過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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レッド・ガーランドに惚れちまった



柳よ、僕のために泣いてくれ
Red Garland


一つの夢がある。 長いあいだ持ち続けてきた夢だ。
それはどこかの場末(ばすえ)の小さなクラブのシーンだった。
僕は片隅に置かれたスタインウェイのベビーグランドに向かってドラムとベースを相手にピアノを弾いている。
照明を落とした場内は静かでもなく騒々しくもない。 人々は音楽に耳を傾けるというより、それをバックグラウンドに自分だけの世界に浸っているようだ。 グラスの触れる音、低い話し声、時折り聞こえる女の笑い声・・・ 
僕は聴衆のためでも報酬のためでもなく、自分の身体を通り抜けていった、さまざまの過去の思い出のために弾いているのだ。 一曲が終わって次の曲を弾き始める合間に、僕はピアノの上に置いたグラスに手を伸ばす。 

そんな時、僕はこのレッド・ガーランドのように弾いていたい。

重厚な和音の積み重ねはオーケストラのそれと同じだ。 メロディをオクターブで弾きながらそのあいだにコード(和音)の音が2音か3音、常に入っている。 しかしそこにコードのルート(根音)が入ることはない。 それは左手の仕事でもありベース奏者の義務でもあるからだ。 これはほかのどんな楽器にもできないピアノだけに許された天の恵みの音楽だ、といっていい。
そして、そんな複雑な音の積み重ねが途切れたあとに入ってくるのが、あの透明で鋭いシングルノート(単音)のソロだった。 交互に現れるこの二つの奏法は実に絶妙なコントラスを創り出していて、まるで人と人との会話のように僕には聞こえる。 このスタイルをガーランドほど極めたピアニストをほかに知らない。

しかし、そう、しかしだ。
僕に絶対に真似のできないもの、いや日本人にはおそらく会得することの不可能なもの。 いや、もっとハッキリ言えば、白人にさえも学ぶことができないもの。
それは彼のノリだと思う。
ドラムとベースが刻む外面のリズムに対して、彼のピアノが作り出す ゆっくりとしたノリ の感覚は、いわば内面のリズム、あるいは本能的なスィング感とでも言うのだろうか、黒人たちが生まれながらにして持っているものだと、僕は確信している。 学ぼうとして学べるものじゃない。 ジャズをもう一度やり直そう、とボストンに渡った僕がピアノを諦めてしまう結果になって、作曲編曲に専念するようになったのも、それが理由の一つだった・・・


もう一曲だけ聴いてみる?
これはゆっくりとした、軽いスィングのリズム。 ガーランドが演奏したものの中ではそのユニークさがもっとも表れた秀逸な演奏だと思う。
彼のシングルノートのソロの時の、左手のシンコペーションのリズムの入れ方に注意して欲しい。 これも彼に独特なものでこんな弾き方をするピアニストは他にはいない。 理論やコンセプトに縛られてメカニカルな演奏しかできない昨今のピアニストを聴いたあとでは、ガーランドのような、切実な感情の吐露に接するとほっとする。
それにしても何と抒情に溢れたピアノであることか!





セントジェームズ病院



「セントジェームズ病院」 は僕の好きなナンバーで、同じ曲をルイ・アームストロングが歌うバージョンを以前の記事、『これほど悲しい歌を聴いたことがあるかい?』 に載せている。





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コメント:

*

私はSeptember氏のピアノを聴いてみたいです。

ふたりきりで。
パジャマで暖炉の前に座って。
ワインを飲みながら。


と書いていくと、

これを読んでいる女性の方々にボコられるので、このへんでやめておきます。
2013/10/18 [micio] URL #O/XG6wUc [編集] 

