過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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ゲットーに住んで 2/2

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ゲットーのオブジェ
Dorchester, Massachusetts USA


知らない町で新しい生活を始めてみてしばらくすると、いろいろなことがわかってくる。
とくに、ゲットーと呼ばれる一種の封鎖社会の内側に入ってみると、外部の人間にはわからなかったいろいろな事を体験することになった。たとえば黒人間にも一種の階級組織のようなものが存在していて、貧富の差だけではなく肌の色の濃淡による偏見があることを知った。つまり、肌の褐色が薄いほど良しとされる事など、僕はそれまで夢にも考えたことがなかった。
ゲットーは更に幾つかのセクションに分かれていて、それぞれの階級に属する家族が一団となって住んでいたが、セクション間の交流はほとんど見られない。ブレンダの持ち家があった通りはどの家にもきちんとした家族が住んでいて、それは我が家に遊びに来る近所の子供たちのしつけを見るとわかるし、両親たちと話をしてもちゃんとした仕事を持つ知的な人が多かった。
そしてその人達から、ある特定の地域には間違っても足を踏み入れることがないように、と警告を受けた。

アパートから歩いて15分のところに電車の駅があって、そこは僕が毎日仕事の行き帰りに乗り降りする駅でもあった。車を持っていたけれど、車は妻のために家に残しておく必要があった。 (彼女に幼児連れであまりその辺りを歩いてほしくなかったからである)。 駅の周りはどこの町でも同じようにちょっとした繁華街になっていて、そこには見事に黒人ばかりの雑踏があり、雑多な店屋やマーケットやレストランやバーが並んでいた。僕は時々仕事の帰り道にそんなバーに一人で入ってみたことがある。この地域で東洋人を見るのは珍しいのだろう。中に入ったとたんにちょっと居心地が悪くなるくらいの視線が周りから僕に注がれたが、その眼には敵愾心は感じられなく、ただの好奇心だけのようだったので何となくホッとする。それでも恐る恐るバーのスツールに腰掛けて慣れてしまうと、バーテンダーも周囲の客たちも、すぐにフレンドリーになるのはどこのバーも同じである。最近ここに越してきたんだと僕が言うと、そうかそうかと言って周りの黒人たちから僕が飲んでいたスコッチのおかわりが次々と出て来た。

そんな事があったりして、僕は何となくこのゲットーに受け入れられていくような気がしていたが、妻はそうではなかったようだ。白人の彼女はマーケットに買い物に行っても他の客に意地悪されたり、なかには面と向かって 「ホワイティ(Whitey、白んぼ)がこんなところで何してるの?」 などと言われたこともあった。
そんな話を聞いて僕が思ったのは、ゲットーの黒人たちにとって東洋人はOKだけれど、白人はやはり外部の人間なのだろうということだった。妻のためにもここには長くとどまるべきじゃない、と思いながら1年近くも住んでしまったのは、当の妻自身がそれほど気にしなかったことと、何よりもブレンダ夫妻を始めとするアパートの周辺の人達が皆すごく良い人達だったからだった。そこには白人の社会には無い強い連帯感のようなもの、あるいは人情と言っても良いようなものがあるのを僕らは感じていた。

そして1年後に息子の太郎が生まれた時に、僕らの家族はゲットーを抜けだして白人の社会へと戻って行く。
僕の仕事場への通勤に時間がかかりすぎるということもあったけど、その最大の理由というのは、子供たちの将来を考えた時にこの町の学校制度があまりにも貧弱で満足のいくものではなかったからだった。
それ以後この町を訪ねたことは一度もない。

それにしても、息子の太郎は自分がゲットーで生まれたという事実をどこまで自覚しているのだろうか?

