白と黒 County Fair, Dayton, Ohio USA 太郎がハイスクールのジュニアの時だった。
(アメリカのハイスクールは4年制で、フレッシュマン、ソフォモア、ジュニア、シニアと上がってゆく)
ある日僕が、その年のシーズン最後のハイスクールのトーナメントを観戦していた時、すぐ隣にいたハイスクールの校長とスポーツ部のディレクターの二人と話をする機会があった。 その話の中で彼らが僕に、テニス部のヘッドコーチになるような人を知らないか、と訊いてきた。 現在のコーチが今年を最後にリタイアすることになるらしかった。 僕が 「心当たりが一人ありますよ」 と答えたのは、即座にハービーのことを考えていたからである。 彼なら地元の大学のヘッドコーチとして長年やってきたし、退職したあとは暇つぶし半分にあれこれと小さな仕事をやっているだけだったから、ハイスクールのテニスのコーチというのは彼にはうってつけのチャレンジであるように僕には思えた。 それに彼のリーダーシップの資質は僕が一番よく知っている。
そのあと話はとんとんと進んで、ハービーはある日学校まで出かけて行って校長とスポーツ部ディレクターの二人に会った。 彼等はいっぺんにハービーを気に入ってしまったようで、長時間の面接の最後にその場で仕事のオファーをしたそうだ。
ところがハービーはそのオファーを断ってしまったのである。
面接の直後に僕に電話をしてきたハービーからその話を聴いた時に、驚いた僕は当然ながら 「えっ、なぜ?」 と訊いてしまった。
僕の住む小さな地域は真っ白な町だった。
黒人が一人もいないといってもいい。 黒人が住宅街を車で通過するだけで理由もなくポリスに停められて尋問されるような町だった。 新聞などで何度も叩かれて、さすがに今はそんなことはなくなったようだが、学校の教師やスポーツ部のコーチなどに黒人を入れることは今までなかったらしい。 そのうえ、住民は代々住み着いた裕福な家庭が多い。 いわゆる 「オールド マネー」 というやつで、それだけにスノッブな気位が高い人たちがけっこういるようだった。 彼らが、長い間にどちらかと言えば閉鎖的なコミュニティを作り上げてしまっていた。
そのかわり、幼稚園からハイスクールまでの一貫した公立学校の教育は優秀で、たとえば1学年にわずか160人しか生徒数を持たないハイスクールの平均 SAT スコアは、オハイオ州内に900 近くあるハイスクール中でトップに近かった。 そのトップのほとんどを私立の学校が占めていることを考えると、これはすばらしいことだといえる。 しかし考えてみれば、財力に余裕を持つこの町は教師の給与も周りのどの町よりも高く払えるから、自然と優秀な教師が集まり教育の質が上がるのは当然だとはいえるだろう。 裕福でもなんでもなく、アメリカ人でさえない僕がここに住むことに決めたのは、それがたった一つの理由だった。
この町のいきさつをハービーが知らないわけはないから、知りながら面接まで出かけていったのは、おそらく推薦をした僕の顔をたててくれたのかもしれないと思った。
学校で生徒を教えるという仕事は、その父兄との対応が大きな部分を占める、ということをハービーはよく知っていた。 しかも特にこの町には口うるさい教育ママやパパが多いということも聞いていたに違いない。
「子供を教えるのはすごい魅力だけど、今更この歳になって差別待遇の餌食にはなりたくないんだ」 という彼の言葉を、僕はよく理解しながらも、やはり大きな失望を感じていた。
(続)
スポンサーサイト
このコメントは管理人のみ閲覧できます
鍵コメさん、
私はそこまでは考えていません。
コメントをつけにくい内容というのはたしかにありますから。
物語が終わるまで待ってみましょう。
2013/03/28 [
September30 ] URL #MAyMKToE
[編集] ↑
2013/03/30 [
belrosa ] URL #eJbgdmWg
[編集] ↑
belrosa さん、
これはね
牛たちが飲む水の容器です。
写真ではまん丸い妖怪の頭のように見えますが、実は眼と鼻の部分が平たくて
その前後両面に口の部分がお椀を半分に切ったように丸く突き出していてそこに水が入っているのですよ。
鼻は脚と同じく支柱の一部、両眼は前後の水入れを固定するボルトですね。
まあなんと子供のように無邪気で好奇心旺盛な熟女がいるものだと
感心しています。(笑)
2013/03/30 [
September30 ] URL #MAyMKToE
[編集] ↑
みずのようき?
