過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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タイムマシーンに乗って

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《1989年2月6日18時30分ごろの Green Eyes 》
Somervlle, Massachusetts USA



タイムマシーンなるものに初めて乗った。
タイムマシーンの外観はボールのように真ん丸な機体に、小さなイボイボが無数に付いていて、それに三角形の尾翼のようなものがひとつ突き出していて、ちょうど怒って膨らんだフグのような形をしていた。 係員に促がされて乗り込んでみると、中は思ったよりずっと狭苦しくて、座席を調節してシートベルトを絞めるともうほとんど身動きが取れないほどだった。 ジェット機の操縦席のように、眼に入る限りの大小のボタンやスイッチなどの計器に囲まれることを予想していた僕は、目の前に備え付けてあるノートブックPC ほどの大きさのナビゲーターの他には、いくつかのボタンとダイヤルがあるだけの簡素な室内に驚いてしまう。 だけどトイレに行きたくなったらどうするんだろう? 案内してくれた係員にそのことを尋ねると、若い係員は、やれやれこれだから無知な老人は困る、というような顔をして
「乗り込む前に一度行っておけば、氷河時代にでも遡らない限り、お客様の生まれた以後でしたらどんなに遠くまでトリップしてもせいぜい数分で到着してしまいますから・・・」
そうか、それなら安心だ、と僕は納得をする。
「お客様。 あとは先ほどカウンターで説明しましたように、ナビゲーターに年月日と時刻を入力したあとは、〈enter〉のボタンを推すだけです。 大事なのは帰還のときに年月日を入力しないで、かならず〈home〉を押してください。そうしないと 『現在』 に帰れなくなることがあります。 そうやって永久に帰って来れなくなってしまう方が月に一人はあるんですよ」

そう言われて僕は、永久に帰れなくなったら何か都合が悪いことあるかなあ、と一瞬考えてみる。 わが Green Eyes はかわいそうに独りになっちゃうわけだけど、まああれだけ図太くなった今ならもう独りでも心配はないだろう。 子供たちももう大きくなってるし、借金もいちおう片が付いているし…。そこまで考えて、あっ、でも駄目だ。 と突然思い出す。 先週のマージャンで大負けをして、その場で払いきれずに小柳さんに少し借りがあったんだ。 それだけじゃない。日本の斎藤 さんに約束した写真をまだ送り出してないし、ブログの更新もしなきゃならないし、会社のオフィスにも私物がいっぱい残っている。 それに6月の僕の個展はどうなる? いやあれは本人が消えてしまったほうが逆に写真に値打ちがついて良く売れるかも知れない。 しかし下着の替えもなければ第一毎日飲むはずの二種類の薬を持参していない。 これはどうも家には帰ってこないわけにはゆかないみたいだった。

僕は内側からタイムマシーンのドアを固く閉じると、ナビゲータに入力を始める。 《1989年2月6日18時0分》 と打ち込んで〈enter〉 のブルーのボタンを押す。 それだけだった。


キッチリその時間に、僕はボストン郊外のサマーヴィルのアパートに着いて玄関のドアを開けていた。
「お帰りなさい」 と言って出てきたわが Green Eyes に僕は 「Happy Anniversary!」 と言って優しく唇にキスをする。 わがGreen Eyes は微笑んで 「Happy Anniversary! 今夜はシャンペンを開けましょうね」 とキッチンに引き返す。
「子供たちは?」
「二人とも階下で遊んでる。 あ、それからオハイオの両親からカードが来てるわよ。おめでとうって」
そうなんだ。今日は僕らの結婚記念日なのである。 9年前のこの日に僕らはケンップリッジの市役所で、女性の判事の前で結婚を宣言して承認されたのだった。 二人だけの貧しい結婚式だったけれど、そんなことは二人ともちっとも気にならなかった。 過去を忘れ、未来も考えず、花の匂うような現在だけが僕らを取り囲んでいた。
今回の僕のタイムトリップは、最初はここからさらに9年前の結婚の日まで行ってみるつもりだったのが、それじゃ子供たちに会えないというので、ボストンで僕らが最後の年を送ったこの日を選んだのだ。 キッチンで夕食の準備をする Green Eyes の写真を数枚撮ると(上の写真) 空腹にシャンペンが効いて、僕はソファに横になるとついうとうととしてしまった。

**********

誰かに揺り起こされてハッと眼がさめる。目の前に先ほどより20年以上歳をとった Green Eyes がいて、
「そろそろ起きないと。今夜はエリザベスの家で夕食でしょ」
僕はそれには答えないで、
「そうかあ、俺たちは結婚してから今日でもう33年になるのか」
「そうよ。さっきからうなされてるようだったけど、悪い夢でも見ていたの?」
「いや、いい夢だった。 空きっ腹に飲んだシャペンがうまかった」

僕はこの次のタイムトリップは未来に飛んでみよう、と思っている。
一体僕はどうなってるのだろう?




