過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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500年の静寂

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Le Crestet, France


ふと迷い込んでしまった丘の上の小さな村。 旅行案内書には名前さえ出ていない。 晩秋のころの南フランスの街道を車で走っていて、まるで見落とされるために立てられたような目立たない標識を通り過ぎたとき、僕は車を回して引き返したのだった。 街道から細い枝道に入って行くと、はるかな前方の丘の頂上に、白い石造りの集落が見えて来た。 車がようやくすれ違える幅の道路が蛇行しながらその丘に向かっていて、道路の両側は一面のブドウ畑である。 丘のふもとにたどり着くとそこから先はもう車では登れない。
車を棄てて歩き始める。 それまでは舗装されていた道路が赤土の登り道に変わり、それが頂上に近づくにつれて砂利道になる。
(古い部落だ) ということがひと目で分かる。

小さな教会の前を通る。 閉まっている木のドアをためしに押してみると、ぎいーっと音がして開き、僕は中に入ることができた。 木製のベンチがいくつも置いてあるが二十人も座るといっぱいになってしまうほどの広さである。 内部はきれいに掃除が行き届いていて、現在でも日曜の朝には村人たちがここに集まるのだろう。
教会を出てさらに登って行くといくつかの人家が見えてきた。 ひっそりとしてどこにも人気は感じられないが、庭に張られたロープに白い洗濯物が吊られていて、そこにだけ人の生活の気配があった。
さらに登り続けると小さな広場のようなところに出て、そこには古い噴水があった。 水は出ていないが溜まっている水はきれいに澄んでいて棄てられたという感じはなく、なんとなくここが部落の中心地だという気がした。

耳をすませても何も聞こえない。
永遠の静寂・・・・ 
鳥は鳴かず、噴水の水音は無く、葉をそよく風の音さえ無い。
いや、そのとき幽かに幽かに僕の胸に響いていたのは、あれはヴァイオリンのすすり泣きだったような気がする。
完全に止まってしまった時間の中に、僕はいた。

バッハ G線上のアリア



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UserTag: crestet 

コメント:

*

この町はやはり素晴らしいです。
本当に尋ねてみたくなります。
引っ越されたのは寂しい感じがしますが
こちらの方も楽しませていただきます。
2010/10/12 [LeiticaURL #3JXvVLFE [編集] 

* Leiticaさん

やむなく引越しをしました。今までと変わらずぜひ訪ねてください。
2010/10/13 [September30] URL #- 

*

はじめまして。
不思議なご縁です。
私は、本職は別ですが、学生時代からJAZZバンドで、ボーカルをしてました。ポピュラーも含めた、洋盤懐メロです。
つい先日、その頃のオールドフレンド・ギタリストの井上智(ジム・ホールの直弟子です)が、20年のNY生活を終えて、日本に帰ったばかりです。
リンク欄が見当たらないのですが、もしあれば、ぜひ、相互リンクさせて下さい。
2010/10/13 [オグリURL #- 

* オグリさん

初めまして。
立ち上げたばかりのブログでまだプラグインの使い方がよく分からないのです。それでリンクの欄も勉強中です。
これからもよろしくお願いします。
2010/10/13 [September30] URL #- 

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