え。・・・あ!・・・ああっ!・・・あああーーっ!
ほんとだまくろくろすけじゃないっ!
じゃあもしかして、あたしがトマトのヘタだと思ってたのは、じゃ、じゃぐち?
いやーーーーんもお、あたしったら飛んだ赤っ恥を…(赤面
すっかり、何かハロウィンみたいなオブジェで、牛もこういうの見ると和むのかなあ???
とか思い込んでましたよがぁあーーーん。
Septemberさんのことだからこの違和感も面白がられたのかと。。。
あんびりーばぼー。
すいませんちょっと、笑いが止まらなくなっちゃった、子どもでもこんな間違いしませんよね、
嗚呼、なんてことだ。
近年稀に見る衝撃の出来事で、腰が抜けました。(笑)
2013/03/30 [
belrosa ] URL #eJbgdmWg
[編集] ↑
belrosa さん、
そんなに恥ずかしがることはちっともありません。
逆に
大女優になるような人にはこんなメルヘンの世界がいつになっても生きているのだと
深く納得がいきました。
それに
人の顔のように見えるこの物体、
明らかにこの写真の中では牛たちの次に重要なポイントになっているので
そこまでじっくりと見てくださった読者がいるということが
とても嬉しいです。
2013/03/31 [
September30 ] URL #MAyMKToE
[編集] ↑
Septemberさん、belrosaさん、
オレゴンへの一人旅からオハイオに戻り、久しぶりにブログを拝読させていただくと、題材が重くなっておりました。ハービーさんのお顔は、2000年暮れのパーティでお会いして記憶しておりますが、翌年亡くなられたとは知りませんでした。旅ボケの頭でコメントするには忍びがたく、こちらのページに一言。
博多で生れ育ち、北海道の別海町の牧場で酪農実習生として20歳の誕生日を迎えた僕は、実は乳牛マニアなのです。搾乳前のオッパイの揉み方、いや、さすり方とかに触れると、また「品格と優雅」のなさについてお叱りを受けそうなので割愛。都会育ちのbelrosaさんが質問された水の容器についてひとこと補足させてください。
「牛飲馬食」との言葉が示す通り(死語か?)、牛さんは驚くほどの量の水分を補給します。特に、毎日数十リットルのミルクを生産する乳牛はなおさらです。飲んだかと思うと、岩塩を牛タンでべろべろなめ、自らをさらなる渇きに導き、また飲み、草をはむ。目の前に食べる草がなくても、一旦胃袋におさめたはずのそれを口に戻して、延々とむしゃむしゃ(咀嚼の音)。
さて、牛さまに一日二回ミルクを大量に出していただかなければならない人間さまは?ここで、アルプスの少女に出てくるような牧歌的な世界を想像してはいけません。朝から晩まで大変な作業です。子牛ちゃんなら一日に数度バケツで水を与えることも可能でしょうが、大人の牛さん、それも何十、何百頭となると、こういった設備が必要となります。
「鼻」と描写された部分、おそらくそれは支柱ではなく、レバー形状で、喉が渇いた牛さんが顔を入れると「牛さんの鼻」でぐいっと押され、水が容器の中に注がれる構造になっているはず。満たされた牛さんが顔を上げると同時に水は止まります。必要にして十分、都会の人には理解できない合理的な造形美。
問題は、どういうわけか飲む速度の遅い牛さんの場合。容器への水の補給ペース>牛さんの飲むペース、∴(ゆえに)容器からオーバーフロー。僕がいた牧場では、補給量の調整がついてなかったので、百頭くらいいた成牛(乳搾りの対象)のうち数頭は、のろまちゃんで、彼女らの下部はいつも濡れていたのです。濡れて、もぞもぞがおさまらない彼女たちは、お漏らしした赤子のようにモーモーと鳴きはじめます。オムツじゃなくて、敷き藁をかえてあげるのは、酪農実習生の僕の役目。
