過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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零下 10℃ のこの頃

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Oakwood, Ohio USA


我が家の近所は街の表通りに近いということもあって、わりとこじんまりとした家々が立ち並んでいる。
寝室が3室か4室、というところだろうか。 道に面してどの家にも広い芝生の庭があって家はその庭の奥に建っている。 そして家の背後には表からは見えない小さな内庭がある、というのが典型的なつくりのようだ。 しかしそれぞれの家が強烈な個性を持っていて形も色も建築様式もまちまちだから、犬の散歩などをしていても見ていて飽きることがない。

ところがこの一画からさらに奥へ入ると様相がかなり変わってくる。
家(house)というよりも館(mansion)とか邸宅(residence)という風情の贅沢な屋敷が、並ぶというのではなくてポツポツと離れて建っている。 中には表からは鉄製の門が見えるだけで、長いドライブウェイが雑木林を抜けていくその先は、どんな屋敷があるのかまったくわからないような場所もあった。 

もう15年以上も前に僕らがこの町へ引っ越して来る時に、買う家を探してこのあたりを車で走り回っていた時に通りかかったのがこの写真の邸宅だった。 その時は春だったから、庭の前面の花壇には一面にチューリップが満開に咲いていて、玄関の車寄せの脇には噴水が吹き出ていた。 そして庭の中央には、一見折れたように見える2本の樹が盆栽よろしく植えられていて、豊かな葉を繁らせていた。 まるでヨーロッパのどこかにいると錯覚させるような雰囲気があって、僕はひと目で気に入ってしまった。 不動産屋の標識が道端に立っているのを見ると、この魅力的な邸宅はその時売りに出ていたのだろう。 といって僕らはこの家を買うことに興味がわいたわけではない。 家族4人にはあまりにも大きすぎたし、第一、家の値段は僕らが探している家がいくつも買えるほど高価なものにちがいなかった。

結局僕らはこの屋敷からそんなに遠くない場所に、古い小さなレンガ造りの家を見つけて、そこへ引越しをした。 そしてこの屋敷の前を車で通るたびに、四季それぞれの庭の風情を楽しんだり、このお気に入りの建物を以前何度か行ったヨーロッパの風景に重ねたりしていた。

それから10年ほどたったある日のこと、我が家に新しく家族の一員として加わった仔犬のパイ公が、誰かが閉め忘れた裏木戸から抜け出てどこかへ行ってしまったことがあった。
妻と僕はそれぞれの車で手分けしてほとんど一日中近所中を探しまわったけど、どこにも姿がない。 そしてパイはとうとうその夜は帰って来なかった。 その夜、僕は奴の写真をプリントして 「犬、探してます」 のポスターを何枚も作成した。 あくる朝になると、そのポスターを近所中に貼ってまわるつもりで出かけようとしたところへ電話が鳴った。 
電話の主が云う。 前日の夕方、一匹の仔犬が迷い込んできたそうだ。 お腹を空かせていたようなので家に入れて食べ物を与えたら、すごく疲れていてそのままリビングルームの床でぐっすりと眠ってしまったと云う。 そして今朝になって市役所へ連絡を取って、犬の首輪に付いている鑑札から我が家の電話番号を調べたそうだ。

僕はともかくほっとするし、妻は涙を流して喜んでいる。 すぐにその人の住所を訊くと犬を引き取りに行った。
鋭い読者はもう気がついたことだろう。
我がパイ公が迷い込んで行ったのは、僕のお気に入りのこの邸宅だったのである。


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コメント:

* 素敵な家

家も勿論素敵ですが、写真が素敵、このまま絵葉書になりますね。
犬を迎えに行かれて当然家主様に会われたでしょう。
どのようなお方でしたか?
2013/01/06 [URL #mtYTAWfU [編集] 

* Re: 素敵な家

和さん、

電話をして下さった四十代のご婦人と彼女の姑さんだという老婦人に会いました。
子供が4人だそうだから全家族が7人ということになるのかな、と思いました。
私がこの家はずっと前から憧れていたのだ、と言ったっら
気軽に1階から3階までを案内して見せてくれましたが、
寝室が客用を含めて9室、キッチンなど我が家のリビングルームくらいの広さがあり
すべて内装や家具なども19世紀の雰囲気が残されていて
ただただため息がでました。

