過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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September30

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パリの空の下
Paris, France


パリで四日間滞在したのはカルティエ・ラタンのはずれの小さなホテルだった。 メトロの駅がすぐ近くにあり、まわりには雑多な店が立ち並んでいて、いかにもパリの下町という感じのする庶民的な地域だった。 ホテルは明らかに家族経営という感じで、間口の狭い四階建ての建物の中には、部屋数もそんなに多くなかった。 エレベーターはおもちゃのように小さくて、スーツケースを二個も乗せるとあとは人の入る余地が一人ぶんしかなかった。 でもホテルそのものは小さいなりにきちんときれいに維持されていて、しかも値段が安い。 ソルボンヌに行っている娘が探してくれたホテルだった。

僕の部屋は四階にあってホテルの裏側に位置していた。 窓のカーテンを引くとそこから見えるのは一群の古いアパルトマンだ。 フランス映画でお馴染みのよく見るやつである。 パリのアパルトマンは窓を見ているだけで楽しい。 その一つ一つの窓の向こうに、どんな人のどんな生活があるのだろうか、と興味しんしんである。
昼間はぴたりと閉ざされている窓が、夕方になるとどの窓にも明かりが点く。 人々が一日の仕事から帰ってくるのにちがいなかった。 開かれたシェードやカーテンの向こうにちらちらと人影が動くのを見ていて、僕は映画の 『裏窓』 を思い出していた。 そういう僕自身も昼間から夜にかけてほとんど外に出かけているので、ホテルの部屋に帰ってくるのは毎晩深夜に近い時間である。 そしてその時間にはどの窓も明かりが消えていた。

ある遅い朝のこと、起きだして部屋に外光を入れようと開けたカーテンの隙間から、すぐ眼の前の窓に若い女性の姿が見えた。 あちこち歩き回るその女性は全裸だった。 シャワーから出てきた直後なのだろう。 一度姿が消えたと思ったら、その次に現れたとき、彼女は黒い下着をつけている。 そういえば今日は土曜日だった。 その黒い髪のパリジェンヌはデートにでも行くのだろうか。 それとも仲のよい友達とブランチに会うのだろうか。 それともひとりでショッピングにでも出かけるのだろうか。
それから彼女は濃紺色のサマードレスを着て現れる。 おしゃれで可愛らしいドレスだった。 窓のすぐそばに姿見があるのにちがいない。 正面から、後ろから、横から、くるくると身を翻 (ひるがえ) して鏡を見た後で、彼女の姿がまた消える。 そして再び現れた彼女はもうサマードレスではなくて、ジーンズと白いTシャツだった。 それからそばにあったバッグを取り上げるとそれを肩から斜(はす)にかけて、部屋を出て行った。

なぜだろう?
なせあの娘はドレスを着るのをやめたのだろう?
僕はそのことだけをずっと考えていた。


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裏窓
Paris, France


* ヴォイヤリズム(voyeurism); 窃視症、のぞき趣味
他人の着替え、性的行為、または純私的な行為に興味を持つこと。


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コメント:

* なぜ…?

急変を捉えるのがお上手ですね。
裏切りの瞬間があざやかすぎて、いつも余韻に打たれます。

September30さんの世界にふれると、残り香のようにただようもどかしさに責められて…
しばらくの間、かなり苦しいです。(笑)
2012/01/18 [belrosa] URL #- 

*

今日は一応デートなんだけど、映画見に行っていつものピザ屋で食事だから、別にお洒落しなくてもなあ。
ま、いっか。

自分に置き換えて考えてみました。
女子会(女子だけで集まる会)のときのほうが、気を張っているかもしれません。
ま、いっか。

2012/01/18 [micio] URL #O/XG6wUc [編集] 

*

こんにちは

今日はオシャレをしたくなる様な特別な日だと思っている事を
知られたくなかったのでは・・・
見せたい相手によって駆け引きがあるんですね~きっと。(笑)
2012/01/18 [キキURL #PDFQKA4U [編集] 

*

もう20年も前になってしまいましたが、仕事でパリのモンパルナスに夏のひと月ほど滞在したことがあります。仕事仲間の女性たちはブラウスの胸元を開けていて、よく胸の谷間とブラが見えていたり、透け透けのシャツなどを着て仕事に来ていました。あまりにあけすけなので「下着は見えても恥ずかしくないの?」と聞いたことがありましたが、彼女たちはキョトンとして仲間同士目を会わせて「どうして?」と言ってました。このお話とは全然違いますけど、国が変われば感覚も変わるものだとつくづく感じました。それにしてもこのお話、ちゃんと写真があって安心しました。
2012/01/18 [川越URL #uvrEXygI [編集] 

* 好きだったのよあなた~

“まちぶせ”という唄がSeptember30さんが日本からいなくなってから流行りました。

好きだったのよあなた~胸の奥でずっと~♪

初めてあの人とふたりきりで会うことになって、お気に入りの濃紺のドレス、着て行こうかしら。
でも、そしたら、私があの人にぞっこんだってわかってしまう。
なにもないそぶりでTシャツで行くの。

