過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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珊瑚の耳飾り (1/2)

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蚤の市
Isle sur la Sorgue, France


プロヴァンスの南部に位置したこの小さな町はアンティークの店が多いことで知られている。 そのうえ毎週日曜日には近隣から業者がなだれ込んで町中の路上に何百という店を出す。 蚤の市の規模としてはフランスでも一.二を争うそうだ。
その日曜日の朝早めに我々の一行が到着した時間には、すでにかなりの人が出ていた。 今日のヴォクルーズ地方はすばらしい天気となり、この町を抜けるソーグ川にはきれいな水が流れていた。 川といっても小川を少しだけ大きくしたような、ちょうど掘割といった感じである。 その川に沿って、洒落たガラクタから高級アンティークに至るまでありとあらゆる物が延々と並べられていた。
いつものように集合する場所と時間を決めると、皆はそれぞれの方角に散って行った。 女房と娘は二人でつるんであっというまにどこかへ消えてしまうし、パチクリはこの町出身のレジスタンス詩人、ルネ・シャールの足跡を辿るべくこれもいなくなる。 アメリカ人のM夫妻はといえば、骨董に目のないM夫人が必死に掘り出し物を探索するうしろから、ご主人が忠実な護衛犬のようについて回るのはいつもと同じ。 そして今日はそのまたあとを彼らの息子のJ君がついていくのだろう。 というわけでなんとなくあとに残されたY子さんと僕の二人はいっしょに連れ立って歩くことになった。




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歩き始めてすぐの数店目で、Y子さんは立ち止まるとテーブルの上から何かをつまみ上げた。 珊瑚の耳飾り。 鮮やかな紅色の、耳につけると長くてぶらぶらと揺れるやつだ。 35ユーロの値札が下がっていた。 今すぐにも買いたそうな彼女の様子を見て僕は
「おいおい、早すぎるんじゃないの。 今始まったばかりだよ。 もっと安くてもっといいのが他にあるかもしれないのに」 とブレーキをかける。
「だってもしほかに無かったらどうすんのよ。 それまでにこっちは売れちゃうだろうし」 とY子さんは口をとがらせていちおう反抗の気配を示したが、僕の言うことに一理あると思ったらしくて、その耳飾りをテーブルに返した。

それからしばらくするうちに、ゆっくりと丹念に見ていくY子さんと、あれこれ動き回りながら写真を撮る僕とのあいだがしだいに離れていって、しかもどんどんと数を増していく群集の中で僕はY子さんを見失ってしまったのである。

(続)



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コメント:

*

またもや、私の長年のあこがれの場所が…!
この街の蚤の市もまた、もう何年も行ってみたいと憧れ続けている場所です。あこがれの街での冒険譚(?)楽しみです。
2011/12/28 [わに] URL #- 

* 蚤の市

ああ、思い出してしまいました。
昔々のパリのクリニャンクールの蚤の市の記憶。
それはそれは、怪しい宝石箱のような世界でしたっけ。
トランクに並べてあった中には、日本の味付け海苔までありました。
それが、だれかの叫び声とともに、突然そこいらじゅうの路上のトランクは閉められて、あっという間にいなくなってしまいました。(ガサ入れ?)もちろんテントの様な店舗はそのままでしたけど。
すごく気に入って買ったスカーフ、パリの街ではとても素敵だったんですが、東京では使えなかった。パリなら、ぼろぼろなのもおしゃれなうちですが、清潔で潔癖な日本では到底首に巻いて歩けませんでした。
2011/12/28 [みん] URL #6moyDOY6 [編集] 

* Re: No title

わにさん、そうなのですね。この名前を発音しにくい町は、日本人にはあまりなじみがないのではと思っていました。
2011/12/28 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: 蚤の市

みんさん、路上の売買にはたぶん市の許可がいるのでしょうね。同じような光景をバルセロナで見ました。もう10年も前のことですが。

清潔潔癖な日本人は他人が使ったものや古いものを嫌がるようです。とくに着るものは。
それから日本人は住む家にしても新しくて機能的な家が好きですね。あるとき知り合いの日本人が家を探していたときにお手伝いした事があります。私から見ると古くて大きくて美しくてがっちりとした理想的な家を見つけたので紹介したところ、「まるで化け物屋敷だ」 と言われて唖然としたことがあります。それ以来、そんな類のヘルプは一切しないことにしました。
2011/12/28 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* アンティークのスカーフ

誰かに差し上げた訳じゃないんです。
すごく素敵な色のスカーフ。
パリでは、ふちがほつれてボロボロだったのが、
全然気にならなかったのに。
東京では、恥ずかしかった。
その街の意識が変わると自分まで変わる、って実感しました。
パリのおしゃれは許容量が広くて素敵です。20代の頃のお話。
2011/12/29 [みん] URL #6moyDOY6 [編集] 

* Re: アンティークのスカーフ

みんさん、《その街の意識が変わると自分まで変わる》 その通りですね。
「郷に入っては郷に従え」 ですか。
日本にいる私とアメリカの私は実はちがう人間なんです。
2011/12/29 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

September氏はどちらのご自身が好きなのですか?

私は日本に居るときはセカンドハンズは好きではないのですが、外国に居るときは“んー味があるなあ。”と気に入ってしまったりします。
で、どちらかというとひとつのものを長く大切に使う文化の方が愛情を感じられて、居心地が良いです。
2011/12/29 [micio] URL #O/XG6wUc [編集] 

* Re: No title

micioさん、一つのものを大切に使う文化というとやはりヨーロッパでしょうね。アメリカはもちろん使い捨て文化。壊れたものは治すよりは新しく買ったほうが安い、という文化です。
日本はどちらなんでしょう?
2011/12/30 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

日本は、物をわざと壊れやすく作る文化かもしれないですね。
電化製品はなぜ一斉に壊れるのでしょうか。密かに彼ら同士でタイミングを合わせているとしか思えない…
2011/12/31 [micio] URL #O/XG6wUc [編集] 

* Re: No title

micioさん、私も日本製の電化製品でふだん使っているものをけっこう頻繁に買い換えています。 炊飯器、電話、プリンター、など。
カメラでさえ、あれほど信頼していたニコンの1台(わりと新しい)が最近動かなくなりました。
車はドイツ車にのっていますがこれはもう11年(24万キロ)も経つのに、いまだに健在です。
2012/01/01 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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