過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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人は見かけによらないもの

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ストリート アーティスト
Boston USA


「そんな人だとは思わなかった・・・」 と失望させられることが時々ある。
相手が男でも女でも、あるいは親しい人でもそれほどでもない人でもそれは起きる。 つきあいが浅い人の場合は、たとえ失望してもその人の本性を見たような気がして安心するようなところもあるが、それが長年親しくして、お互いに深い所でつながってると信じていた人の場合は、これはちょっときびしい。 失望するどころか、裏切られたと感じてしまうことさえあるようだ。

ところがその逆もあって、ふだんそれほど好意をもっていなかった人に、何かがあって 「あれ? あの人って、いいとこあるじゃん!」 と見直してしまうこともある。 これは嬉しいことだ。

以前に僕がいた会社の同僚のティムという男もその中の一人だった。
若いながら社員千人ほどの会社の営業部長としてバリバリと仕事をしているこのティムに、僕は最初あまり良い感じを持っていなかった。 外国のクライエントを扱う僕とは部も違っていたが、仕事の上で彼の部と重なる部分が多かったから、毎日のように話をする機会があった。 彼は年上である僕に最初からそれなりの敬意を払ってくれていたようだ。 にもかかわらず、彼の、周りの同僚を一段上から見下ろすような傲慢な態度がまず僕の気に障った。 頭脳は抜群に優秀なのだろう。 しかし彼の口から発せられる冗談や皮肉は鋭い刺があって、かなり図太い神経の持ち主でないと、平静な気持ちで受け取るのが難しかった。 それで涙を流した女の子を何人か見た。 ある時など、若い部下を同僚たちの前でコテンコテンに苛める場面を目撃したりしてからは、僕の中でのティムに対する評価はすでにかなりの所まで落ちていた。

ある時、そのティムと僕がいっしょにニューヨークへ出張したことがあった。 わずか三日だけの旅行だったが、飛行機の中や夜のホテルのレストランなどで彼と二人だけのプライベートな会話をする時間が十分にあって、そのときに僕は (おや、自分の思っていた男とちょっと雰囲気が違うな) と感じ始めていた。
彼がいつもいじめている部下の話が出た。 ティムはその若くて経験もない新入の部下のなかに、将来優秀な営業マンになれる素質を認めていて、最初から特にしごいたらしい。 ところが入社して一年経つのにどうも成績が上がらない。 営業の成果を数字だけで見る上層部からは 「切れ」 という指令がかなり前からティムに出ていた。 それをティムは自分の一存で抑えて、もう少し様子を見たいと上部に主張し続けてその部下を指導してきたらしい。 ティム流のユニークな指導が、いじめという形で僕の目にうつったに違いなかった。 その成果あって、この数ヶ月その部下の成績が急上昇してきていると云った。

そのニューヨーク滞在中のある日、ティムと僕は通りすがりのグリークのサンドイッチ屋でランチを食べていた。 ひとりの黒人の老人がよろよろと危ない足取りで入ってくる。 一見してホームレスとわかるだけではなく、僕らのテーブルのそばを通る時に、強い異臭に混じってアルコールの臭いがした。 その老人はふらふらとカウンターへ寄ってポケットからあるだけの小銭をカウンターに音をたてて置く。 店のオーナーに向かってぼそぼそとなにか呟いているが、オーナーは迷惑そうな表情をあからさまに顔に出して、首を横に振っている。 老人の持ち金ではこの店で食べられるものは何も無いのだろう。
それを見たティムがウェイトレスを呼んだ。
「彼の好きなものを何でも食べさせてやってくれ。 飲み物はアルコール以外だよ。 勘定はここに持ってきてくれればいい」

(あれ? こいつって、いいとこあるじゃん!) と僕は思っただけではなく、実際に口に出して
"That was so nice of you, Tim."
と云わずにはいられなかったほど温かいものを見たような気がしていた。

***

そのテイムは数年前の大不況の時に人員整理に会って会社を追われた。 給料が高すぎたのだろう。 あれこれと職を探したがうまくいかず、結局彼は自分の趣味でやっていた家具作りの技術を生かして大工をやっていると聞いた。 その彼に先日ばったりと出会ってしまった。 あいかわらずの元気いっぱいの毒舌めいた挨拶や質問が僕に向かって飛んできた。 そして、景気が回復した今、企業の仕事は見つかりそうだけど、気楽な大工の仕事を当分続ける、と云っていた。 




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コメント:

* チムチムニー チムチムニー

Septemberさん、

ティム、ティム、ティムと読んでいると、なぜか「メリーポピンズ」の挿入歌がどこからか聞こえきて(あれはChimか)、折角の週末眠れなくなりそうですが、同じ会社に5年近くいた僕にとっても、場所は違っても少しばかり懐かしい人物です。

ティムは月に一回だけ、コロンバスの営業会議(月曜朝)に来るのですが、皆例外なく緊張してました(遅刻者ゼロ)。僕は直接彼の傘下ではなかったのですが、いつもと違う雰囲気を楽しむ余裕はなく、彼のレクチャーを黙って聞き、彼の冗談を(意味不明でも)他の人たちに合わせて笑ってました。

「頭脳は抜群に優秀なのだろう」のお言葉の通り、彼が営業実績や目標を説明する時など、それを強く感じました。

藤原伊織が江戸川乱歩賞・直木賞を同時にとった「テロリストのパラソル」というハードボイルド小説があるのですが、頭脳明晰な学生運動のリーダーを描写する箇所があり、それがティムにも当てはまる気がします。「どんな内容であれ、論理的に納得する前にその中身が頭の中にしみこんでいく、まるで砂漠(=数学が苦手だった僕でも)がやわらかな雨を受け入れる(=分かったような気分がした)ように」

