過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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モナとその周辺 (2/4)

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孤独な滑走
Boston, Massachusetts USA



モナは市の社会福祉機関で民生委員として働いていたが、時々モデルの仕事をして小遣銭を稼いでいた。 白人と黒人の混血といいながら、生まれてくるときに神様がうっかりして色の配合をまちがえたらしく、その薄い褐色の肌はちょっと焼き過ぎた夏の日焼けのように見えた。 そして衣服の下に隠されたそのすばらしい肢体を僕が最初から知っていたのは、相棒のRのポートフォリオで彼女のスウィム・スーツの写真を見たことがあったからである。

モナと僕とは最初からすぐに気が合って、彼女といっしょにいるととにかく楽しい時間があっというまに過ぎていく。 それは男と女のあいだではもっとも明瞭な 「恋のはじまり」 の兆候にちがいない。 色事師のRの誘惑をキッパリとはねつけた事も (彼に聞いていた) 僕の気に入っていたし、モナの豊かな人柄の中には恋人だけではなく、優しい母親や幼い子供が混じっているのを僕は感じることができた。
あとになってふたりがいっしょに夜を過ごすようになったとき、僕はモナの褐色の肌を愛した。 滑らかで弾けるように密度の濃い皮膚は、指で触れていて飽きることがなかった。 それは美しいものの中でも、若い生き物だけに所有することを許されていながら、やがていつかは朽ちてゆくに違いない儚さ (はかなさ) のようなものを僕に感じさせた。
僕らの恋は、激しく燃焼する炎というのではなくて、幼馴染み同士が大人になってそのまま恋に陥るような、安らぎといここちの良さのようなものを持っていた。
なぜそんなに僕に興味を持ったのかと聞いたことがある。 すると彼女はしばらく考えていたが、
「Animal Magnetism,  獣(けもの)同士の磁力 ね」 と短く、しかしはっきりと答えた。

ある夏の日の夕方、ふたりでチャールスの河畔を散歩している時に、ねえ、と改まった調子でモナが話しかけた。
「もし、わたしがレズビアンだってわかったらあなたどうするかしら?」
僕はあまり驚かなかった。 もしそれが事実としても今の僕らにはあまり関係のないことのように思えたから。
「別にどうもしないと思う。 だけどレズビアンのモナがなぜ男の僕なんかに興味を持ったの?」 と僕は逆に聞き返す。
「それがね、自分でもよく分からないんだけど、男の人をこんなに好きになったのは初めてなの。 前に男と寝たことが無いわけじゃないわ。 それは女の子なら誰もがする一種の洗礼のようなもので、とにかくそれを過ぎなきゃ大人になれなかったような気がしていただけでじゃないかしら。 処女を失うってことがわたしにはとくに何の意味も無かったように思うの。 そのあとはもう何年も女性にしか興味が無かった。 あなたに会うまでは」
僕は前から内心気になっていることを口に出してみる。
「じゃあ、ジェロームは? モナはルームメートとは言っているけど、事実上は男と女の関係じゃないかな、と思っていたんだ」 ジェロームというのはモナといっしょに住んでいる若い黒人の男性で、オーケストラでチェロを弾いていた。
僕の問いにモナはゆるい微笑を見せると
「違うわ。 ジェロームとわたしはとっても仲の良い友達よ。それに彼もゲイなの」

こうして僕は、話に聞くだけで実際には覗いたこともなかった、妖(あや)しげなホモセクシャルの世界へ踏み込んで行くことになる。

(続)


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