過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

Profile

September30

Author:September30

Visitors Counter

Search form

竹に魅せられた男

bamboo04-blog.jpg


Morrow, Ohio USA


友人のジェリーは変わった男だ。
竹に魅せられた男、とでもいうのか、世間は彼を 「ドクター・バンブー」 と呼ぶ。
ドクターといっても、彼は別に植物学の権威でも何でもなくて、ただ若いころに竹や笹の美しさに惚れてしまって、後半生を竹といっしょに過ごす事になってしまった。 50歳近くまで保険会社の幹部社員として勤めていたのが、ある日突然早期リタイアを宣言すると、人里離れた森の中に地所を買って家を建てた。 鬱蒼と樹木が茂り地面には苔が一面に生えて、水鳥の住む沼もあるような、広大な森だった。  
彼はそこへ日本をはじめアジア、オーストラリアなどから何十種類という竹と笹の苗を買い入れて、原則として竹の生息しないアメリカに竹を持ち込んだ。 自分で設計した彼の家の中も竹だらけだった。 竹製のベッドやソファはもちろんのこと、彼は竹製のパイプをふかし竹で作られたブリーフケースを持ち歩いた。

竹の成長は早い。 数年後には様々な種類の竹や笹の林があちこちに茂り、近辺の人々が物珍しさから彼の庭を訪れるようになる。 竹を所望する人も多く、そういう人たちが苗を分けてもらったり鉢植えにしたものを買っていくようになった。 やがて地元の新聞で紹介されたり、テレビのクルーが撮影に来たりしてドクター・バンブーの名はどんどん広がっていく。 僕が彼を知るきっかけになったのもその頃で、僕の勤める会社の顧客が新工場を建設した時に、そのお祝いに、会社の玄関に置くようなありふれた鉢植えの木ではなくて何か変わったものを贈ろう、と探していた時に人づてに聞いてジェリーの森を訪れたのだった。 それ以後、ジェリーの庭から手に入れた鉢植えの竹は、格好の贈り物としてかなりの数の顧客へ贈られた。 ドクター・バンブーの名はウェブサイトの開設でさらに広がり、西海岸や南部からわざわざ飛行機に乗って竹を見に来る人もいるそうだ。




T07061738-blog.jpg

孔雀のいる庭


ジェリーが好きなのは竹だけではなかった。 動物もそうなのだ。
2匹の犬、3匹の猫、5羽のニワトリ、数十羽の鳩、2羽の孔雀、沼には白鳥と黒鳥が数羽づつ、野生の鴨。 さらに、わけがあってその名を公開できない珍しい二匹の動物 もいて、昼間はそれらの動物がすべて放し飼いで庭中を歩き回っていた。




T07061711-blog.jpg

玄関



ジェリーが住む地域にはあちこちに日系の自動車工場が点在していて、そこで働く日本人たちが休日には家族を連れて遊びに来るようになる。 さらに数年前に、沼のほとりに日本風の東屋(あずまや)を建ててテーブルやトイレも設置されてからは、会社のピクニックをここでやったりアメリカ人を招いた会議などが持たれるようになった。 ジェリー自身も日米協会に関係したり、近くの都市の大学で講演を頼まれたり、企業の会報に竹の記事を書いたり、もちろん毎日竹や動物の世話を見ながら忙しい毎日を送っているようだ。




T07061728-blog.jpg

賢人とドラゴンと蓮


ジェリーの庭は町の公園のようにきれいに管理が行き届いているとはお世辞にもいえない。 なにしろ人を使わずにすべてを奥さんと二人だけで取り仕切っているからだ。 庭園としての一貫したスタイルがあるわけではなく、むしろ自然のままの森という感じが強い。 たとえば日本の石灯籠が置いてあるかと思えば、中国の賢人の彫像が立っていたり、東屋には古い油のランプを灯すのに、その下には最新の冷蔵庫が置いてあるというぐあいだ。 それにもかかわらず次々と人が訪れるのは、ここへ来てジェリーの世界にひと時タイムスリップすることで、ふだん忘れていたもの、遠い記憶の中から呼び起こされるもの、そんなものとの再会ができるからにちがいない。 少なくとも、僕にとってはそうだった。

今度いつか、冬のさなかに深い雪に覆われたジェリーの庭を訪れたいと思いながら、それはまだ果たせないままになっている。



樹は硬ければ硬いほど裂けやすい
そこへいくと
竹や柳は風になびいて動くから
いつまでも生き残るんだ。
ブルース・リー



ブログランキング にほんブログ村 写真ブログ 一眼レフカメラへ
スポンサーサイト

コメント:

*

そういえば「あの会社にはSeptemberさんが贈呈した竹があるのよ。」と、元上司のあの方から聞いた事があります。クライアントの間でもとても好評だったそうです。ご友人の竹への思い入れが中西部一帯に広がった事にSeptemberさんがおおいに貢献しているわけですね。竹の姿や匂い、笹の葉の音に癒されるのは日本人だけではないはずです。

私は七夕の頃になると笹の葉が恋しくなりますが、竹は成長が早いだけに我が家の狭い庭に植えるのは躊躇してしまいます。日本の実家近くの「里山を愛する会」では、樹齢50年程の竹林は伐採の班を作って手入れが大変らしいです。



2013/09/10 [Endless] URL #d2yN2EXI [編集] 

* Re: No title

Endless さん、

あの頃の私のオフィスの連中はジェリーの庭は1度は訪問しています。
いつか機会があればいっしょに訪ねてみましょうね。

MJ などすっかり気に入って自分の家の広い庭の片隅に苗を植えたら
数年後には見事な竹笹の林になりました。
その彼女もいまはリタイアしてご主人と二人で
サウスキャロライナへ引っ越してしまいました。

時は移る
という思いに時々はっと打たれます。
2013/09/10 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 九月の悪戯

まあ! 竹って真っ直ぐなものかと思ってました。

これじゃお茶道具がつくれない~。(笑)
でも曲がっているだけで、妙に落ち着かない、何かエロチックなものを感じます。

竹林の透明なしずけさには、独特の神秘性がありますよね。
ほんとに、かぐや姫を見つけてしまいそうな。。

次に訪れるときには、博多人形の姫など、そっと置いていくってどうですか?
アメリカの竹取の翁に、September さんから養女を出される、なんて、
ジェリーさん喜ばれないかしら。。

今年の十五夜は、19日。
あら、ちょうど来週の今日ですネ。

2013/09/12 [belrosa] URL #eJbgdmWg [編集] 

* Re: 九月の悪戯

belrosa さん、

竹のように真っ直ぐな気質なんていうけど
竹だって捩れたくなることはあるんですね。
でも人と違って一度捩れるともう元には戻れない。

そういえば
私とジェリーは長い付き合いなのに
竹取物語の話をしてやったことはあったのだろうか。
たぶんなかったと思います。(でもこの話はもう知っているかも知れない)
竹の林に置くのは博多人形のような素焼きの土人形がぴったりですね。

今月の一五夜には月を仰いで
belrosa 姫に想ひを馳せませう。(笑)
2013/09/13 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

コメントの投稿

:
:
:
:
:

:
: ブログ管理者以外には非公開コメント

トラックバック:

>>>> http://blog1942.blog132.fc2.com/tb.php/639-9f03ca20
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)