2013/01/06 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

飼い犬も飼い主と同じ趣向をお持ちだったのですね。
本当に住むようになるかもしれませんよ。
2013/01/06 [上海狂人] URL #wuZV7DPc [編集] 

* おはようございます。

ご説明、ありがとうございます。
立派なお家に素敵なご家族が住んでいらっしゃったのですね。
羨ましいですねぇ~
2013/01/07 [URL #mtYTAWfU [編集] 

* Re: No title

上海狂人さん、

本当に住むようになるって?
いやあ逆立ちしてもそれは・・・

この写真には見えませんが母屋から離れた左手に別棟の小さな家屋があり
たぶん昔は馬丁(運転手?)とか召使たちが住んだと思われます。
そこなら私にも何とか借りられるかもしれません。
2013/01/07 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: おはようございます。

和さん、

あれ以来今でも、車で前を通って彼らの姿が庭に見えると
クラクションを短く鳴らして、お互いに手を振り合う仲になりました。
2013/01/07 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 不思議なくらい

こんにちは。
こちらのブログにおじゃまするようになってからちょくちょく感じるのですが、September30さんはほんとにたくさんの偶然に遭遇されますね。それも「なんという偶然!」と感じ料なことばかり。こんな些細なことで不思議な人生だなぁなんて感じるのは大げさですけど、でも不思議です。
2013/01/07 [川越] URL #uvrEXygI [編集] 

*

なんかこの写真だけ見るとスイスって感じですね。
2013/01/08 [micio] URL #O/XG6wUc [編集] 

* Re: 不思議なくらい

川越さん、

たしかにいろいろな偶然があったと思いますが
実はそれはみな必然だったのではないか、
起こるべくして起こったことなのではないかと、思うようになりました。
別に自分は運命論者でもなんでもないのですが。
2013/01/08 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

micio さん、

私は雪の降るヨーロッパを見たことがないので、
いつかクリスマスの頃に行ってみたいというのが悲願です。
2013/01/08 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

大変遅くなりましたが明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
私にも色々偶然な出会いはありました。

ウン十年も前にツアーでエジプト、ギリシャ旅行をして、
カイロからアテネに飛んだ飛行機の乗務員はお客が我々しかいなかったこともあり、
仲良くなってアテネでもかなり一緒に行動していました。
その後、2、3回 絵葉書のやり取りがあり、
日本に知り合いを尋ねて来たというのでその後会って2人で新幹線を待っていたら、
止まった前のドアから降りてきた人がその時の添乗員でした。
リスボン旅行でジェロニモス修道院の暗い階段口の上から私を呼ぶ声がする、
神の声ではなく・・・向かいの家の奥さんでした。
イタリアの山の中で、韓国の南大門で、奈良で知り合いに出会ったことや、
近所に住む日本人一家の奥さんの叔母さんに当たる方が私の幼稚園の先生だったり、
という事は彼女はSeptember さんのお母さんの同僚なのですけど、
ここから分った偶然が更に更に・・・。
思えばSeptember さんはきっと私の母とも出会われているはずです・・っよね。
他にも書ききれないくらい、
その上、娘がイタリア旅行をした時私の上司に目撃されたり。
でも最近は偶然があまり無いのでツキが落ちたのだと思っていたら、昨年の夏にもありましたよ。
悪いことはできない運命かな?
September さんともどこかで会えると思っています。
初コメント 長々と失礼しました!
2013/01/09 [のほほん] URL #60nqeuCY [編集] 

* Re: No title

のほほんさん、

こちらもおくればせながら
おめでとうございます。

いろいろな偶然を経験されたようです。
そしてそのひとつひとつが楽しい良い思い出ですね。
幼稚園のI先生のことも私は鮮明に覚えています。
そのI先生の弟さんとは同じ青春を共有した仲間で
このブログに時々コメントを寄せてくださるし、とか
糸は次から次へと繋がっているようです。

でもいつかのほほんさんに会うのは
偶然ではないと思っています。
2013/01/10 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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