* Re: No title

micio さん、

ボコるなんて
そんな無粋で偏狭な人は私の読者にはいません。
いつか叶うかもしれない素敵な夢を壊す権利は誰にもないのを
皆さんご存知だから。

micio さんをボコるとしたら愛犬のパイシーくらいかな。
なにしろ凄いヤキモチ焼きだから。

2013/10/19 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* ジャズと僕

(本文)
----------------------------------------------------------
しかし、そう、しかしだ。
僕に絶対に真似のできないもの、いや日本人にはおそらく会得することの不可能なもの。 いや、もっとハッキリ言えば、白人にさえも学ぶことができないもの。
それは彼のノリだと思う。
ドラムとベースが刻む外面のリズムに対して、彼のピアノが作り出す ゆっくりとしたノリ の感覚は、いわば内面のリズム、あるいは本能的なスィング感とでも言うのだろうか、黒人たちが生まれながらにして持っているものだと、僕は確信している。 学ぼうとして学べるものじゃない。
----------------------------------------------------------

御意!!バークリー音楽院とジャズを僕が諦める事になったのは、
正に同じ感覚を認識した結果でした。September氏やYに先立って渡米、
サン・フランシスコで入学準備をしていましたが、アメリカの空の下、
特に夜の黒人街のジャズ・ライブに通っている中に、強いカルチャー・
ショックを受け、”自分にはとても出来ない、たとえ遣っても一生物真似で
終わって仕舞う”と思い知らされました。

その後はポップ&フォーク・ソングに親近感を覚え、そして音楽よりも詩の方により興味を抱くようになりました。
2013/10/19 [henri8] URL #av6ed.vY [編集] 

*

アメリカのもので、退廃的とか一滴だけ毒っぽいものって、
ジャズのこういうものだけな気がします。
一曲目、特にエレガントですものね。


2013/10/19 [ムー] URL #qiVfkayw [編集] 

* Re: ジャズと僕

henri8 さん、

日本のジャズ界でこのノリがどれだけ話題になるのか疑問です。
日本人の演奏を聴いていてもがっかりするのはそれですね。
もちろん、黒人のノリを持たなければジャズはできないということではないので
私や henri8 さんのような見方はごく少数派だと思いますが・・・

ノリという点で
他の楽器よりも日本人のピアノに特にそれを感じてしまうのは
それが自分のよく知っている楽器だからというよりも
ピアノという楽器の特性ではないかと思います。
つまり、ピアノはジャズではリズム楽器と見なされていて
ドラムやヴァイブと同じく打楽器の一種なんですね。(これはバークリーで最初に認識させられた)
そのぶん、直接リズムの設立に関与しなければならないからでしょう。


『たとえやっても一生物真似で終わって仕舞う』 という henri8 さんの言葉は
そのまま昔、私が思ったことと同じです。
2013/10/19 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

ムーさん、

『退廃的で一滴だけ毒っぽい』
というムーさんの言葉、実に的を得てます。

若い時に私がジャズに惹かれたのはそれだったに違いありません。
だから、
コンサートホールの華やかなステージよりも
小さなクラブがピッタリするような気がするのです。
2013/10/19 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

september さん、前回に引き続きお邪魔します。
ガーランドのメロをあまり崩さず弾く奏法を耳にしながら、
感じたことです。刺激を受けてYoutubeで他のガーランドを
聞いていました。
思い出したのは《Follia》という曲です。原曲はポルトガル
のものだそうですが、コレッリ、マラン・マレ、ヴィヴァルディ
等の編曲が今でも演奏されています。全て曲調をなくさない
ような編曲の妙、崩しの楽しさを感じさせます。ガーランド、
然りという訳です。
2013/10/20 [pescecrudoURL #j9tLw1Y2 [編集] 

*

パジャマで暖炉の前に座って、ワインを飲みながらというのも素敵ですが、Septemberさんと我らが歌姫belrosaさんのセッションというのはいかがでしょう。

でも、声で女体のカーブを描くようなbelrosaさんの歌い方は、日本的な(?)伴奏の刻みとの微妙な関係のおかげで際立っているのかもしれない。

Septemberさんに伴奏をお願いするなんておこがましいと姫に叱られるかもしれない。

それに、実現したとしても、お二人が歌とピアノで絡み合うのは、見るのも聴くのも、あああ...で、聴衆には居場所がないかもしれない。

(最後のは「かも」ではなくて、鉄板でしょうね)

それはそうと、そろそろ組織検査の結果が出たのではありませんか?
2013/10/20 [うらら堂] URL #6facQlv. [編集] 

