過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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ステージに幕が下りるとき

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弔ひ
Puerto Vallarta, Mexico


中嶋が死んだ。

昨年の秋、八人の仲間が白浜に集まって、そこから京都へ行った時には、あいつはあんなに元気だったのに。 あの時にはもう彼の内部で癌が虎視眈々と醜い戦闘を開始していたのだろう。

岩手に住む中嶋を見舞って、仲間の一宮と岩嶋の二人が豪雨の過ぎたあとの東京を発ったのが土曜日の朝だった。 その日の午後二人は病室で中嶋に会っている。 そこでしばらくいっしょに時間を過ごしたあと、そのまま東京に引き返すという強行軍になったのは、盆明けの週末でホテルが取れなかったせいらしい。 
彼らは日曜日の午前2時過ぎに東京に帰ってきたのだが、中嶋は二人が無事帰京したのを確かめたかのように、それから5時間後に逝ったのだった。

そして訃報を受ける前に一宮が皆に送ってくれたメールがこれである。

***

この病棟では痛みや息苦しさなどの症状緩和のために、栄養剤・抗癌剤とモルヒネを点滴しているので意識が混濁してしまっていると奥さんに聞かされていたが、前の日に輸血をしたせいか、今日はすこし元気が出ているそうだった。 
病室に入ると、中嶋は目を開いて天井を見ていた。
「中嶋!」 と声を掛けると、彼はこちらに視線を向けたが、我々を判別しているのかどうかは不明。
「つい数ヶ月前まで元気で、去年の関西旅行でもお前は良く食べてたんだよ」 と岩嶋が話しかけると、中嶋は聞き覚えの有る声に何か心地よさを感じているような表情を見せてくれた。
彼が時々声を出そうとするが、ロレツが回らないのでなにを言おうとしているのかわからない。何回か聞き直して、「どうやって(一関まで)来たの?」 と判った。 「車で来たから(東京まで)乗ってく?」 と聞くと 「ウン」 と答えた。
そして時々、我々の帰りを心配してか、「車を呼んで!」と奥さんに言ったりしていた。

菅原から託されたカウントベーシーのCDをかけると、彼は一点を見据えて真剣に聞き入っている様子なので、「聞いてる!」 と全員が確信した。そして時折、右手でトロンボーンをスライドするような仕草をするのが、昔ながらの中嶋を見ている思いだった。 ここに来るまでは、もし意識がなければ、10分ほど邪魔をして帰ろうと思っていたのだが、彼の顔付きも最初に見た無表情からしだいに穏やかな表情に変わっていて、我々もついつい4-50分の長居をしてしまった。 その間、中嶋は目を瞑って音楽を聴いているようだったので、帰るのにとても声を掛けにくかったが、「また来るね」 と何度か繰返して言った。 彼を一人に放っておくのが忍びなく、奥さんにはそのまま部屋に残ってもらって我々は退室した。

***

大学を終えてすぐに、シャープス・アンド・フラッツにバストロンボーン奏者として引き抜かれた中嶋の、昔の愛称は「坊や」だった。

眠れ 坊や


"In a Sentimental Mood"




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コメント:

* In a Sentimental Mood ・・・

いい弔辞ですね。
とても。
とても。


一宮さんのメールからにじみ出てくる、
しずかで真摯な、ひとすじのその時間。

まるで自分もそこにいるように感じられました。

ましてSeptemberさんなら、
遠く離れて寄り添っている男たちなら、
なおのこと、

…トロンボーンを、操る手…

きっと、その時間に、共にあったのだろうと思いました。

共に居たことの証しのために、
一宮さんはこのたよりを仲間たちに送ったんだな、と、
思いました。


さびしくて、かなしいけれど、
もっと大きな、
大きなうねりのようなものを、
Septemberさんの文字から感じました。

哀惜という以上の、大河のように滔々と流れるうねりを、
感じました。

意外に過ぎる、あの、ビッグバンドの「In a Sentimental Mood」の中で。
とても。
大きなものを感じました。

男の人生、というようなものかな。。。


たぶん、みんな今、
お仲間のみなさん、みんな、
同じ想いの中にいるんでしょうね。

人生の色はそれぞれで在りながら、
同じ想いのなかに、いるんでしょうね…


生きてくださいね。
生き抜いて、みなさん。

愛したものを愛し通して、生き抜いてくださいね。

その道を、
中嶋さんがつけてくださいましたね。


合掌






2012/08/20 [belrosa] URL #- 

*

私も、小学校以来一番の仲良しだった友人を、一昨日の朝亡くしました。今年の始めにいきなり癌で余命3ヶ月を宣告されました。いっときは外を出歩くまでに回復したように見えたので安心していたのですが、突然でした。お盆の時期は連れて行かれてしまうことが多いようですが、福島の事故が原因ではないのだろうかと考えてしまいます。岩手も一関や平泉はかなり汚染が酷いようですが、都内も驚くような数値をだすエリアがたくさんあります。ともあれ、September30さんの悲しみをお察し申しあげます。心より哀惜の意を表します。
2012/08/20 [川越URL #uvrEXygI [編集] 

* Re: In a Sentimental Mood ・・・

belrosaさん

胸がいっぱいです。
記事を書いているときは平気だったのに
あなたのコメントを読んで眼がしらが熱くなりました。

逢ったこともない私たち仲間と悲しみを分け合ってくださってありがとう。
2012/08/20 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

川越さん

そうだったんですか。
仲良しのお友達を失くした川越さんの悲しみをお察しします。
私の友人の死も福島の事故と結びつけた話は聞いていませんが
当然あちらでは出てきているのではないか、と思っていました。
仲間からの知らせでは、理由あってクリスチャンに転向していた故人の葬儀は教会で行われるそうですが
私は出席できません。
はるかアメリカから祈ることにします。
ありがとうございました。
2012/08/20 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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2012/08/22 []  # 

* そのトロンボーン奏者とは、この方ですか?