「子供のように無邪気で好奇心旺盛な熟女」さんのおかげで、あの頃を思い出しました。
2013/04/05 [
November 17 ] URL #-
↑
November さん、
詳細な牛さんたちの生態、楽しみました。
そういえば読んでいて
Novemberさんは若いころ北海道に酪農青年として行っていた、
という話を思い出していました。
この写真のFair Ground はわが家から車で5分のところにあって
毎日のようにそばを通るのですが
一般人は夏のカウンティ・フェアの1週間だけ中に入れます。
そこで牛、馬、豚、ニワトリ、ウサギ、ヒツジ、などを見るたびに
私も父の実家であった農家を思い出します。
しかしその実家にいた牛は乳牛ではなくて、鋤を引くための農耕牛でした・・・
2013/04/05 [
September30 ] URL #MAyMKToE
[編集] ↑
Septemberさん、
なるほど、もしかするとオハイオに住み着いている日本人の多くは、こんにちFair Groundで見られるような動物たち(野生ではなく、人間さまに奉仕する動物)と過去においてなんらかの接触を得、歴史的に農業州のオハイオに導かれたしまったのかなと思ったりします。
そんな農業州に日本からの駐在員やその家族の方々もたくさん滞在しているのは、ホンダが70年代に工場を建てたおかげですが、故本田宗一郎氏(彼も実はNovember 17)は、「神様がホンダを(誘致合戦の末、他州ではなく)オハイオに導いてくれた」と記者に答えていたそうです。宗一郎さんの子供時代にも、オハイオで見られる動物が身近にいて、この土地になじみを覚えられたのかもしれません。
Septemberさんの返信中、「カウンティング・フェア」とのタイポがあります。案外、参加者は動物(特に羊)の数を数えなければならなかったり。うちのかみさんは、子供の頃コロンバス市内のフェアに行って、種豚を「たまたま」後ろから見た際、股間に下がった二個の巨大な梨状もの(鳥取産の二十世紀!)があまりにおどろおどろしく、トラウマになってしまったと言っていました。そういえば、初めて一緒に寿司を食べに行った際、いなりずしが出ると突然箸がとまったり、ジブリ映画では「平成たぬき合戦ぽんぽこ」が苦手なようです。
あっ、そろそろ例によってネタが「品格と優雅」から逸脱しそうなので、叱られる前にこのへんで。日本酒を片手に、よい週末を。
2013/04/05 [
November 17 ] URL #-
↑
そうなんですか、November さんは酪農青年でいらしたんですね。
九州から北海道へというのも、またいきなりすごいですけど、
それ以上に海を越えたアメリカの、しかも東の方までいってらっしゃるわけですから、
ツタみたいな伸びしろのかたなんですね。(笑)
牛の水の容器にそんな仕掛けが施されているとは、そして搾乳は1日に2回するのだということも、
初めて知りました~。
たぶん September さんは、わざとこの容器が顔に見えるようにしたに違いない!
と、これは頑固にオーサーさんのユーモアを断定したいところですが。(笑)
November さん、これもご縁なので、一つ全然違うことを教えていただきたいんですが。。。
あのー、この欄ってどうやったらリコメントにできるんですか?
わたし、毎回あたらしいタイトルをつけなくちゃならないことになっていて、
悔しいから今回は自分で「Re.Re.え?」と全部打ったのですが(笑)
どうしたら November さんみたいに、「Re.」という技ができるのでしょう???
