過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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未来からかかってきた電話

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丘の上の町
Vaison la Romaine, France


この町もヨーロッパの多くの都市がそうであるように、丘の上の旧市街(アップタウン) とそのふもとに広がる新市街(ダウンタウン) とに分かれていた。 この地域は紀元前後のころには土着のケルト人と外来の古代ローマ帝国とが共存していたから、もう2000年以上も昔から人々の営みが続いているところだった。 だから新市街と呼ばれても決して新しいというわけではなくて、すでに1000年以上の歴史がそこに詰まっている。

今日はその旧市街の丘へ登ってみる。 小高い丘の斜面にびっちりと、しかしかなりメチャメチャな配列で家々が並んでいる。 丘の頂上には小さな城の廃墟が残っていて、そこに立つと眼下に360度のパノラマでヴォクルース地方の平野が見渡せた。 ここまで登ってくるのにも、急勾配の坂道は手入れのまったくされていない砂利道で、ここまでわざわざ足をのばす観光客はほとんどないようであった。



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これがまあ 終(つい)の棲み家か・・・


道端にこんなかわいい家があった。
一人でしか住めないまるで独房のように見えるけれど、崖っぷちの斜面に建てられているその家は中に入れば意外と広い階下があるのかもしれない。 向こう側の壁にもたぶん小さな窓があって、その窓からは一面の葡萄畑や、そのはるか向こうに連なる山並みまでがひと目で眺められるはずである。 まるで日本の座敷牢のような感じを受けたのは窓に付けられた鉄格子からの連想かもしれなかった。
蟄居(ちっきょ) というのは江戸時代の武士に課せられた一種の刑罰らしいが、プロヴァンスの小高い丘の上に、ひっそりと数百年もたたずむこんな家での蟄居なら、牢住まいも悪くはないなあと思う。
「これがまあ 終(つい) の棲み家か・・」 と詠んだ芭蕉だってここなら気に入ることはまちがいない。 ディッシュが屋根の上に取り付けてあり、電線も通じている。 テレビも見れるしPCも使えるのだ。 読みたい本があればアマゾンで注文もできる。 そして独りで居るのに飽きて人が恋しくなれば、15分も歩いて丘を下ると麓(ふもと)には人の生活の匂いのする町があるのだった。

そんな妄想を抱きながら写真を撮っているといきなり腰の携帯電話が鳴った。
かかってきたのはアメリカからで、僕が旅行に出ているのを知らないでかけてきた知人だった。 「今そこから何万マイルも離れたフランスの中世の丘の上にいるんだよ。 2000年も前からここにある石に腰掛けて今話してる」 と僕の現在位置を説明してやると彼は電話の向こうでびっくりしている。 お互いの声がすぐそばで話しているように鮮明に響いているからだ。
僕は僕で、2000年先の未来の国からの声を聴いているケルト人になったような気がしていた。


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コメント:

*

二千年前の町並みがそのまま残っていることも驚きですが、今でもそこで人々が暮らしていることに感動を覚えます。
そしてこのお家、確かに色々な妄想をしたくなりますね・・・古い家屋にきちんとアンテナが取り付けられていることも嬉しい限りです。

(話は変わりますが)Septemberさんに刺激されて、ジョルジュ・シムノンの小説注文しました。
2012/01/26 [ばけねこURL #FXrcM1hg [編集] 

*

新市街が既に千年も前の話...
そして2枚目の写真の家、とてもいいです、好きです、自分も終の棲み家はこれがいいです理想的です。
すっかりお婆さんになった将来の奥さんと並んで椅子に座って日がな一日影の動きを追うような日々。
2012/01/27 [バナOKAURL #3un.pJ2M [編集] 

* Re: No title

ばけねこさん、フランスのというより、ヨーロッパのほとんどの町がそうであったように、この町も異種族間の戦いや外国からの侵略、残酷な自然からの虐待などを受けた長い歴史を持つのですが、それに耐えてたくましく生き続けてきた農民たちの力を強く感じました。
「人間は滅ぼされることはあっても、敗北することはない」 と言ったヘミングウェイのパラドックスを噛みしめていました。

2012/01/27 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

バナOKAさん、すばらしい夢です。 でもその前にそのお婆さんにめぐり会わなくちゃ。
2012/01/27 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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