いつかあの素敵なドレスであの人と腕を組んで歩くんだわ。
なんて、想像をたくましくし過ぎでしょうか。笑。

追伸:私の昔の思い出ではありません。


2012/01/19 [みん] URL #6moyDOY6 [編集] 

* Re: なぜ…?

belrosaさん、急変を捉える? 裏切りの瞬間? なんとなく穏やかではありませんが、お褒めの言葉ととりたいです。
とくに意識してやっているわけではないのですが・・・
2012/01/19 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

micioさん、そういう時の女性のデリケートな心の動きにまったく鈍い私は、まだまだ修行が足りないと反省しています。
2012/01/19 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

キキさん、こんにちは。
そうなんですか。 そういう女性心理の機微を若いころに会得していればもっとすばらしい青春が送れたのに、と悔しいのですがもう遅いです。
あるいは・・・
単純に、ドレスのボタンがひとつ取れていただけ、ということも?
いや、それだったら他のすてきなドレスに着替えますよね。
2012/01/19 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

川越さん、現在のアメリカでは、職場で女性にそういう下着の話などをするだけでセクハラになるのですよ。 (笑)
日本ではどうなのでしょう?

写真を見て安心をした、ということはさては私の話はぜんぶ作り話だと思っていましたね。
2012/01/19 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: 好きだったのよあなた~

みんさん、ますますわからなくなりました。 「あの人」に自分がぞっこんだとわかってしまうことがなぜいけないのでしょう?
すてきなドレスを着ていって 「このドレスはあなたといっしょの時にしか着ないつもりでいたの」 とか何とか言えば、男にとってこれ以上の殺し文句はないのでは?
みんさんがそれをしないでジーンズとTシャツで出かけて行ったから、昔の「あの人」を逃してしまったのではありませんか?
2012/01/19 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

>September30さま
たぶん今の日本でもこれをやったらセクハラでしょうね。私の若い時代にこんなへんてこな法律がなくて良かったです。あればざっと50回は捕まって、立派な犯罪者に育て上げられていたでしょう。

>写真を見て安心をした
これって、文章を読んでいるときに「自分だったらまずこっそり写真を撮るよなぁ」って思ったからで、「さすがにSeptember30さんはそんなことはしないんだろうな」と思っていたんです。

それが最後に写真が出て来たので、「やった!、そうだよね」って気分でした(^^)
すみません。

2012/01/19 [川越URL #uvrEXygI [編集] 

*

September30さん、
写真がでてきたところで、思わず笑ってしまいました。
あとでもう一度読み返してみると、これって、
映画の一シーンを文章と写真で表現したみたいですね。
濃紺色のサマードレスと、ジーンズと白いTシャツ姿の写真ももしかしたらあるのでは?
あったら見てみたい、なんて思ってしまいました。
September30さんと一緒にに覗き魔の気分(笑)
やっぱり私、おやじだったか...!
2012/01/19 [けろっぴ] URL #- 

* Re: No title

川越さん、写真を見て安心をした、というのはそういう意味だったのですね。 了解です。
写真を撮るという行為の根底にあるのは、しょせんvoyeurismだと常々思っています。 その対象が外界の情景であれ他人の生活であれ、あるいは自分の内部に潜むものであれ。
2012/01/20 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

けろっぴさん、こんにちは。
残念ながら上の写真以外にあるのは何も着ていない彼女の写真だけです。
やっぱりおやじだったか、ということは女性は覗き見などはしない、ということ?
それはどうなんでしょうね。
2012/01/20 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

September30さん、たしかに言われてみれば、覗き見するのはおやじ、と勝手に思い込んでいたかもしれませんね。
実際のところどうなんでしょうか?
でも、私個人に限っていえば、若い頃とはあきらかに違うことを考えるようになったことは確かです。
たとえば、若い頃は、若くて美しい女性を見て、今ほどはうっとりしませんでしたもの。
今は、明らかに異性の目線で見ている自分がいたりするのです(笑)
2012/01/20 [けろっぴ] URL #- 

*

デリケートというよりは、どちらかというと実用性を重んじる生き物です。女性は。
2012/01/21 [micio] URL #O/XG6wUc [編集] 

* Re: No title

けろっぴさん、覗き魔はおやじばかりとは限りません。 昔学生時代の演奏旅行で東北の田舎の町の旅館で、私が風呂に入っているところを女中さんに覗き見されているのを、他の連中が見つけたことがあるのですよ。 そう、私は犠牲者だったのであります。

若くて美しい女性を見て女性のけろっぴさんがうっとりとする、というのはわかるような気がします。 私だって美しい男性を見ると(くやしいけど)思わず見とれてしまいます。 若いときなら見向きもしなかったでしょう。
2012/01/21 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

micioさん、
《デリケートというよりは、どちらかというと実用性を重んじる生き物です。女性は。》
これは真実かもしれません。 そして男性は女性よりも概してデリケートだ、というのも真実です。
2012/01/21 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* S30氏と女中さんの事