9月様

 先月辺りから、「その機会有れば、連絡差し上げよう」と手元のお気に入りに留め置いている画像があります。
 それは毎年末、某国の国営放送局が主宰する歌謡番組の一部を記録したものです。その番組は、幅広い視聴者各層から絶大な人気を呼び、歌手の伴奏を務めるバンドにも、著名な楽団が抜擢されています。
 で、その著名バンドの前から2列目、トロンボーンを吹いているのが、その人ではないですか?

 例に依り、詳細は別便にて御報せします。お待ち下さい。
2012/08/22 [Yozakura] URL #Y2lB8pKc [編集] 

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2012/08/22 []  # 

* Re: お悔やみ申し上げます。

鍵コメさん、始めまして。

いつもここに来ていただいているそうで、ありがとうございます。
温かい言葉を寄せてくださって感謝しています。
これからもよろしくお願いします。
2012/08/22 [September30] URL #- 

* Re: そのトロンボーン奏者とは、この方ですか?

Yozakuraさん

私も興奮して動画を見てみました。
残念ながら古いビデオで解像度が極端に悪く、私には確認ができません。
年代的には彼がこのバンドに入団した直前か直後ということになります。
念のため、友人たちにリンクを送って見てもらおうと思います。
2012/08/22 [September30] URL #- 

*

あつい友情を感じました。
男同士ってとても羨ましい。

最後の床で懐かしい音楽に抱かれて、
中嶋さんは孤独や恐怖から解き放たれたと確信します。

September30さんどうぞお力を落とされませんように。

2012/08/22 [ムー] URL #qiVfkayw [編集] 

* Re: No title

ムーさん、

ありがとう。
今日は葬儀の日でした。
遠くアメリカからあいつのことを思っていました。
2012/08/23 [September30] URL #- 

* こちらの方が鮮明ですよ

September30 様
 「画像が古く解像度が低い為、詳細が判明しない」との由、残念です。
 それならば、以下のビデオはどうでしょうか?同じ演奏会でも、同一グループの伴奏者達の表情が、こちらの方では鮮明に写っています。
 例に依りまして、別便にて連絡差し上げます。お待ち下さい。
2012/09/01 [Yozakura] URL #Y2lB8pKc [編集] 

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2012/09/01 []  # 

* Re: こちらの方が鮮明ですよ

Yozakura さん

いつもありがとうございます。
じっくりと見ました。
左から二人目が彼のように思えるのですがやはり確かではありません。
これもまた友人間に流して見てもらいます。

2012/09/02 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 脈はある模様ですね?

9月様
 お手紙を拝見しました。少しは脈がある模様で、良かったです。まぁ、この時代の記録画像ですから、機器や設備の点からも、余り多くは望めないでしょうが。
 ただ、昔を知る人達にしてみれば、職場で活躍中の画像映像は、一見の価値はあるのでしょう。御本人ならば、宜しいのですが-----。お元気で。
2012/09/03 [Yozakura] URL #Y2lB8pKc [編集] 

* Re: 脈はある模様ですね?

Yozakura さん

現在友人たちに訊いています。

実は私も、
ひとが貸してくれた昔のテレビの放映をビデオを見ていて
そこにいきなり自分自身が出てきてあっと驚いたことがあります。
60年代後半のものですが
今ではもうビデオを見ることもできませんよね。
2012/09/05 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: 脈はある模様ですね?

Yozakura さん

あの動画はYozakuraさんが1965年と書かれていたので、それならちょうど彼が大学を終えた時期だし、
また私の見た限りでは左から二人目が彼のような気がして
数人の友人たちに動画を送ろうとしたのですが、
よく見るとあの紅白は1963年のものなんですね。

ということは
中嶋はまだ在学中でした。
したがって彼が♯$♭で演奏していたはずはないのです。

余談ですがあそこで『伊豆の踊子』を歌っている吉永小百合さんは
私の大学の下級生で、私は特にサユリストではなかったのですが
学園祭のパーティで彼女にダンスの相手をしてもらったことを忘れません。

おかげさまではるか昔の日々を思い出せていただきました。
2012/09/13 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 2本目を御覧下さい

930さま
 お手紙を拝見しました。昔日の学園祭のダンスを思い出したとの由、大いに役立った様で、何よりです。
 ただ、私の説明不足のせいでしょうか、動画の内容を誤解されている模様なので、重ねて説明します。

 あの動画ビデオは、全部で3本のOriginal Videos を纏めて編集したもので、その内2本目が、私より紹介差し上げた独奏者と背後の伴奏者を撮影特集したものです。
 詳しくは別便にて、連絡差し上げます。お待ち下さい。
2012/09/13 [Yozakura] URL #Y2lB8pKc [編集] 

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2012/09/13 []  # 

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2012/09/13 []  # 

* Re: 2本目を御覧下さい

Yozakura さん

ああそういうことだったのですね。
最初の1本の中ほどまで見てそのまま止めてしまったようです。
再度見てみましょう。
2012/09/13 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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