(終)




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コメント:

*

アメリカ大陸にはコロンビア以外は行ったことがないのですが、ヨーロッパでも差別はあからさまにありますね。自分の経験に限ればドイツが一番酷かったですが、イタリアでもフランスでもスイスやもちろんその他の国でもありました。あまり感じなかったのはベルギー、スペインですが、大陸では国境を接した国はお互いにありますから、肌の色というよりは種族や宗教の違いという印象があります。隣国との差別は領土問題も含んでいるのでまた別の問題という気もしますけど、人種、宗教、文化、領土、経済問題などなどが複雑にからんでいるんでしょうね。

日本は単一民俗だから関係ないという声もありますが、日本人は人目があるところではあからさまに感情を出さないので目立たないだけで、ごく狭い地域に関しても今でもいろいろな差別的な感情が残っているように思います。というのは田舎に引っ越して感じたことでもありますけど。
2014/10/13 [川越URL #uvrEXygI [編集] 

*

た場所でいうと私は東京となります。3歳のころに福井に引っ越したのですが記憶なんてなんにも残ってないです。。ただ東京行きの電車に乗るときにどうしてもおばあちゃんから離れたくなくて、いつも服の一部を引っ張っていたのを今でも話のネタにされています。笑。そんな祖母も90歳になりました!
2014/10/13 [inei-reisan] URL #pNQOf01M [編集] 

* Re: No title

川越さん、

ヨーロッパ中を何度も旅行したことのある川越さんには、そういう差別も自然と見えてくるのでしょうね。
乏しい私の経験ではほとんど見えませんでした。
アメリカでの長い生活で私自身が人種差偏見の的になった経験は多々ありますが、
そういう嫌な思い出はたとえ小さなことでも胸に刻まれた傷としていつまでも残るようです。
今あれこれと思い起こしてみると、
そんな偏見をあからさまに見せたのはすべて白人だった
ということは面白い事実です。
根強い白人至上主義の現れとしか言いようがありません。
2014/10/13 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

inei-reisan さん、

コメントのかんじんな前半の部分がカットされたようで記事との関連が読み取れません。
できたらもう一度書き直してくれたら嬉しいです。
2014/10/13 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* では

再度コメントです。

生をうけた場所でいうと私は東京となります。3歳のころに福井に引っ越したのですが記憶なんてなんにも残ってないです。。ただ東京行きの電車に乗るときにどうしてもおばあちゃんから離れたくなくて、いつも服の一部を引っ張っていたのを今でも話のネタにされています。笑。そんな祖母も90歳になりました!
2014/10/14 [inei-reisan] URL #pNQOf01M [編集] 

*

興味深いですね・・。

やはり「差別の対象になっている」事を本人たちが自覚しているからなのでしょうか、私も非白人グループからはなんともいえない強い連帯感を感じる事があります。

ところで私が最近よく感じることなのですが、白人の中でもヒエラルキーがあるようにおもいます。人種差別のコンセプト自体をつくりあげたアングロサクロン系白人が一番トップで、その他の白人がその下へと・・アメリカでもイタリア人やギリシャ人はイギリス人やオランダ人から差別を受けていたようですね。

だからなのか、北ヨーロッパにいるときよりも、南ヨーロッパにいるときのほうが居心地がいいのです。しかし先入観を持ちすぎるのもよくありませんよね・・・
2014/10/14 [Yoko] URL #- 

*

そうそう、いわれてみれば差別をして来るのは白人です。それ以外の人はこちらも有色人種のせいなのか、特に差別をされた記憶がありません。というか、たいていはとてもフレンドリーな態度を取ってもらえることが多いです。コロンビアでは初対面なのに家に招待されてテレビを観たり、特に親切にされましたが、これは日本人には特別な思いを持っている人が多いと聞きました。
ところでYokoさんが書かれているように、ヨーロッパでは北の方が差別意識が強いのか、それとも貴族意識の影響か(私はこちらだと感じていますが)同じ肌の色でも仕事によって差別するのを良く目にします。もちろんスペイン、ポルトガルやイタリアなど、南の国の人をバカにする言葉もずいぶん聞きました。しかし自分がされたことはやはりいつまでも記憶に残ってしまいます。
2014/10/14 [川越URL #uvrEXygI [編集] 