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コメント:

*

前に、この写真を初めて見たときに
"色っぽい目だなあ。"と思いました。

こういう目で男の人を見た最後はいつだっけかなあ?
と、遠い目で考えるわたし。
2013/03/12 [micio] URL #O/XG6wUc [編集] 

*

micioさんに心の底から同意いたします。
なんて強くて色っぽい目なのでしょう。
女の私でも「この人のことをもっと知りたい」と惹き込まれます。

自分のパートナーがこんな空想をめぐらせていたら楽しいだろうな、と
こちらも楽しい気分を味わわせていただきました。
残念ながら、我が伴侶はただいま仕事と日曜日に迫ったTOEIC試験とで
いっぱいいっぱいなので、そんな空想を巡らす余裕がなさそうです。
2013/03/12 [nicoURL #- 

*

Green Eyesさんは、September30さんと良く似ていますね。
雰囲気もですが、やっぱり強い意志の部分でしょうか。
似た者同士という言葉がありますが、まさにそんな印象を持ちました。
一緒に生活していると似て来るということもあるようですが、
20数年前の写真ですから、やはり元々が似ていて惹かれ合ったんでしょうね。
「うちの場合はどうなんだろう」ってちょっと考えてしまいました。
2013/03/12 [川越URL #uvrEXygI [編集] 

* Re: No title

micio さん、

男の人をどんな色っぽい目で見ているか
自分にはわからないと思うんですけど。
あれは意識してやることではなくて
心と体が自然と反応してゆくことだから・・・
2013/03/12 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

nico さん、

もし色っぽく見えるとしたら
少し入ったシャンペンのせいかもしれません。(笑)

ご主人はTOEICのテストとは何か新しいチャレンジに挑まれているようですが
しっかり後押しをしてあげてください。
2013/03/13 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

川越さん、

似てる、と言われて実はびっくりしました。
というのは、つい先日日本の親しい友人と話をしていて
同じ事を言われたからです。
自分では思っても見なかったことだし、
周りの人に言われたこともありません。
そう思ってあらためて見直しても似てるとは思えません。
かえって遠くにいて、主観を入れないで見る人の直感が正しいということはあると思います。

ところでお宅の場合はどうなんですか?
私が判断してあげますから、川越さんの自画像を載せてください。
奥様のほうは以前から拝見していますから。

2013/03/13 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

ワタシも良く『時間旅行』をしますが、こういう仕方もあるのか、と感心しております。
どこかですれ違うときは、声をおかけ下さい。
2013/03/13 [上海狂人] URL #ks8IdFps [編集] 

*

目は心の鏡、目は口ほどに物を言う。
もっぱら日本では、目力メイクなるものが流行ったり。

Green Eyesさん、いい目をしてる。
ちょっと気の強うそうな目、個人的には好き。
強さの中に時折見せるか弱さが、たまらなく可愛い。

彼女のそんなところにも、お惹かれになったのでは・・・。


それにしても、・・別の角度からですが、
いかにも美味しそうにお酒を飲んでらっしゃいますね。
思わずこちらも、cheers!とグラスを傾けたくなりそうです。(笑)

2013/03/13 [fumie] URL #LGP0CJfA [編集] 

* Re: No title

上海狂人 さん、

この時以来『時間旅行』に時々出かけるようになりました。
でも、このまま行きっぱなしで帰るのを止めようか、
という誘惑にいつまで抵抗できるか?
自信があありません。
2013/03/13 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

fumie さん、

諸国大名は弓矢で殺す
糸屋の娘は眼で殺す

そうです、眼ですよ、眼。
男を殺すのは。
でも殺されたいです。
2013/03/13 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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