僕はその会社を去った後、自動車部品営業(価格設定担当)、公認会計士、経理と、いつの間にか数字の世界で生きるようになってしまいましたが、ティムほどうまく数字に強くない人に数字を理解させる人には出会ったことはありません。Septemberさんほどうまく、オートカメラしか触ったことがなかった僕に、一眼レフの操作を(豪雪の夜、酒を飲みながらでも)理解した気分にさせてくれた人がいなかったように。

彼が作った家や家具も、お客さんはみないつの間にか納得して愛用しているのでしょう。最後に、ティムとまた一緒の会社で働きたいかとか聞かれると、うなっちゃいますね、はは。
2013/06/23 [November 17] URL #- 

*

September30さん こんにちは。

第一印象であまり好きじゃなかった人と
一対一でお話をしたら
思いのほか、良い人だったことに気がついたり
だんだん好きになったり。。。
対話は大切ですね。

メール送ってあります。見て下さいね。
2013/06/23 [キキURL #PDFQKA4U [編集] 

* Re: チムチムニー チムチムニー

November さん、

ティムで感心したのは、私のクライエントとの会議に彼を同行した時など、
会議の進行などすべて私に任せて、私が発言する時は彼はいっさい口を出さず、
質問された時にだけ自分の意見を言った、ということです。
あのおしゃべりで、冗談好きで、なんでも自分の思う方向へすべてをひっぱっていかないと気の済まない彼がですよ!
そういう意味で、日本流のビジネスを理解していたアメリカ人はあの会社では彼だけだったでしょう。

会社が経費削減という大名目のもとに彼をレイオフした時、
「いい気味だ」みたいに感じた社員が少なからずいたのを知っていますが、
私は貴重なパートナーを失った哀しみと
いいように人を使い捨てにする企業の冷酷さに怒りを覚えました。
前社長のBさんなら、絶対にしなかったことです。

ティムとまた一緒の会社で働きたいか、と訊かれたら
私の答えは大きな、"Yes" です。
2013/06/23 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

キキさん、

大企業に勤めていて、しかも私のように
あちこちの支社をしょっちゅう回る仕事をしていると
何百人という社員を知ることになるのですが
ほんとにキキさんのおっしゃるようなことは何度もありましたよ。

それから
メールをありがとう。
あらためてご返事します。
2013/06/23 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: Re: チムチムニー チムチムニー

Septemberさん、

ティムについて残念ながら(能力以外の点で)僕の場合、"「あれ? あの人って、いいとこあるじゃん!」 と見直してしまう" ような状況はついに訪れませんでしたが、それは単に、直接一緒に仕事をしたり、二人きりで話し込むという機会がなかったからということで。

ティムとはじめて会ったのは、僕が入社して二ヶ月目頃のコロンバスでの営業会議でのこと(日本人(および外国人)は僕一人)。僕を見るなりいきなり口を開いて、「日本人は、オハイオと言って朝の挨拶をするのは、皆知っていると思うが、日本人の英語の発音を聞くとよく他の単語に聞こえて面白い、例えば、Vodka(ウォッカ)はファXX、、、」

一旦皆が笑った後、他の営業担当者が、(ちょうど、11月の感謝祭前だったこともあり)「日本人は感謝祭になんのご馳走を食べるのかしら」と言うと、流石にティムは「感謝祭ってのは、アメリカ独自のものだから、そんなの日本にはないんじゃないの」と一旦かわし、僕の方を見て「家族が集まってご馳走を食うのはいつ?」と聞くので、「これからだったら、正月、まあクリスマスなんかで、」と僕が答え終わらないうちに、「ああ、そん時、家族みんなで犬を食べるんだね」

一瞬、ホットドッグのことかとも思いましたが、他の営業の面々が少し悲しそうな目で僕を見ているので、やはり犬のことか、どう反論しようかと思っているうちに、ティムが議題に入っていったので、うやむやになってしまいました。多分、あれは(日本通の)ティムは冗談のつもりで言ったのが、コロンバスの営業担当の中には、「日本人のご馳走の一つは、犬」と本当に信じた人がいたかもしれない、、、(日本人がはっきり言わないと、日本に対する誤解が広がっていく例)。

ティムのレイオフについては、僕が去った後のことだったので知りませんでしたが、自分自身のことを思い出すと、6月の暑い今日(東日本大震災の年からエアコンは使わないことにしたからなおさら)でも、当時の会社には寒々とした気分を覚えます。退社前日の午後、Septemberさんとクニコさんが、わざわざコロンバスまで来てくれ、夕食をご馳走してくれた中華(韓国人の方が経営)レストラン、まだありますよ。

今回、こうしてティムのこと(そして多分、今までの人生の中でもう関わりたくないと僕の中で自己完結している他の人々のことも)を考え直すいい機会でした。
2013/06/23 [November 17] URL #- 

* Re: Re: Re: チムチムニー チムチムニー


November さん、

日本語のおはようがOhioだとティムに教えたのは他ならぬ私ですが、
その時、じゃあこんばんはは何というかと訊いた彼に、Iowaだと言ったのを彼は長いあいだ信じていて
そのことを根に持っていたようです。
それが「日本人は犬を食う」という形のリベンジとしてNovemberさんに帰ってきたのかもしれません。

感謝祭の話を読んでいて思い出したことがあるのでご紹介します。
これもまた犬が出てくる話です。

http://blog1942.blog132.fc2.com/blog-entry-274.html



2013/06/24 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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