* 差別について

差別よりすごかったのが、無知であるということ。日本にいたとき一緒にいた人がいわゆる肌が黒いひとでしたが、一緒にいる私は完璧に変人扱いされました。どこにいくにも人間扱いされず、電車の中では私たちの周りだけ一回りの空間が出来上がっていたのを覚えています。このヨーロッパに住むと今度は私がアジア人出ることへの差別があります。東京のそれよりははるかに緩いものでしたが、ことに男女関係になると潜在的な違いに関してよく決めつけられて対応されることも多々あります。

でも私の中では日本の無知が一番怖いです。

2014/10/14 [inei-reisan] URL #pNQOf01M [編集] 

* Re: では

inei-reisan さん、

ということは、
つい先日ご他界されたお母様はずいぶんお若かったのですね。
(90歳のお祖母様の娘さんと勝手に推測してです)
2014/10/14 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

Yoko さん、

白人社会の階級感覚はアメリカではそれほどハッキリとは外に出ていないようですね。
ヨーロッパから移ってきた白人たちがお互いに交錯してすでに何世代も経たアメリカだからでしょうか。

Yokoさんのコメントで思い出したのは
ある日系企業がアメリカに会社を作った時に私が人材採用の仕事を頼まれた時のことです。
日本人の重役が、「幹部レベルのアメリカ人の採用はアングロサクソン系の白人だけに絞ってくれ」 と言われて、
私は言葉もなく呆れてしまいました。
そういう完全な違法行為のお手伝いをするわけにはいきません、と
丁寧にお断りしました。

またある時はこれも日系の大工場でしたが
作業員の採用はできるだけアジア系かヒスパニア系にしてくれ。
アフリカン・アメリカンは怠け者で問題を起こすのが多いそうだから、と頼まれたことがありました。

どちらの場合も日本人の無知と偏見をさらけ出していて唖然としたものです。


2014/10/14 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

川越さん、

われわれ日本人は
他の有色人種からは仲間意識をもたれ、白人からは黒人や他のアジア人よりも1レベル上というレッテルを貼られるようで
その点比較的楽なポジションにある、といえば言えると思います。
日本人が周りからある種の「尊敬」のようなものを受けているのは間違いありません。

逆に外国にいる日本人から他人種への偏見を感じるのは悲しいことです。
2014/10/14 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: 差別について

inei-reisan さん、

日本人の他人種への無知と偏見は上のYokoさんうや川越さんへのコメントにも書いたように根強いものがあります。
そういう私自身にもそれは潜在的にあるのだろうか、と反省しています。
最近の日本への帰国で、東京で驚くほど多数の(旅行者ではない)外国人を見て
彼らの経験や印象を聞いてみたいと強い衝動に駆られながらその機会がまだありません。
2014/10/14 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

日本の場合、多人種への無知と偏見がどこから来るかと言えば、
身近にいない異人種。という一点だと思います。
身近に見ない人を受け入れるのは確かに簡単ではありません。

私が育った東京の港区には白人系外国人が家族で住んでいました。
もう50年以上前の事ですから日本でも珍しい場所だったとは思います。
そして今、世田谷のこの辺にも白黒黄色、いろいろな外国人の在住者を見ます。
都心の店にはたとえばフランス人店員が上手な日本語で対応し、
英語圏のお客が来ると、英語の係りの店員を大声で呼んでいます。
東京にいて外国人が共に生活していることに違和感を覚えたことはないです。

日本人の問題点はただ一つ。外国語が喋れる人が少ないこと。
(私もその一人)
相手が片言でも日本語が喋れれば人種的宗教的偏見は殆どないと言っていい。

むしろこのたやすく信じることが今後トラブルのもとになるのでは?
という懸念を覚えるぐらいです。



2014/10/15 [ムー] URL #qiVfkayw [編集] 

