過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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芸術写真? 写真のレシピ (9)

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叔母と甥
Dayton, Ohio USA


人の撮ったスナップ写真を見るのが好きだ。
バケーションから帰ってきた友人や知り合いや親類に会うと、きまって 「旅行の写真が見たいなあ」 といリクエストをする。 たいていの場合彼らは、ただのスナップショットでいい写真なんかないから僕なんかが見てもきっと面白くないよ、と前置きをして、それでも喜んで何十枚と分厚いスナップショットの束を持ち出してくる。 1枚1枚を丹念に見ながら僕はいろんな質問や感想を浴びせる。 「これはなに?」 「これは誰?」 「ああ、これはいいね」 「何を食べてるんだろう?」 「もっと近づけなかったの?」
そういう類の質問を受けることが嫌いな人はいない。 それに答えることで、彼らは忘れられない楽しい休暇をもう一度生きているのである。 そして彼らが最後にきまって云う言葉が、
「あなたみたいな芸術写真が撮れれば、どんなにいいだろうなと思うよ」 

芸術写真?
それってなんだろう?
ウィキペディアの定義によると
芸術写真とは、一般的に、記録、証明等のためではなく、芸術作品として撮影された写真のことである
となっている。

これはまったくおかしいと思う。
「よし、スナップはもうこれぐらいにして、さあこれから芸術写真を撮るぜ」 とカメラを構えなおして被写体に向かう写真家なんているもんか、と思う。
僕自身を例にあげると、僕は自分の撮る写真はすべて例外なくスナップ写真だと思っている。 それが人物であれ風景であれ、すべて自分の記録のため、自分がそこに確かに居た、という証拠写真のようなものだ、と思っている。 もっと簡単にいえば、ただ撮りたいという衝動にかられてシャッターを押しているだけで、それが次回の個展のためだとか、ブログに載せるためだとか、ネットで売るためだとか、そんなことは何も考えていない。 (個展も写真集もブログも、ネット上でのビジネスも、結果としては僕はやっているけど)。
 
僕が人のスナップ写真を見るのが好きなのは、そこに写っていない本人が見えるからだろうと思う。
休暇の旅行だけでなくふだんの日常の生活の中でおよそ誰でも撮るのがスナップ写真だけど、そのほとんどは私的な記録として撮られることが多いようだ。 旅行先で目の前の風景などに感動して思わず写真を撮らずににはいられなかった、という場合は、それは無意識に自分のための記録として残したい、という気持ちの現れじゃないかな。 もっとも、家に帰って家族に見せてやりたいとか、自分がここに来たという証拠写真として残したいという場合もあるだろうけどね。 (そばにいる人にシャッターを押してもらって自分(たち)が風景の中に入る、というのはその良い例だ)。

旅行だけではなくて、家族やペットの写真も同じだ。
そういう、他人が見てもあまり意味のないような超私的な写真を見るのが僕は大好きだ。 そこに写されているものから、その時写真を撮った撮影者の意図や、心情を推測するのは僕にとっては非常に興味深い、一種のゲームのようなものだと思っている。
確かに構図がばらばらだったり、被写体がブレていたり、露出に失敗したりしたものが多くて、作品と呼ぶには程遠いかもしれないけれど、そんなことは英語で言う "So waht?" (だからどうだと言うんだい?) ということになる。
その人の見た風景への感動や、家族やペットに対する強い興味や愛情がじっくりと素直に表れていて、見ている僕は思わず微笑んでしまう。 そういう写真が好きだ。 あの荒木経惟が 「私写真」 と呼んでいるのはこのことなのだ。 技巧とか顕示欲にとらわれない、かけがえのない日記のようなものだ。

そんな中に時々、本人も気づいていないようなすばらしい映像があるのを見つけると、僕は嬉しくなってしまって、色や構図にちょっと手を加えたものをプリントにして差し上げると、とても喜ばれる。 それがきっかけで写真に興味を持ち始めた人が僕の周りにはけっこういる。

自分の興味を惹いたものはとにかく何でも撮ってしまおう。 構えないで、無心な心で、自分のために。
人に見せるために写真を撮るのではない。
ということを噛みしめよう。
周りがなんと言おうと気にしない。 
"So what?"


写真のレシピ(1)』 カラーかモノクロか
写真のレシピ(2)』 ポイントを決めよう
写真のレシピ(3)』 陰影礼賛
写真のレシピ(4)』 クロップの勧め
写真のレシピ(5)』 続・クロップの勧め
写真のレシピ(6) 群集劇のおもしろさ
写真のレシピ(7)』 ミニマリズム
写真のレシピ(8)』  警告!

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コメント:

* ありがとうございます

私はブログを始めてから、「せっかく訪れてくれる方がいるのだから」と、なんとか「良い写真」が撮りたいと思っていましたが、いわれてみれば以前は確かに自分のための、自分が好きな写真を写していたような気がします。いまでももちろんそうなんですけど、微妙に気持ちが違って、「良い写真」を目指していたような気が。初心に戻ってスナップを楽しもうと思います。
2012/11/25 [川越] URL #uvrEXygI [編集] 

* 情

september30さんはきっと情が濃い方なんでしょうね。
良い面も悪い面も含めて人間が好きでなければ、「私写真」が好きとはなかなか言えないと思います。
写真の巧拙で人を判断せず、そこから感じられる感情や感興、人となりや生活の断片を味わってはるんですねぇ。
私は今回のショットを拝見して、エプロン姿のマダムはオーブンで一体なにを仕込んでいるのかな? まだ4時前だからこれから人が集まってくるんだろう、何の祝祭日かな? 壁にかかっているイヤープレートはどこのだろう? とか、窓辺にかかっているのはドライフラワーかドライハーブか、とかが気になっています:)
2012/11/26 [nicoURL #KqigePfw [編集] 

