過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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男のうしろ姿には

Image0271-blog2.jpg

イタリア人街の男
North End, Boston, Massachusetts USA


男のうしろ姿には男の人生が表れるという。
上着を伊達に羽織って杖をつきながら、いくぶんうつむき加減にゆっくりと歩を進める老人の背を追いながら、カメラのシャッターを切った時の僕は32歳だった。

今ではその僕はこの老人に近い歳になってしまった。
自分が撮った写真を家の中に飾る趣味のない僕が、この写真だけは寝室の壁に架けていて、ふだんは気にもとめないこの写真になぜか今夜は目が引きつけられて、そこに立ち尽くしてしまった。
以前は気がついたことがなかったのに、今見ると、その老人のうしろ姿には男の逞(たくま)しさが滲み出ていて、ほとんどセクシーといってもいい美しさがあった。 しかもそれだけではなくて、なんと毅然(きぜん)として誇りに満ちたうしろ姿であることか。 そこで、じぶんのうしろ姿はいったいどんなものなのだろうと考える。 うしろ姿など自分の目で見ることはもちろんないし、人に写真を撮られたことさえない。 だから想像するだけである。
たぶん僕は、もう若くもないのにあいかわらずセカセカとした歩き方をしているに違いない。 その上長身で少し猫背ぎみの僕のうしろ姿は、滑稽ではないにしてもいかにも貧弱という感じがするかもしれない。 そして、この写真の老人のような自分の生きた人生に対する誇りといえるようなものは僕には無い。 そのかわり、ちゃんと生きてこれたんだ、これからもちゃんと生きるんだ、というささやかな自信みたいなものはいつも持っていたつもりだから、それがうしろ姿に少しでも出ていることを願いたい。

そんなことで、このところまったく忘れていた自分の年齢を思い出したりして、いつになくしんみりとしてしまった。 珍しくピアノの部屋へ行くと、埃の積もったフタを開けて神妙にその前に腰掛ける。 最後に弾いたのはもう覚えてないくらい昔のことだった。 今夜の気分はエリック・サティだ。
嘘のように短いこの曲の中に、過ぎたこと、過ぎて行くこと、がいっぱいに詰まっていた。






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コメント:

*

大好きな写真だったので、ふらふらとさそわれてコメントです。
送って頂いたこの写真、気に入る額を見つけて長く腰を据えて住むことになるであろう場所に移ってから飾ろうと大切にしまってあります。
ドイツでの修行期間はもうすぐで終わりにすることにしました。その後少し自分を甘やかしてから、また新天地の予定です。

男性のうしろ姿、昔からなんだか理屈抜きに惹かれます。
まだ小さい子供の頃、両親がテニスをする傍らで遊び、夕方近くなるとそのままベンチで寝てしまっていました。辿っていくと、そんな時にいつもおんぶして連れ帰ってくれた父の背中の記憶なのかな、とふと思いあたりました。
2013/04/14 [ハリネズミ] URL #- 

* Re: No title

ハリネズミさん、

私も今回この写真を掲載した時にハリネズミさんのことを思い出していました。
もうドイツも残り少ないようですが、
新天地の舞台はどこになるのでしょうね。
楽しみです。

私は2,3歳のころ母の背におんぶされていた記憶が
すべての記憶の中でもっとも古いものとして残っています。
後年、老いた母を背負ってやったことが1度もなかったことを後悔します。

たはむれに 母を背負ひて 
そのあまり 軽きに泣きて 三歩歩まず
-石川啄木
2013/04/14 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013/04/16 []  # 

* Re: No title

鍵コメさん

うんと年上の男をつかまえて「可愛らしい」、とは・・
でもそこまで心配してくれてありがとう。
2013/04/16 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

男の背中初体験は父の背中です。
長身の父の背中は飛びつくのに具合が良かった。

ところで、女の背中には憂いも個性も感じられないのに、
何故男にだけそれがあるのでしょうね。
指と背中。男の色気が出るのはこの二点だと思われます。
何故か大概背の高い男にそれがあります。

2013/04/16 [ムー] URL #qiVfkayw [編集] 

