(というよりも実は話題にするのはいつも僕の方からだけだったけど)彼の助手をやっていたU子さんのことだった。

僕はこの髪をうんと短くした小柄でかわいいU子さんのことをすごく気に入っていて、その底抜けに明るい性格やきびきびと仕事をこなしてゆく頭の良さにいつも感心していた。 彼女のまるで男の子のような活発さの裏に、日本人女性らしい優しい細やかさがちゃんと潜んでいることを僕は最初から見抜いていたのである。 ある時このU子さんと僕との二人だけでランチに行ったことがある。 Sさんを含めた四人で行くはずだった予定が、急に他の二人に急用が入ってそういうことになったのだった。
会社のすぐ隣にあるレストランで昼食をとりながら、あからさまな好奇心を隠さないで彼女の身辺の事情を尋ねる僕に、
「もうすぐ三十になるのに、まだボーイフレンドもいないんです。 この前なんてバーですごく魅力的な女性に強力に誘われちゃったりして。 私がレズビアンだと思ったんでしょうか、まさか男と思ったわけじゃないと思うんですけど」 と言ってカラカラと笑った。
「○○さんはお顔が広いからだれか素敵な男性を紹介してください」
「素敵な男性はU子さんのすぐそばにいるんじゃないの」 とすかさず応える僕。
「ええっ、Sさんですかあ?」 と彼女の顔がちょっと引き締まる。
「それがねえ、Sさんは私なんかには全然興味がないみたいなんだなあ。 とっても優しい上司なんだけど私のことはまるで女だなんて思ってないんですよ、きっと」
「そんなことはない。 あの人はそんな面では不器用な人だから自分の感情をどうやって表すのか知らないだけなんだよ」
U子さんは珍しく寂しそうな表情を見せてしばらくうつむいたまま何かを考えていたが、やがて顔を上げると僕の目を真正面から見つめて言った。 「どうしたらいいんでしょう?」
その声はいつもの彼女らしくない細くて低い声だった。
僕ははっきりと彼女に告げた。
「誘惑することだよ」

(続)

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コメント:

* こんにちは

このお話どうなるんでしょう。最後のアドバイスに私はドキリとしてしまいました・・
2011/10/07 [inei-reisan] URL #pNQOf01M [編集] 

*

このお話覚えています。
September30さんご自身そして、すれ違ってこられた方々、
小説みたいと思うことがありますよ。
2011/10/07 [のほほん] URL #60nqeuCY [編集] 

*

続きが楽しみです。どうなるんだろう。
しかしSさん鈍いなー。
2011/10/08 [ムー] URL #qiVfkayw [編集] 

*

うーんどきどきします。続きまってます!
2011/10/08 [KP] URL #- 

* Re: こんにちは

inei-reisanさん、今から考えてみれば、私も大胆なことを言ってしまったようです。
2011/10/11 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

のほほんさん、私も人の話しを聞くたびに 「まるで小説みたい」 と思うことが驚くほどたくさんあります。
いつかそれをブログに書いてみたいと思うのですが・・・
2011/10/11 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

ムーさん、Sさんのような男性は世の中にいっぱいいると思いませんか?
そういう男性を女性はもっとどんどん誘惑すべきです。
2011/10/11 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

KPさん、あなたならどうしたでしょうね?
2011/10/11 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

こんにちは。このほおずきの写真を見ると、まるで小説のような話しの終わりがまで頭に浮かんできてしまいます。新たなストーリーが生まれて来るのかな?
2011/10/11 [川越URL #uvrEXygI [編集] 

* Re: No title

川越さん、こんにちは。残念ながら新しいストーリーではないようです。この間日本に行っていたので以前のままになってしまいました。
2011/10/15 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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