過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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サマーヴィルのころ (1/2)

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アップルパイを作るには、まずリンゴの皮を・・・
Somerville, Massachusetts USA


長いあいだ住んだボストンを引き払って、僕ら家族四人は妻の郷里であるオハイオ州の中都市に引っ越して来た。
そのボストンでの最後の五年間を過ごしたのが、この郊外のサマーヴィルの大きなアパートだった。 マヤが4歳から9歳、太郎が2歳から7歳までの幼年時代を過ごしたここでの生活が、今は成人となった子供たちの記憶の中で、大きな部分を占めていないはずはなかった。

僕らのアパートは典型的なトリプルデッカー(三階建)の古い大きな建物で、その1階全フロアーを僕らが借りていた。
大きなリビング・ルーム、ダイニング・ルーム、キッチン、大小二つのベッドルーム、と書斎に僕が使っていた半地下の部屋、それにこの写真の、陽あたりの良いサンルームが背後についていた。 そのサンルームは子供たちの格好の遊び部屋になっていて、三方の窓の外には葡萄の蔦が壁中に這っていた。 時期になるとむらさき色の葡萄の房がいっぱい窓に吊り下がった。
サンルームの外には小さいながら、子供のスベリ台とか、砂場を設置するのに十分な芝生の庭もあった。 人家の立て込んだこの地域で、家族四人にとって贅沢すぎるほどのこれだけのスペースを見つけられたのは、ラッキーだったと言えるだろう。(その訳はあとになって判明する)。

このサンルームで、僕は朝のコーヒーを飲んだり、子供たちと遊んだり、日曜の朝には、すぐ裏の家に住む家族を呼んでいっしょに朝食を食べたり、その上、妻にとってはここはアトリエにもなっていて、大きな木製のイーゼルがでんと置いてあった。
写真の窓の向こうに見える隣家にはチューリさんというイタリア人の老夫妻が住んでいて、うちの子供たちを自分の孫のようにかわいがってくれたものだ。 そしてチューリさんと我々の家の間にはわりと大きな菜園があって、老夫婦が丹精をこめて、トマト、ズキニ、レタス、バジルなど種々の野菜を栽培していて、僕らはその庭から欲しいものをいつでも勝手に採ることを許されていた。

ある時、そのチューリさんのご主人が何気なく言った言葉に僕が訊き返した時に、彼の話でなぜこんな良いアパートがしばらくのあいだ借り手がなくて空いていたのかがわかったのである。
以前の住人であった若い男は、入院していた精神病院から出てきてここで両親と住んでいたそうだ。
それがある日、この写真に見えている窓の外で、男が母親を野球のバットで撲殺してしまう。

それはたしかにショッキングなニュースで、妻も僕もそれを聞いた時は少し気味が悪くなったことは確かだけど、それであわててまた引越しを考える、というほどのものではなかった。 僕らはそれほどこの家が気に入っていたのである。 ただ、子供たちには言わないでおこうということになった。
その後、夜中に歩き回る足音が聞こえたり幽霊を見たりする事もなく、いつのまにかその事は忘れてしまった。



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コメント:

* おはぎ

懐かしい気持ちになりました。
私がこの写真のお嬢さんと同じ位の年齢だった頃、よく母と弟と一緒におはぎを作ったことを思い出しました。

英国では野球をしないので、バットで殺人、という話は無いな、とふと今思いつきました。
この事はまだお子さん達に秘密なのでしょうか。
2012/08/31 [MM] URL #- 

*

蔦が絡まるサンルーム、憧れます。
ブドウの葉っぱは何とも言えない可愛らしさがありますね。

真相を知ったときのお気持ち…お察しします。
でも以前、主人に言われたことがあります。
太古の昔から今の今まで
生物の命が尽きたことのない場所を探すほうが難しいと。

パリでは鳩が多すぎるのか、運転が荒過ぎるのか、
轢かれて死んでしまっているのを道でよく見かけました。
無残な姿に心が痛みますが
そんなときはこの主人の言葉を胸に言い聞かせ
あまり見ないようにして通り過ぎていました。

September30さんご一家が
幽霊を見ずに済んだことは幸いでした。
2012/08/31 [tony] URL #mQop/nM. [編集] 

* Re: おはぎ

MM さん

子供はなんといっても母親と過ごす時間が圧倒的に多いので
その思い出も父親よりははるかに豊富なわけですよね。

ところで
おはぎ、という言葉を見て無性に食べたくなりました。
最後に食べたのがもう思い出せないくらい昔のことです。

野球のバットはアメリカでは男の子のある家庭なら
まずどこでも持っています。
映画などでもよく凶器として使われていますね。

このショッキングな事件は子供には伏せておいたのですが
やはり近所の子供たちから自然と耳に入ってきたようです。
その時どんな反応を示したのかは記憶に残っていませんが
それで我が家が怖くなる、というようなことはなかったと思います。
2012/08/31 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

tony さん

私は今でもそうなのですが、
家のドアを開けて外に出るとそのまま足が大地に着くというのが大好きです。
それもコンクリートではなくて土の地面に。
都会向きの人間ではないのでしょう。(笑)

路上の動物死はこちらではRoad Killと呼びますが、
これは家の近所でもハイウェイでもしょっちゅう見ます。
リス、ラクーン、ウサギ、それに鹿ですね。
ハイウェイでの鹿の衝突は車の破損だけではなく
人命にも関わるので問題になっています。
2012/08/31 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

こんにちは。昨日思ったよりも随分早くに写真が届きました。写真を眺めながら、改めて一人一人の表情の豊かさに感嘆しました。今週末は写真にぴたりのフレームを注文する予定です。有難うございました。
2012/09/01 [yspringmindURL #ikFAN0fc [編集] 

* Re: No title

yspringmind さん、

ええっ、もう着きましたか?
早い! 世界に悪名高いイタリアの郵便制度は改善されたのでしょうか?
それとも何かのまちがいかな。(笑)

あの写真は以前のブログに載せたものなのに、よく覚えていてくださいましたね。
ありがたいことです。
2012/09/01 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* おとぎの国の家族

太郎ちゃん、かっわいいですネ~。
すごくお父さんのことが好きなんだなあと感じました。

あたしもあこがれます、葡萄の家。
いつか愛する人と持つ家は、
桜の森の中でつたバラが這って葡萄の下がっている、季節の楽しみがすべてある家、
なんて夢見てました。
Septemberさんが葡萄のなる家に住んでらしたなんて、ちょっと意外でしたけど。(笑)

いいご家族ですね~、眺めているとほっこりします。
マヤちゃんはお母さんのアップルパイのレシピを覚えたのかしら、うれしそうだもん。(笑)
こんな家庭なら苦労もし甲斐がありますネ。
さらにSeptemberさんを尊敬してしまいました。(^o^)v

2012/09/06 [belrosa] URL #- 

* Re: おとぎの国の家族

belrosa さん、

この3階建の建物は、1階の私達に付いていた半地下の1部屋を除けば
部屋の配置が全く同じで、この葡萄の蔦も3階まで伸びていました。
食べてみたけれど酸っぱくてとてもだめで、
妻がジャムを作ったりしていました。

belrosaさんがいつか住む森の中の家は
きっと白雪姫が住んだ家のような感じでしょう。
でもbelrosaさんが一緒に暮らすのは7人の小人ではなくて
7人の愛人なのでしょうね。(笑)
2012/09/06 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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