*

ご無沙汰しております。
ブログは毎回拝見しております。

この「写真のレシピ」シリーズは特に楽しみにしていて、第7回の群集劇、そして今回のスナップについての話は自分自身もそういった写真が好きなのもあって、とても参考になりました。

好きではあっても、構図的にしっかりしていること、それぞれの登場人物がお互いに無関係なことをしていることというのはなかなか難しいです。

今回レシピを見直してもっと撮ろうという気になりました。
よい刺激になりました。
これからも期待しております。
2012/11/26 [スライURL #- 

* Re: ありがとうございます

川越さん

私は自分の写真は、良い写真そうでない写真、というより
好きな写真そうでない写真、という基準で見ているようです。
好きな写真を他の人が「良い写真]と云ってくれると凄く嬉しいですね。
それでは自分が好きな写真を誰も認めてくれなければどうするか?
これは簡単です。
他の人を無視します。

問題は、
好きでない写真を「良い写真]だと云われた時にそれにどう対処するかでしょう。
違う見方に目を開かれて考え直すこともあるし
そのまま自分の直感を信じることもあります。

2012/11/26 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: 情

nico さん

「情けが濃い」という純日本的な表現を久しぶりに聞いて、
すっかり考えこんでしまいました。
人間が好きな事は確かなようです。

この写真は妻の両親の家にクリスマスで集まった時のスナップですが、2003年に撮っていますね。
エプロン姿は妻の母、愛情深い叔母に抱擁されて少し迷惑そうな顔をしているのは私の息子です。
そしてそれを見て「また、お母さんたらやめなさいよ」 とでも思っているのが私の姪です。
オーブンのなかで良い匂いがしているのはきっとハムですね。
必ずターキーと決まっている感謝祭とちがってクリスマスには妻の母がハムにすることが多いのは、
一族の中でただひとり、ターキーが嫌いな私のためなのですよ。

壁のプレートは旅行先で手に入れた記念品のコレクションです。
窓辺の花はたしか裏庭で摘んだ生花だったと思います。

私がいつも他の人にすることを今日はnicoさんに質問されて
とても楽しかったです。
ありがとう。
2012/11/26 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

スライさん、こんにちは。

毎月の楽しい月例コンテストで会員の皆さんのスナップを非常に興味深く拝見しています。
私もぜひ参加したいのに、銀塩カメラで撮らない私は入れてもらえない、
というような恨み言を以前にコメントしましたよね。(笑)

テーマのもとに被写体を探すというのはとても楽しくて
写真を撮りに外に出かける良いモチベーションになるでしょう。
そういう私も、もっともっととにかく撮らなければと反省しています。
2012/11/26 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 教育的指導?

ごぶさたしております。ブログは更新されるたびに拝見しています。
このところ身辺あわただしく、こころの余裕がないままにコメントをパスしてきました。

今回は久しぶりの授業だったし、しかもこちらの怠慢を見透かされたような内容だったので、
お詫びかたがたの投稿となりました。

今回のレシピは、自分のことを言われているようで冷や汗が出ました。実力もないのに、
目ばかり高くて(というのも自惚れですね)、満足な写真が撮れません。
目はどんどん写真を好きになるのに、シャッターを押す手は止まったままです。

この悪循環の回路に入り込んで、以前好きな道をあきらめた経験があります。
ジャンルが変わっても、習性というのは変わらないものですね。

一段落したらゆっくりお便りします。そういえば贈っていただいたパリの写真は、
世界堂さんの手違いで額装に随分時間がかかりましたが、無事仕上がって
今わがデスク正面の壁に飾られています(いつも見ていたいのでリビングから移動しました)。

実際の思い出よりノスタルジックな、パリらしいパリです。ありがとうございました。


2012/11/27 [centerfield] URL #8bsxoj2c [編集] 

* Re: 教育的指導?

centerfield さん

実は私自身もこのところ写真を取るのを怠けていました。
毎日が日中でも4℃、朝は零下まで下がる寒さで、家で縮こまっていました。
昨日は気を取り直して久しぶりにカメラを下げて外へ出たのですが
短時間だったけれど、面白いものが数枚撮れてそれで幸せになりました。

パリの写真は気に入っていただけたようでとても嬉しいです。
あのショットも旅行のあと長い間気づかずに放っておいたのがある時目に止まって
それで手を入れたら、見れば見るほど自分で好きになったものです。
以前にたしか二人の方がクイズの賞品として希望されたし、
数枚が売れました。

centerfield さんのように私的な思い出があるという方は初めてです。
2012/11/27 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* おお

おひさぶりでございます。いつも読み逃げすいません。
人に見せるために、、のくだり、なんだか名言で熱い気持ちになりました。そうですよね。生き様がそう。自分がいい、自分でいいのだから、と改めて感じました。気をつかせてくれてありがとうございます。ちーん
2012/11/28 [MOCHI] URL #LDha.2Cc [編集] 

* Re: おお

MOCHI さん、こんにちは。

また最近は身辺の変化があったようですが、
MOCHIさんだから自力で好転できると信じています。
大切なものはもうすでに手にしているのだから、がんばってください。
2012/11/29 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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