過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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宿命という名の電車

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King of Prussia, Pennsylvania USA


男が自分の宿命を決めるんじゃない。
彼の人生の中の女たちがそれを決めるんだ。
Groucho Marx


信じられないような偶然が、なぜか僕には時々おこる。

つい最近、僕はケンタッキー州のC市まで出かけて行って、ある日系企業の人事部長とミーティングをしていた。 その会社は自動車の部品を作る工場を持っていて長年にわたる僕のクライアントであった。 僕の仕事は今では嘱託のようなものなので、以前のように毎日あちこちを飛び回るということはもうなくなったが、それでも古い顧客からの要望があればこうして出かけて行くのである。 その日のミーティングというのは、この会社に十年以上勤めたアメリカ人の人事部長が退職して、そのあとに新しく赴任した人との顔合わせということだった。

今日は二人だけのミーティングなので会議室を使わないで、受付の女の子は僕を彼の個室へ案内してくれた。 例によってお互いに自己紹介をして握手をする初対面の挨拶をした時に、すぐに気がついたのは彼は日本語は話せないけれど明らかに日本人とのハーフだということだった。 年齢はたぶん四十歳前後だろう。 人事部長という要職につくには若い部類に入る。 スポーツマンのようなキビキビした身のこなしをする人で、彼の持つ雰囲気も人事を担当する者によくありがちの権威的で恐そうなところがなく、僕は最初から好感を持った。

一時間ほど仕事の話をしたあとは自然と雑談になった。 ニューヨーク生まれの彼は父が日本人、母がアメリカ人だそうだ。  三人兄弟の長男だと言った。 僕が彼自身の家族のことを訊くと十歳の娘と七歳の息子がいると言う。 これがそうですよ、と言って机上の写真を手に取った、 そういえばアメリカ人なら必ずそうするように、彼のデスクには家族写真が飾ってあった。 僕はその写真を見ようと立ち上がるとデスクの横を回って、幸せそうな親子四人のスナップショットを眺めた。 

その時、その横に立てかけられたもう一枚の写真に目を移して僕はあっと息を呑んだ。
「これは?」 と訊いた僕に彼が説明をする。
「母の若い時の写真です。 母はこの写真がとても気に入っていて私が生まれる前から自分の部屋に架けていたので、私も子供の時から見慣れた懐かしい写真です。 つい最近コピーをして私に送ってくれたばかりです。」
「誰が撮ったのでしょう?」 と僕は胸をどきどきさせながら訊いてみた。
「それが、旧(ふる)い昔の友人としか言ってくれません。」  
 
それはまぎれもなく37年前に僕が撮ったこの写真だった。


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コメント:

*

そんな凄い偶然が、長くて短い人生の中にはあるものですね。37年前に撮った写真が年月を経て写真を撮った本人の目の前に出現するような偶然は、傍らで聞いていてもどきどき、ぞくぞくしました。
37年間ずっと大切にしてくれたなんて。
嬉しいですね。
2012/08/06 [yspringmindURL #UOM.WK7I [編集] 

*

またまたSeptember30さんの世界に惹きこまれます。
本当にドラマのような偶然がたくさんありますね。
で、このお話には続きがあるのでしょう?
2012/08/06 [けろっぴ] URL #- 

*

ご自分が撮影なさったことは伝えなかったのですか?
まさか掘り起こしてはマズいことが…
なーんつって。
September氏はなんだかそういうことが多そうで。(笑)
2012/08/06 [micio] URL #O/XG6wUc [編集] 

*

ドキドキ・・・
これだから写真が好きです。
September30さん、自分の足が入らないように影も映らないようにどうしたんだろうとか、被写体との距離が気になります。 
その距離から私の妄想がはじまります。
2012/08/06 [アンリ] URL #0.M2lW/c [編集] 

* 「事実は小説より奇なり」

語源の由来はイギリスの詩人・バイロンの言葉とのこと、ブログにずっと親しんでいますが、
september30氏の人生、「事実は小説より奇なり」な事が実に多い、正に奇なり!
2012/08/06 [henri8] URL #av6ed.vY [編集] 

* Re: No title

yspringmindさん、

写真に関してこれに似た話はほかにもあって、
私の義妹夫婦が数年前、休暇でコロラドに行ったときに
偶然入ったレストランの壁に私の写真が掛かっていたのを見てびっくりしたそうです。
オーナーと話をしてわかったのは
そのオーナーが昔ボストンで学生時代を過ごしたときに
道端で写真を並べて売っていた貧しそうな日本人の写真家から
その写真を買ったということがわかり、
双方がその奇妙な巡りあわせに話が弾んだと言っていました。