ゴージャスでラグジュアリーでエロティックな週末を迎えられたあとでけっこうですので、
お暇なときにご教授ください。
2013/04/06 [
belrosa ] URL #eJbgdmWg
[編集] ↑
belrosaさん、
ご質問の件、残念ながら僕も知りません。belrosaさんがつけられたタイトルをコピー&ペイストさせてもらっています。
ただ、都会の女性に「お暇なときにご教授ください」とか言われると、地方出身者としては嬉しさのあまり、「品格と優雅」からの逸脱をいとわないもう一人の自分がでてしまいそうになり、、、苦しい限りです、、、
日本の大学で、女性が大部分を占める文学部に僕はいたとか言うと、(Septemberさんのような)酒池肉林の毎日を送っていただろうと想像される方が時々います。僕は自分に質問に来る積極的な女性の同級生ってのがずっと苦手でした。それはSeptemberさんの会社にいた頃も同じで、女性の同僚からコンピュータの操作を教えてとか言われて、彼女のコンピュータのマウスを動かしていると、いつの間にかこちらから胸元を覗き込める位置に彼女の体が移動してたり(なぜかノーブラ)、あるいは僕の背後からモニターを見ながら「oh, you are so good」とか言いながら胸を押し付けてくるなんてことはしょっちゅうで、なれない頃「これは明らかに誘惑されており、禁断の世界への扉をクリックすべきか」など悩んでいるうちに過呼吸を起こしたこともあります(以後、ビニール袋を持参)。庄司薫の小説「赤頭巾ちゃん気をつけて」にも同じようなシーンがあり、これは僕をモデルにしたんじゃないかと思ったこともあります、、、
はっ、いくらなんでも日本とオハイオではそんなことないか、ははは、勝手な妄想をお許しください。ともかく、「トトロ」や「アルプスの少女」の世界とは違う、「別海町の酪農青年」だったころの切なさを知ってもらえると嬉しい気がします。当時はハイジもクララのいなくて、若い女性が働いている農協のスーパーにいくのが唯一の楽しみでした。地元の青年たちがみな狙っており、とても入り込めませんでしたが。その一方で、放牧中に発情した雌牛に背後から襲われたり。「博多出身の酪農実習生、19歳、圧死(あるいは腹下死)」、もおーっ。
2013/04/06 [
November 17 ] URL #-
↑
November さん、
タイポのご指摘ありがとう。
最近流行りの記憶入力というやつは便利だけど時々こういう面白いことをします。
奥方の記憶に残っていた二十世紀梨と、実際に目にしたご主人の無花果(イチジク)との差は
さぞ驚愕であったろうと心から同情しました。
頂いた男山はチビチビとしみったれながら賞味しています。
2013/04/07 [
September30 ] URL #MAyMKToE
[編集] ↑
Septemberさん、
無花果(イチジク)!せめて西洋梨、、、くっ、ほっといてください。
そういえばうちのカミさんは、数年前にGreenEyesさんとお会いした際、日本の春画とか古典文学(宇治拾遺物語等)で出てくる日本人男性のフグリはあんななのにねえと、一緒にぼやいたそうです。
まあ、それはいいとして、北海道「男山」ご贈答にあわせてお願いした、例の写真?見つかりました?お宝にさせていただきますから。
2013/04/07 [
November 17 ] URL #-
↑
November さん、さっそくのご教授、ありがとうございます。
そうだったんですか、コピーペースト!
言われれば確かに、Re: ではなく、Re. で返してくださってますね。
よかった、物知らずにもほどがある質問かとビクビクしてました。(笑)
なぜ文学部に酪農実習があるのか・・・
は、
永遠の謎ということにしておきましょう。
2013/04/07 [
belrosa ] URL #eJbgdmWg
[編集] ↑
November さん、
そういえば
欲しいと頼まれた昔のパンフレットの写真。
すっかり忘れていました。
探します。
2013/04/07 [
September30 ] URL #MAyMKToE
[編集] ↑
Septemberさん、
ありがとうございます。このブログ上ではなく、メールに添付でお願いします。そういえば、Septemberさんの会社にいたころも、「忘れる前に言っておくけど」といろいろ指示をくださいましたが、こちらからのお願いごとは(例の録音機にも吹き込んでくれず)よく忘れてくれましたね。
酔いにまかせて、「Septemberさんご自慢の男山(あるいは大山)」の写真なんか添付しないでくださいね。
2013/04/07 [
November 17 ] URL #-
↑