過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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マーブルヘッドの朝

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朝日の当たるフェンス
Marblehead, Massachusetts USA


ボストンから海岸線に沿ってどこまでも北上して行く車の旅は、あのころの僕のお気に入りのドライブコースだった。 適当なところで車をUターンさせれば日帰りの遠足になるし、その日の気分しだいで通りすがりの鄙びたインにでも一泊すれば、隣州のニューハンプシャー、さらにはメイン州あたりまで足を伸ばすちょっとした小旅行になった。 次から次へと車で走り抜ける無数の町々はいずれも1600年ごろから人が住みついたらしい。 それぞれの町の歴史や伝説を、建物やメインストリートやお祭りや蚤の市に窺うことができた。
マーブルヘッドという町もそんな中の一つだった。 以前は活発な漁村だったのだろう。 湾に面して、今はもうあまり使われなくなった小さな港が残っている。 時折そこへボートと呼んだほうがいいような小型の漁船が着くと、漁師たちが網をあげたり魚やエビなどを粗末な木造の埠頭へ下ろすのが見られた。 そしてそこで働く男たちは例外なく年老いていた。 彼らは日焼けした肌に静脈のように老齢の皺を貼りつけて、少年のころから何千回も繰りかえしてきたにちがいないその作業を続けていた。 その姿には、落ちてゆく砦を護(まも)る老兵のような哀しさがあった。

海岸に沿って並ぶかつての漁師たちの家々は、今はほとんどがボストンなど都会に住む人たちのサマーハウスになっていた。 夏には避暑客で賑わう表通りも季節はずれの今はひっそりとして、レストランやカフェやアイスクリーム・パーラーも、商店もマーケットもほとんど閉められている。
そんな中で、軒に吊り下がった店の看板が海から吹く風にカラカラと音をたて、住人のない家の白いフェンスに、弱い朝日が当たって沁みるように光っていた。


『朝日のようにさわやかに』
原題は "Softly as in a Morning Sunrise"。
有名なジャズのスタンダードナンバーで、僕も若いころさんざん演奏した。 いまだに理解できないのは、誰が最初に訳したのか 'softly' を 「さわやかに」 と言っていることだ。 かなり苦しい。 長いあいだ英語圏で暮らしていて思うんだけど、'softly' に 日本語の 「さわやか」 という感じはどうしても重ならない。 ここはやはり素直に 「優しく」 とか 「やわらかに」 と解釈したい。 しかしMJQの演奏、特にミルト・ジャクソンのヴァイブは心に強く残る名演で、爽やかといえば実に爽やかなんだけどね。
例によってピアノとヴァイブがクラシックの対位法的に絡むイントロから始まって、ミルト・ジャクソンのヴァイブが印象的な主旋律を提示したあとは彼の独り舞台となる。 奔放で饒舌でファンキーなミルト・ジャクソンのヴァイブラホンは、リーダーのジョン・ルイスの極めて内省的なピアノの抑制がなければ、朝日の中を大空に向けて羽ばたくカモメのように、果てしなくどこまでもどこまでも舞い上がって行って視界の外へと消えてしまいそうな、そんなすばらしい演奏である。


Softly as in a Morning Sunrise
Modern Jazz Quartet




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コメント:

* Softly

september さん、こんにちは。
コンコルド広場を思い出します。ジャクソン・クインテットの時とまたミルトの奔放な趣が異なり、ジョン・ルイスの抑えがあるのかと思ったりします。ワン・コーラス後のミルトのアドリブは素晴らしい。ルイスも多言は控え、コニー・ケイのブラッシングとパーシー・ヒースの低音とが一体となって、ミルトの思い通りの音を引き立てます(パーシー・ヒースの哲学者のような風貌が好きでした)。
私は、Softly というと、いつもウィントン・ケリーを思い出していましたが、久し振りにミルトのヴァイブを満喫しました。
ミルトは1999年、ルイスは2001年に亡くなってしまいましたね。
2012/02/28 [pescecrudo] URL #j9tLw1Y2 [編集] 

* Re: Softly

ペさん、こんばんは。
懐かしいでしょう。 ジョン・ルイスは黒人ながら黒人臭さをひとかけらも持たない希有なピアニストなんだけど、その彼と黒人以外の何物でもないミルト・ジャクソンとのコンビがあのユニークなMJQサウンドを作り出して、それで何十年もお互いにまあ飽きずにいっしょにやっていたんでしょうね。
独立して演奏するミルトを買う人が多いようだけど(私もそのひとり)、ミルトはMJQの中だからこそ鮮明に光る部分というのがたしかにあります。

2012/02/28 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

こんにちは

眩しい夕陽に照らされながら
爽やかな朝日を感じる音楽を聴いてのコメントです(笑)

昨年の秋に初めて朝日を撮りに出掛けた時の事を思い出しました。
濃い霧の中、車を走らせ小高い丘の上にまで行った時
霧が晴れて遠い山の上から出てきた朝日は神々しくて
気温は低くて吹く風も冷たいのにとても爽やかに感じられました。
朝日を見て心が洗われるようでしたよ。
今度、朝日を見に行った時、この曲を聴きたいと思います。
2012/02/28 [キキURL #PDFQKA4U [編集] 

* Re: No title

キキさん、こんにちは。
私は夜型人間なので起きるのが朝は遅く、朝日を見ることなんてまずないのです。その少ない経験の中で忘れられないのは (ブログにも書いたけど) 南仏のカマルグで地中海から昇る朝日を見た時かなあ。 見渡す限りの平原が少しづつ明るくなっていって自分の位置がつかめると、自分が人類の最後の一人であるような錯覚がありました。
2012/02/29 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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