* まだ語っていいですか

パリでは今度は差別をしないことへの大きな問題が起きています。知り合いのパリジャンは大手な広告会社につとめていますが、多くの有色人種が受け入れられており、能力が低い人にも仕事も大幅に奪われています。ようは会社も能力がなくても差別問題で実質の問題を認識できないのです。もちろん口には出しませんがパリジャンはそんな状況にうんざりしてます。多くの差別平等に挟まれながら仕事をするのもいやになり、また差別を認識始めたりする。もちろん一昔前はフランスも多くの差別があり、履歴書のメモ書きに「カフェのような色」と走り書きされていたのも聞きました。(このへんがフランス人ですよね)私が住んでいたリヨンであったのは、バスの中にフランス人家族が住んでいて友達が前に座っていたら子供がアジア人だっと大きな声でからかったこと。それを聞いた彼女は知らん顔をしてたそばにいた彼らの母親に、「家でそういうことを話しているから子供がこんなことをいいだすんじゃないか」とその場で抗議しました。結果その母親は無言でバスを降りていったそうです。しかし人種平等のもとたくさんの難民とその家族がフランスを目指しました。結果今のパリの駅ではその結果たくさんの仕事につけない夕食人種があふれているのが現状です。 なにがいいたいかわからなくなりましたが、人種差別は年々多様化してきていて、もちろん国ごとにもその国にあった対応が必要
だと思います。  ps。母は63歳。今週末誕生日でした。:)
2014/10/15 [inei-reisan] URL #pNQOf01M [編集] 

* Re: No title

ムーさん、

東京に長く住むムーさんのコメントに大きく頷きました。
私自身も東京の至る所で外国人と日本人がうまくやってるのを目撃しています。
これほど多くの異国人が日本に住んだことは歴史上でも無かったことだし
ほとんどの日本人はそれにうまく対処しているという印象を受けました。 (時々はいろいろな摩擦もあるようだけど)

その一方で、私が上のコメントに書いたようなあからさまな日本人の偏見を体験することで
日本人の、というより人間の相反する2面性を見るような気がして、
私の頭は今とても混乱しています。

これは、「日本人ってなんだろう?」 という大きな問題に行き着いてしまうようです。
2014/10/15 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: まだ語っていいですか

inei-reisan さん、

リヨンのバスの中での家族の話には私も似たような経験がありますよ。

うちの子供達がまだ小さいころ、家族連れで動物園へ行った時のことです。
駐車場が混んでいて車を停めるスペースがなく、長い時間待った後でようやく空いた場所へ入れようとしたら
あとから来たアメリカ人の家族がちゃっかりとそこへ車を入れてしまったのです。
車から降りた私はその父親の所へ行って抗議したらちょっとした言い合いになり
その結果、男はしぶしぶと車を動かしてくれたので私はそこへ駐車することができたのです。

私達が動物園の入り口へと歩いていると、
向こうから先ほどの男が3人の子供を連れて歩いてきて入場券売場で一緒になってしまいました。
私が、先刻の口論をとりなすつもりで 
「駐車スペースが見つかって良かったですね」 と言ったら彼が吐き捨てるように一言
"Go back to China"

唖然とした私は妻が止めるのも聞かずにまくし立てていました。
「ちょっと待ってよ。まず第一に私は中国人じゃない。日本人だ。アジア人を見れば中国人だと決めてしまうあんたの無知を恥ずかしいと思いなさい。そして第二に、人種偏見を持つのはあんたの勝手だけど、それを自分の子供たちの前で見せてしまうのは両親としては失格だよ。そんな子供が大きくなってあんたみたいな人間になるのは恐ろしいことだ。」
というようなことを言ったと思います。

男はもちろん完全に私を無視してその場を離れて行きました。

2014/10/15 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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