* Re: No title

ペさん、

私が好きだったピアニストは
ウィントン・ケリー、トミー・フラナガン、オスカー・ピーターソン、ソニー・クラーク、バド・パウエル
と幾人もいましたが、昨今はこのガーランドにハマっています。
一音一音を大切にして感情を込めるというところがクラシックに似ています。
パラパラと饒舌に弾いてしまうピアニストがあまりにも多すぎる中でガーランドは光ってますね。
2013/10/20 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

うららさん、

現役の最頂点におられる belrosa さんと違って私はもう老兵です。
老兵は消えるべき・・・

たとえば私は歌を忘れたカナリヤ。
自分自身のためにひっそりと弾くことしか残されていません。

歌を忘れたカナリアは後ろの山に棄てましょか
いえいえ それはかわいそう
歌を忘れたカナリアは背戸の小薮に埋けましょか
いえいえ それはなりませぬ
歌を忘れたカナリアは柳の鞭でぶちましょか
いえいえ それはかわいそう
歌を忘れたカナリアは象牙の舟に銀のかい
月夜の海に浮かべれば 忘れた歌を思い出す


検査の結果はまだ出てないのですよ。
2013/10/20 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* 自分のためにだけ、ひっそりなんて・・勿体ない

音楽は、特にジャズなんかは、魂で聞かせるんじゃないかと思う。
少なくとも、自分は音を通じてその魂を聞き受けたい。

だから、かくも人生経験豊かなSptemberさんの音を、
是非とも聞きたいと切に願うのである。

きっと、間違いなく読者のみなさんも然りに違いない。
2013/10/22 [fumie] URL #LGP0CJfA [編集] 

*

検査の結果はまだなのですか...

私の家族に大腸がんから生還して丸5年、その後悪性リンパ腫を患ったものの治療に成功してずっと寛解状態というのがいます。そのせいか、「病気はできれば避けたいけど怖くはない」という能天気な感覚がしみついているのですが、でも、やっぱり、septemterさんの検査の結果を待つのは気持ちのいいものではありませんね。

ところで、歌を忘れたカナリアの歌は、メロディーと歌詞の最後のところだけを覚えていただけなので、びっくりしました。裏山だの背戸だのといった「そこらへん」で棄てるだの埋めるだのぶつだのと物騒なことをされそうになってだなんて。月夜の海に象牙の舟と銀のかいという、慰めにみちた、でも、ありえない世界とのコントラストが凄い。

妄想が飛びすぎかもしれませんが、歌を忘れたカナリアは、もう、そっとしといてやりましょう、夢の世界に送りだしましょうというところには、セントジェームズ病院のlet her goのリフレインに通じるものを感じます。

ご自分のことを、たとえれば歌を忘れたカナリアで消えるべき老兵とおしゃるのなら、それは、そっとしておかなければならないこととして理解してそっとしておきますが、でも、消えちゃだめだし、どこにも行っちゃだめー。何か全然ちがうことでいいから、楽しいことをしてこの世を楽しみたおしてください。それを拝見しているのが楽しいので。

2013/10/22 [うらら堂] URL #PTRa1D3I [編集] 

* Re: 自分のためにだけ、ひっそりなんて・・勿体ない

fumie さん、

いやいや、老いたカナリヤは歌を忘れただけではなく、
おまけに喉を潰して今ではカラスのような声しか出なくなりました。
もうそっとしておいてやりましょう。
放っておけばそのうちにまた歌い出すかもしれない。
いや、もうそれはないか。
2013/10/22 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

うららさん、

そうです。
もうピアノは弾けないという非情な事実が、このクラブのシーンを私に植えつけました。
Let me go
Let me live in your fantasy
Then, I will be with you forever....


でもね
それは音楽の世界でのこと。
それ以外では私はまだまだやりたいことが山ほどあるのです。
2013/10/22 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* そうですね・・

歌いたいとおもってこそ、ですものね。
鳴くまでまとう、ホトトギス。(笑)
2013/10/22 [fumie] URL #LGP0CJfA [編集] 

* Re: そうですね・・

fumie さん、

わかってくださってありがとう。
わたしこそ、fumie さんを鳴かせてみたい。(笑)
2013/10/22 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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