過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

Profile

September30

Author:September30

Visitors Counter

Search form

ある椅子の話

_DSC5429-blog.jpg

楓の木の下で


この椅子は、むかし僕が家具作りにうつつを抜かしていた頃の名残(なごり)の一つだ。
肘掛け付きのものを2脚、肘掛け無しを2脚作って我が家のダイニングテーブルに置いていたのが、この1脚をのぞいて全部壊れてしまった。 作ったのはもう30年近く前である。
家具の中で椅子ほどめちゃめちゃに酷使されるものはない。 何十キロという人間の体重を常に上に乗せるだけではなく、中には後ろに反り返って前脚を浮かせるなんて残酷なことをする人もいるから、たまったものではない。 3脚の椅子は作ってから数年で駄目になってしまった。 設計者としての僕の失敗は、この椅子をビジュアル的な面を強調するあまり、華奢に作りすぎてしまったことだった。 一つだけ生き残ったこの椅子は、今では背もたれの布は無くなり桜材の塗りも汚く剥げてしまったのに、グラグラすることもなく腰掛けのフォームもまだちゃんとしている。 僕は一日に数回この椅子に腰掛けて、ゆっくりと煙草をふかす。 愛用のスモーキングチェアーというわけだ。




_DSC5431-blog.jpg

肘掛け部分のディテール



木材というのはなんと堅固なものだろうといまさらに驚く。 あの頃作った他の家具たちは30年たった今でもちっとも変わらずにちゃんと機能している。 椅子だけが壊れてしまったのだ。 僕がこの世からいなくなってしまったあとも、あの家具たちはきっと永久に存在するだろう、という思いは何かしら強い勇気のようなものを僕に与えてくれる。 それは、消滅する自分の一部が何かのかたちで残る、という満足感のようなものでもあった。

あの頃作った他の家具のことは、以前ここに書いている。




ブログランキング にほんブログ村 写真ブログ 一眼レフカメラへ
スポンサーサイト

コメント:

* すごい

かなり年季が入った椅子ですね。たしかにseptemberさんに似合いそうな椅子です。私の家の周りには結構マイスターものの小さなアトリエがあて、裏にはバイオリン職人、反対側にはなんかアジア風ギター職人、ピアノ職人。靴職人、時計職人、椅子職人のお店もあります。マイスター制度はそうやって守られていて、大量生産が主なこの現在でもあえてマイスターに注文して買うひとも多いです。作るほうはとびっきりの喜びでしょうね。お菓子と違って後にのこるのが、うらやましいです
2013/09/06 [ineireisan] URL #pNQOf01M [編集] 

* Re: すごい

ineireisan さん、

マイスター制度は古い歴史を持つヨーローッパだからこそ現存するのでしょう。
日本も同様ですね。
アメリカではせいぜい、亡くなった義父のように代々の運送屋だとか、
我が家に何度か来た老人の配管工だとかでしょう。(笑)

もっとも運送屋といってもちゃんと徒弟制度のようなものはあります。
家庭用のグランドピアノを一人で背に負って運ぶのを見た時は
びっくりしました。
2013/09/06 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

コメントの投稿

:
:
:
:
:

:
: ブログ管理者以外には非公開コメント

トラックバック:

>>>> http://blog1942.blog132.fc2.com/tb.php/637-cb1363a6
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)