自分の知らない世界のどこかに
自分の創作が生き続けている、と思うのは
不思議な気持ちです。


2012/08/06 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

けろっぴさん、

残念ながら
この話はここで終わりです。
もし友達同士なら、失われた軌跡が再び交わることになったかもしれませんが、
そうはいかないところが
男と女の哀しいところでしょう。
2012/08/06 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

micioさん、

伝えませんでした。
「去るものは追わず」
私の人生観です。
2012/08/06 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

アンリさん、

お互いの人生の数年間を共有した女性なので
写真はたくさんあるはずなのに
今残っているのはこの写真だけです。

思い出というのは、すべて甘いものばかりではありません。
2012/08/06 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: 「事実は小説より奇なり」

henri8 さん、

常套句だけどたぶん、そういう星の下に生まれたのだろうか、
と思うことがあります。
ところが星占いのことは何も知らないので
誰かご存知の方、一度占ってみてください。(笑)
2012/08/06 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

あれっ?と思い、2度読んで2度計算してしまいました(笑)

2012/08/07 [Endless] URL #d2yN2EXI [編集] 

*

なんと劇的な!鳥肌が立ってしまいました。
是非とも、このエピソードの続きをいつか!!
2012/08/07 [わに] URL #- 

*

村上春樹の小説かヒッチコック映画の冒頭部に出てきそうな、「何か大きな、効し難いものに巻き込まれいく」展開になりそうなムード!そういえば14年も前のことですが、September30さんと初めてお会いし、ついでに昼食(中華)をご馳走になったことがあります。初対面のせいか緊張して麺をすすっていると、突然「ああこの人は、一年以上前、僕が大学の宿題のリサーチ(日系人史)のため、アメリカに長く住む日本人の方を手当たりしだい(今考えると迷惑ですよね)電話しまくった際に丁寧に応対してくれた人じゃなかろうか」とはっとしたことを思い出します(事実そうでした)。September30さんは、どこかでみんな(どのみんな?)とつながっている!
2012/08/07 [November 17] URL #- 

*

September30さん、いいえ、私の言う『お話の続き』とは、そういうことではなくて...というのは、その後どうなったかではなくて、その、37年前の彼女との思い出を語ってくださるのかな~っと思ったのです。無理にとは申しませんが...笑
2012/08/07 [けろっぴ] URL #ok7oinrE [編集] 

* Re: No title

Endless さん、

えっ、何の計算でしょう? (笑)
答えが出ましたか?
2012/08/07 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

わにさん、

上のコメントにも書きましたが、
この話はこのままここで終わりにするのがよいでしょう。
彼女のためにも息子さんのためにも。
2012/08/07 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

November 17 さん、

え~っ、
そんなことがあったんですか?
私に会った?
私の読者には仕事関係の人はまずいない、と思っていました。

ひとり心当たりのある人がいるのですが、
あの人かなあ。

覆面を脱いでほしいですね。
また中華をご馳走しますよ。(笑)
2012/08/07 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

けろっぴさん、

ああ、そういうことだったのですね。
彼女のことはほとんど書いたことがありませんが
それというのも・・・・

ちょっとだけ出てくる記事はあります。

http://blog1942.blog132.fc2.com/blog-entry-19.html
http://blog1942.blog132.fc2.com/blog-entry-62.html

2012/08/07 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

September30さん、
この犬を見たときに、いつかSeptember30さんがダルメシアンの犬のことを書いてらしたなぁ、と思っていたところだったのです。で、結局、『去るものは追わず』ではなく、『去っていった』ほうだったのですね。わかりました。深追いはやめましょう(笑)
2012/08/08 [けろっぴ] URL #ok7oinrE [編集] 

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2012/08/08 []  # 

* Re: No title

けろっぴさん、

わかってくれて、ありがとう。
2012/08/08 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

鍵コメさん、

おっしゃる意味がよくわかりません。
私のほうはおかしなところは何も無いのですが・・・
2012/08/08 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

短編小説のようなお話です。朝、こんなお話を読むと、1日が楽しく暮らせそうです。

週末、大学に入学する息子を連れて、貴州まで参ります。オハイオ出身ボストン在住の友達の旦那さんに
オハイオいいとこ一度はおいで。大都会の人とは全く違ういい人(そして大きな人)にたくさん会えるから。
2012/08/17 [中田久乃] URL #- 

* Re: No title

中田久乃さん こんにちは

息子さんは結局オハイオの大学に決定されたようですね。 
たぶんコロンバスなのかな、と推測しています。
オハイオ気質についてはたしか以前にコメントを交換した記憶がありますが、
中田久乃さんが実際にどう感じたのか、
ぜひ教えていただきたいですね。
2012/08/18 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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