* Re: No title

ムーさん、

男の色気は指と背中、
なるほどね。
それでは私も対抗して女の色気を公表しましょう。
腰です。
腰から脇腹への曲線はヴァイオリンやチェロなどの弦楽器を思い出させます。
2013/04/17 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

なるほど。
それでウッドベースを抱えて弾いている男は幸福そうなんだ。楽器別性格でいえばベーシストは女好きねきっと。
2013/04/18 [ムー] URL #qiVfkayw [編集] 

* Re: No title

ムーさん、

ベースのような豊満な女性ならベース弾きじゃなくとも弾いてみたいと思うでしょう。
それに、ゲイでもない限り、女好きでない男というのはこの世に存在しないです。(笑)
2013/04/19 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 「哀愁が滲む男の背中」を表現した動画あり

9月さま

 若き日に自身が撮影した「男の背中」に再会、その年頃まで老いて漸くにして、老人の背中に滲む「男の矜持と哀愁」に覚醒したとの由、貴重な体験でありましょう。
 そうした「男の背中が密かに語る矜持と愛愁」を巧みに表現した動画があります。

 これは大分県にある醸造会社がテレビで放送して居たコマーシャルをその儘に切り取ったクリップです。発注者の活動拠点や、その営業方針から、当然のことながら、地元九州の風景が全面的に摂り入れられ、現代の日本からは殆ど失い懸けた風物や人情が演出されています。

 恐らくは、老父や老母を追慕する9月氏の心情に充分に応えてくれる、情緒纏綿たる動画です。演出に際してはさり気無い自己抑制が利いており、嫌味がありません。
 海外在住者には、現物の麦焼酎が直ちには入手し難い点だけが難点かもしれません。要素は以下の通りです。

1) この醸造会社のCM集の中でも、恐らく9月氏の渇望を癒すには最適の趣向かもしれません。

[cm, 二階堂、父、hagiwaraminoru]

 動画の中でも表示時間が25秒から26秒ぐらいに懸けて、父の背中越しに映る大きな塔(建造物)は、廃鉱となった志免炭鉱(福岡県)に遺棄されたホッパーです。
 哀愁を誘う演出の上手さは、地味ながらも心憎いばかりです。

2) この動画でも、焼酎を携えて子供時代の遊び心に帰っていく「愛愁が滲む父の背中」がテーマになっています。大分・福岡県辺りの、昔の子供の遊びが巧みに盛り込まれています。

[cm, 二階堂、刻の迷路、hagiwaraminoru]

 上記CMの時刻表示にして、5秒から6秒頃に映写されるお店の中の様子、判りますか?あれは、街のお好み焼き屋さんの中で、店主の叔母さんが子供客の為に今、せっせとメリケン粉を捏ねているところなのです。
 郷愁を誘う演出が、誠に細部まで計算し尽くされています。

3) こちらは、港町の埠頭にある映画館の周囲の風物や内部の情景がテーマとなっています。誰が演出したのか、私は知りません。別の動画で探せば判明するかも?

[cm, 二階堂、風の海峡、hagiwaraminoru]

 上記動画の12秒ないし14秒の画面奥に位置する赤い橋は、若戸大橋。1962年9月に、当時の若松市と戸畑市を結んで、洞海湾に架けられた橋です。

4) 父親の背中ばかりでは食傷するでしょう。次は、母
の背中です。

[117cmVol3, いいなCM、二階堂酒造、大分麦焼酎二階堂、「黄昏の想い出」]

 こちらは、行楽のお弁当作りに精を出す母親の背中が描かれています。探せば、この会社のCM特集も、動画共有サイトには他にも展示されています。
 故郷の人々や風物に無性に惹かれる在外の老境邦人には、見逃せないCMでしょう。お元気で。
2014/05/27 [Yozakura] URL #Y2lB8pKc [編集] 

* september3030@live.com

Yozakura さん、

いいですねえ。
淡いノスタルジアでほんわりと包むCMは日本人の独壇場です。
ドライで即物的で味も何も無いアメリカのCMを見る度に私は早送りでスキップするのですが
こんな美しいものなら気になりません。

でもあまり次から次へと見せられると
ちょっとお腹がいっぱいと言う感じはしますね。(笑)
2014/05/28 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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