過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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こぶたのとことこ

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知識を売る所
Bologna, Italy


子供のころから本を読むのが大好きだった。
すこしばかり人よりマセた子供であった僕は、ふつうなら高校生が読むような本を小学生から中学生にかけて全部読んでしまっていた。 高校に入った時に、まわりの友達が羨むようなプレゼントを父がくれた。 行きつけの本屋で好きな本をいつでも買っていい、という特権を与えてくれたのである。 だからその頃はお小遣いをあまりもらわなかった代わりに、僕の買う本を本屋が全部ツケにしてくれて、父が毎月払っていた。 時々買いすぎて、父に 「おい、少し自重しろよ」 と言われたことはあったが、裕福でも何でもなかった僕の家庭で、そんな夢のような贅沢を僕に許してくれた父に、僕は今でも感謝している。

本らしい本、つまり絵本とか雑誌ではなくて物語の書かれた本を生まれて初めて読んだのは、僕が幼稚園の時だった。 
昼の遊び時間に男の子たちと乱暴な遊びをしていて、右脚のちょうど脛と足の中間あたりを鉄柵にぶつけてポッキリと折ってしまった。(その傷痕は今でも残っている) それで何週間も入院していた時に、母の友達だった人がお見舞いに来てくれて、その時僕に持ってきてくれた本が『こぶたのとことこ』という童話集だった。 幼稚園の子供にはまだ難しすぎる本だったが、長い間母と会ったことのなかったそのおばさんは、てっきり僕が小学生だと思ったらしい。 
ひらかなの中に時々混じる漢字に、母が鉛筆でふりかなを付けてくれたその本を、僕は夢中になって読んだ。 本の作者も物語もまったく覚えていないが、所々に出てきた一筆画風の挿絵は今でも目に浮かべることができる。 
今日調べてみたら、『こぶたのとことこ』の著者はあの浜田広介で、挿絵が鈴木寿雄、1948年に出版されたらしい。 243ページというからけっして小冊子のようなものではなかった。

脚の骨折なんて今はわりと簡単に治るし、そのために何週間も入院するようなことはもう今ではしないと思うけど、あの時は畳敷きの病室に寝かされて、夜は母がすぐ横で泊まったはずである。 
僕を診てくれた医者は町でも有名な老先生だった。 最初に担ぎこまれて診療台に寝かされた時、嫌がった僕が泣き喚いて大暴れに暴れて、押さえつけようとする二人の看護婦を蹴飛ばしたりしたので、癇癪を起こした老先生が手にしていた副木(ふくぼく)で僕の頭をバシッと叩いたそうだ。 それでようやくおとなしくなった、という話は僕はまったく覚えていなくて、あとあと母に(何度も)聞かされた。

僕の医者嫌いは今でも変わらないが、ラッキーなことにわりと健康で、手術を受けて入院をしたのはこの幼稚園以来は、盲腸の摘出(17歳)と胆石の摘出(50歳)の二度だけである。

僕の一生を通して、医者嫌いと読書好きの両方が、『こぶたのとことこ』 から始まったのだ。



うんと歳をとったら
またおとぎ話を読むようになるだろうね。
C.S. Lewis





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コメント:

* 長い長いお医者さんの話

懐かしい!
私の記憶に残る最初の本は、カレルチャペックの長い長いお医者さんの話。
幾つだったか、自分では読めない歳でしたから、
毎日遅く帰る父を捕まえて布団の中で読んでもらうのが母に内緒の愉しみでした。
疲れている父はすぐに本を放り出して寝息をたてるのですが、むりやり続きをせがむとあとはどんどん荒唐無稽なオリジナルなストーリーに。
倹約家の父でしたが、本だけはうちもいくらでも買ってくれました。
父自体がうず高く積まれた本に埋もれるような部屋に住んでいました。
中学年の私は、父の読んでいない本を見つけて父をギャフンと言わせたい、というのがあの頃の目標でした。
2012/07/05 [みん] URL #6moyDOY6 [編集] 

* Re: 長い長いお医者さんの話

みんさん、
お父さんのことは、まるでそれ自体が童話のような、
とてもすてきなお話ですね。
お父さんのお人柄がまざまざとわかるような気がします。

私の父は酔っ払うと私の布団へ入ってきて
頬ずりをしたものですが
酒臭い上に髭が痛くて大嫌いでした。
ふだんはそんな愛情の表現など見せる父ではなかったのに。
2012/07/05 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* もう一度 手に取りたい本

