過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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矩形の福音

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尼僧
King of Prussia, Pennsylvania USA


ペンシルヴァニア州の Valley Forge National Park。
1777年と1778年の冬を、ジョージ・ワシントン率いる大軍隊がここで露営をした。 それが今は国立公園になっていて、広大な敷地のあちこちに当時の建物が保存されている。 僕はこのすぐ近くに1年ほど住んだことがあって、この公園には犬を連れてよく散歩に来た。
この写真の建物は、たぶん当時の兵隊たちの兵舎だったのだろう。 厳しい中西部の冬を防ぐために厚い石造りの小屋に窓は小さくとられていて、内部には木造の床が敷いてあった。
最初ここにきて開け放された白いペンキ塗りのドアを見た時に、まず僕の目をひいたのはそこにある無数の矩形だった。兵舎という大きな矩形に囲まれて、窓もドアも戸口も、吹き抜けに見える向こうの戸口も、すべてが大小の矩形で構成されていて、その矩形の集合体はさらに写真というかたちで矩形に切り取られるのを待っているように僕には思えた。

「運良く向こうを尼僧が通りかかるなんて、幸運だったのですね」 と、この写真を見る誰もが言う。
「ええ、まあ」 と僕は曖昧に答えることにしているが、実は僕にしてみれば単なる 「幸運」 だけともいえない理由があったのだ。

僕が散歩の途中でこの場面を最初に目にしたときに、まず直感したのは (この絵を完成するにはあの向こう側の戸口に何かが見えてあるべきだ) ということだった。 しかしその 「なにか」 とは自分でもはっきりとわからなかった。 犬が一匹とかガチョウが一羽とか、子供でも老人でも女性のヌードでもなんでもいい。 「なにか」 がそこ見えていなければならないと思った。 それ無しではこの場面は俳優のいない舞台と同じだった。 
それで僕は散歩に来るたびにカメラをさげてここまでやって来てその 「なにか」 が起こるのを待った。 何日も何日も。
ところがながいあいだ何もおこらなかった。 というのはここは国立公園といっても観光客が遠方から訪れるほど興味をひくものはこれといってないし、そのうえ季節はもうすぐ冬がくるという頃だった。 近くにはこれも昔ながらに保存されているチャペルがあって、そこには住民が時々礼拝にくるのだが、その人たちもわざわざ兵舎のあるこのあたりへ姿を見せることはなかった。
そしてある日、突然ひとりの尼僧が現れたのだった。 迷える子羊を救うためにエルサレムの丘から降りてきたキリストのように。


私にとって写真とは観察の芸術だ。
ありふれた場所に興味深い何かを見つけるということなのだ。
それは「何を見るか」にはほとんど関係がない。
「どう見るか」にすべてがかかっている。

Elliott Erwitt


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コメント:

*

写真は一枚の終結を表現しているのであれば見た人は完璧と言う。貴方はその時を期待して待っていた。その期待感の待機時間を思えば素敵な瞬間を得るまでの副産物でありそのほうが貴方への満足を促してるのではないでしょうか?そんなことを思いました。恋が一瞬で訪れてしまうように。
2010/11/08 [KAORI] URL #- 

* Re: No title

Kaoriさん、この写真のように俳優を必要とする舞台もあれば、逆に何者をも必要としない風景もあります。
ちょうど、一瞬の恋が訪れることもあれば、目の前の恋に気づかないでいることがあるように。
2010/11/08 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

*

私には物語を写真にする技術もセンスもないし、
気の利いたコメントを残すこともできないけど、
この写真が美しいと感じる目と心があることを感謝しなければなりません。
ありがとう。
2010/11/08 [kentilfordURL #- 

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2010/11/09 []  # 

* Re: No title

kentilford さん、すてきなコメントをありがとうございます。
写真に付随する説明や物語も、気の利いたコメントもしょせんは写真自体にとっては重要なことではないと思うのです。
逆に言うとそんなものを必要とする写真は取扱説明書のイラストになってしまう。
写真は一人歩きすべきだと思います。
ただ、私のブログの場合は写真と文章と音楽を組み合わせた日記のようなものだと思って作成していますので、それらが相互に反応しあってひとつの世界を創りあげることができるかどうか、の試みなのですよ。
これからもよろしくおねがいします。
2010/11/09 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

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