過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

Profile

September30

Author:September30

Visitors Counter

Search form

海の旅 (2/2)

cruise06-blognew.jpg

Nassau, Bahama


ディナーの時間になった。 僕はシャワーを浴びるといやいやながらスーツに着替えてメイン・ダイニングルームへ向かった。 席があらかじめ決まっているようで僕が案内されたのは七人掛けの大きな丸テーブルだった。 僕の右隣にはカレッジの学生らしい若い女の子がいてその隣にはユダヤ人の老夫婦が座っていた。 女の子は彼らの孫娘だと紹介される。 左側に座ったのは三十歳前後に見える女性でこれも両親といっしょに旅をしていた。 
やがて全員が席についてシャンペンが注がれる頃には盛んな会話がテーブルの上を飛び交っていた。 ユダヤ人の老夫婦は僕が日本人だと知るとことさら興味を持ったようで、間にいる孫娘をスキップして盛んに僕に話しかけてきた。 孫娘は孫娘で僕の左に座る女性と話がはずんでいるので、僕の提案で孫娘と僕は席を取り替えることにした。

その夜、どんな料理が出てきたのかまったく覚えがないのはたぶん旨くも不味くもなかったので印象に残っていないのだろう。 食べることよりも、飲みながらの会話が主になったディナーだった。 ユダヤ人夫妻はサウスキャロライナから来ていて、ご主人は今では息子さんに譲ったけど櫛を製造する会社をやっていたらしい。 そのころミチオという名の日本人学生をハウスボーイとして住み込ませていたことがあって、息子同様に扱って面倒をみたそうだ。 ミチオ君のバースディにはプレゼントとして彼の両親を日本から招待したりしたのがきっかけで、夫妻は何度か日本へも行っていた。 ミチオ君が大学を終えて帰国したあと何人ものハウスボーイやメイドを雇ったけど、彼以上に気に入られた者はいなかったようだ。 
70年代に『日本人とユダヤ人』という本が日本とアメリカの両国でベストセラーになったことがあって、僕も彼らもその本を読んでいたので、二つのまったく異質の文化を持つ国民が、ある点で非常に類似している、というようなことが話題になった。

僕が、左にいる孫娘に、船の旅を楽しんでるかと訊いたら 「死ぬほど退屈よ。 でも祖父母は思いきり楽しんでるようだから良かった。 私はお守り役でついてきたの」 と言っていた。 彼女は僕がマテニーにビールをチェーサーにして飲んでいるのを見て、かっこいいと言って自分も同じものを注文していた。 

ディナーがお開きになると、僕はテーブルの皆に「明晩また会いましょう」と挨拶をしてひとりで上のデッキへ上ってみる。 暗闇の中には海も水平線も見えず、頭上にはまるでプラネタリウムのような星空があった。 風はなく、船が相当の速度で進んでいるのが顔にひやりと当たる空気から感じられる。 僕はゆっくりと煙草を一本吸ってから下に降りると船室へ帰って、『パパ、ヘミングウェイ』の世界へと戻っていった。


船の中にいるというのは監獄にいるのと同じだ。
船なら溺れ死ぬかもしれないという違いがあるだけで。
Samuel Johnson




にほんブログ村 写真ブログ モノクロ写真へ
スポンサーサイト

コメント:

*

ユダヤ人のご夫婦は、日本人とユダヤ人の作者が日本人ということはご存知だったのでしょうか?
あの本は、ユダヤ人にはあまり好意的に受け取られていないのではないかと思っていました。
私も本を読みましたが、感想はノーコメントです。
2012/05/08 [micio] URL #O/XG6wUc [編集] 

* Re: No title

micioさん、あの本は出版後いろいろと物議を醸したのを知ったのはずっと後になってからです。
ユダヤ人夫妻も私もなにしろ何十年も前に読んだ本なので内容は覚えていませんでしたが、好意的に読まなかった、という点では双方が一致しました。
社交の場で話題を提供してくれた、という点でこの本は役に立ったようです。
2012/05/08 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

コメントの投稿

:
:
:
:
:

:
: ブログ管理者以外には非公開コメント

トラックバック:

>>>> http://blog1942.blog132.fc2.com/tb.php/382-38e3c26d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)