昔々同じく演奏旅行、南紀・白浜温泉のとあるホテルでの事、ひとり男湯に浸かっていると、突然3,4人の
女性が入って来ました。”お兄さん、ごめんなさいね。おんな湯はちょっと汚れてるからね。ゆっくりして
下さいね”。ホテルの従業員です。、田舎出で未だうぶな私は、思わずとび出て仕舞いました。脱衣場から
覗き見、”学生さんが一人だけやわ”、と妙なチン近感を持って、団体決行したのかもしれません。

S30氏の場合も単なる覗き見ではなく、その女中さん風呂に入りたかったのでしょう。唯、一人だと勇気が
要ると思います。

この話、「デリケートというよりは、どちらかというと実用性を重んじる生き物です。女性は」との興味深い
お言葉通りですが、micioさんが最初に意図されたところから外れて来た様です。失礼しました。

コメント欄が下方に下がるに連れて、話も落ちて来ました。S30氏にも半分責任があると思います。
格調高き読者の皆様、申し訳ありません。
2012/01/22 [henri8] URL #iq01hQ1g [編集] 

* Re: S30氏と女中さんの事

henri8さんも犠牲者だった事があるのですね。 しかし私の場合は女性が「実用性を重んじる」結果とはすこし違うようでした。 なにしろその女中さんは窓の外の垣根の陰からずっとそこに立たずんで見ていた、ということなので。

この辺まで落とせばもういいでしょう。 私も格調高き読者を失いたくありませんから。 (笑)
2012/01/22 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

この女性は購入したばかりの新しいドレスを、待ちきれなくなって試着していたんです。デートはこの日の夜だったんですよ。septemberさんがもう少し早く帰ってきてたら、ドレスを着て颯爽と出かけた女性を見れたのでは・・・?
女性は新しいドレスは一度は試着して、確かめるものなんです。


「裏窓」は大好きですが、この記事を読んで「仕立て屋の恋」という映画を思い出しました。
2012/01/23 [ばけねこURL #FXrcM1hg [編集] 

* 細工は流々、御満悦ですなぁ!

September30 様

 当初の原稿「覗き見」と、その後の掲示版談話の方向性を興味深く拝見しておりました。
 掲載された原稿を一読、最初から感じておりました印象

「これは、釣り堀の練達の経営者が、生え抜きのオヤジが、釣り堀の経営を支えて呉れる常連釣り客の嗜好や、場馴れした立ち居振る舞いを眺め、生真面目な釣り客をからかってやろうと、少しばかりチョッカイを出した冗句であろう」

 は、ほぼ確信へと変わりつつあります。手の込んだ詭計ですなぁ。

 それにしても、一計を案じ、釣り客向けに美味しい餌を蒔いた930氏のお手並みは、何時ものことながら鮮やかですなぁ。細工は流々、直ぐに多数の常連客の皆様から反応がありましたからね。遣るもんですなぁ!新年早々、感嘆の日々です。
 この調子で、今年も読者を愉しませて下さい。
2012/01/23 [Yozakura] URL #Y2lB8pKc [編集] 

* 皆さんのコメントを読んで

私が思い出したのは10年前に居たロンドンではやってたおなか見せファッションでした。あのころは誰でもかれでもおなかのところだけ見せていて、下手するとさらにTバックも見えるくらいにズボンがはけていないウエストの方が多くて、見るのも苦しく道を歩き分けていたものでしたが、昨年いったら、なんともすらっとしたロンドンっ子が多くてびっくりしました。あれならおなか見せもOkです。笑。時代とともに体形も変わるものなのでしょうね。。
2012/01/25 [inei/reisan] URL #pNQOf01M [編集] 

* Re: No title

ばけねこさんの推測がたぶん正しいのでしょうね。

『仕立て屋の恋』 は原題は何だろうと調べたら "Monsieur Hire" でまだ見ていませんでした。 さらに、原作が私の好きなミステリー作家のジョルジュ・シムノンと知って嬉しくなり、さっそく注文しました。
姉妹作だという 『髪結いの亭主』 は以前に見ました。 これは 『仕立て屋の恋』 より先に書かれたのに、映画化されたのはあとなんですね。
2012/01/25 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: 細工は流々、御満悦ですなぁ!

Yozakuraさん、あははは、とうとう釣堀のオヤジにされてしまいましたね。
手の込んだ詭計だなんてとんでもない。 少しばかり買いかぶられているような気がしないでもありません。
あるいは、Yozakuraさんに皮肉られているのに、鈍感な私が気がついていないだけなのか。
2012/01/25 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: 皆さんのコメントを読んで

inei/reisanさん、時代とともに体形が変わるといっても、まさか10年でそんなに変るものではないでしょう。 (笑)
私なんか赤ん坊のときから現在までまったく同じ体形です。
2012/01/25 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

これはエロティックでいいですね。
2012/01/25 [上海狂人] URL #wuZV7DPc [編集] 

* Re: No title

上海狂人さんとちがって、私は旅に望遠レンズを持ち歩かないのでこういう時に困るのです。
2012/01/27 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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