「きのこ星たんけん」
2012/07/05 [のほほん] URL #- 

* Re: もう一度 手に取りたい本

のほほんさん、
その本は知らないんですが古い童話なんですね。
そういう懐かしい本は誰もの心にしまってあるのでしょう。
2012/07/06 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 幻の芥子

子どものときに読んでから、ずっと探している本があって。
「芥子の花」という絵本なのです。

インドのねずみが、美しい人間の娘になって王さまに寵愛されるのですが、
お城にやってきた親ねずみのことが分からず邪険にしたため、
ヒトに変えてやった親の恩も忘れるようではここにいてはいけないと、
王さまに出自を明かされそうになって…

驚き動転した娘の身体は小さなねずみに戻り、庭に走り出てそのまま、
池に落ちて死んでしまったのだけれど、
それからその水辺には、真っ赤な芥子の花が咲くようになったのだと。。。
そんなおはなし。

やっぱり、ご存知の方はいらっしゃらないでしょうか。
憶えているのは、
黒っぽいお城を遠くにした、暗めの金茶のような色調の中に浮かぶ、燃えるような赤い芥子。

その目を射るようなあざやかさが悲しくて、
せつなさとかやるせなさといった気持ちを、初めて教えてもらったのでした。

どうやら、その昭和20年代に刊行されたらしい美しい絵本は、
もうこの世から消えてしまったらしいんですけど。

もういちどあの芥子が見たいな…
折にふれ追ってしまう幻の花なのです。


2012/07/06 [belrosaURL #- 

*

おとぎ話読んでいます。
マキアベリの君主論。
こんな為政者はおとぎの国にしか住んでない。
2012/07/06 [micio] URL #O/XG6wUc [編集] 

* Re: 幻の芥子

belrosaさんがそこまで調べたのならたぶん無駄だろうと思いつつ、検索してみました。
結果はどこにも行き着きませんでしたが、
あなたと同じくこの本を探している人がけっこういる、
ということはわかりました。
その人たちも同じように挿絵の芥子の花の赤さが強く記憶に残っている
と言っていますね。

インドの童話らしいんですが、
あとは古本屋を漁るしかないんでしょうか。
2012/07/06 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

micioさん、
すごい本を読んでますね。
私は読んだことも読もうと思ったこともないんですが、
あの本は確か
当時のイタリアの政治家のためのアンチョコのようなものではなかったのですか?
2012/07/06 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 芥子の行方

あら!当たってみてくださったんですか、ありがとうございます。

影響されて、あたしもまた検索散歩をしてみたら、
じ、自分のその質問がやたらたくさん出てくるのに赤面しつつ (*- -*;)
一件、初めて見る情報が…

同じく探していらっしゃる方が、キンダーブックの付録だったかもと書かれていて、
そういえばあたしも‘キンダーブック’と‘ひかりのくに’を取っていたのを思い出しました。
何年ぶりかの新展開です!

これはちょっと希望が…両社へのお伺いの作戦を考えてみます。
ありがとうございます! Septemberさんのおかげです。(^o^)v


2012/07/07 [belrosaURL #- 

* Re: 芥子の行方

belrosaさん、
よかったですね。
Good Luck! 

それにしても「キンダーブック」とか「ひかりのくに」とか
長い間忘れていたものを瞬時に思い出しました。
こちらこそありがとう、です。
2012/07/07 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 私も思い出しました

「キンダーブック」と並んで 今ではお目にかかれない「二宮金次郎」なんて絵本がありました。
その後は講談社の「少年少女世界文学全集」か。
フランス編に「最後の授業」が収録されていて、ところが知っているドイツ人というのが皆無、
フランス人の友人も知らないと言うのです。
そのパリ近郊出身のフランス人は
あそこはフランスじゃない、住んでいるのもフランス人じゃないと言いますけどね。
2012/07/08 [のほほん] URL #60nqeuCY [編集] 

* Re: 私も思い出しました

のほほんさん、
アルザスという地域はドイツに隣接しているのですね。
ちょっと調べたら住民はドイツ系らしいので
世界文学全集のフランス編に載るというのも適切じゃなかったのかもしれない。
たとえフランス語で書かれたとしても。

両国から継子扱いにされているような地域なのだろうと思いました。
2012/07/08 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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