過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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あいつはもう死んじゃってるよ

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Me and My Shadow (1973)
Beacon Hill, Boston, USA


「あいつはもうどこかで死んじゃってるよ」 と言ったのは佐藤だった。
その声の調子には、昔の彼が大学でクラブの部長をしていた時のあの断定的な響きが、25年経った今でもそのまま残っていた。
「そうかなあ・・・」 とテーブルの向こうから異議を唱えたのは中山だったが、その声には何とはなしに自信がなかった。
「そうだよ、あいつは死んじゃってるよ」 と佐藤が続ける。 「だってさ、あいつが世界中どこに居てどんな状況に居たとしても、手を伸ばせばそこに電話があるわけだから、俺達の誰かに20年も連絡を取らないなんて、まるであいつらしくないじゃないか? 20年だぜ?」
その時、それまで黙ってビールを飲んでいた川村が顔を上げると、「あいつは死んでるとは限らんよ」 と言った。
「あいつは日本を捨てたんだ、と俺は思ってる。 アメリカで菜々子さんとあんな結果になって、彼女を含む日本人に嫌気がさしたんじゃないか? 俺だってサンフランシスコに居た時、命がけで惚れた日本人の女に振られた時は日本になんか二度と帰るか、と思った。 もし自分の両親が日本に居なかったら俺はたぶん帰らなかった。 たしかあいつは日本にはもう家族は無かったろう?」 そういう川村はこの歳になってまだ独身を通していた。
「あいつはそのうちひょっこり帰ってくるよ」 と彼は笑いながらビールの瓶を取り上げると自分のグラスに注(つ)いだ。
周りの数人から 「うーん」 というような声があがる。

十人もの男たちが集まっているのはどこかの温泉宿の一部屋らしく、浴衣を着てテーブルを囲んでいる者もいれば、Tシャツのまま縁側の籐椅子に腰掛けている者もいる。それぞれが五十歳に近い年齢という共通点を持ちながら、それまで背負ってきた生活が、薄くなった頭髪や膨らんだ腹に現れていた。 しかし、彼らの声と顔つきだけは昔と間違えようがなかった。



「あいつ」 とは僕のことである

ビデオテープに撮影されたこのシーンを、僕はアメリカの中西部のある都市の、自宅のリビングルームで眺めていた。
当時ビデオカメラに凝っていた二宮が、僕が一度も出席したことのない何回目かの同期会をつぶさに録画して、アメリカの僕へ送ってくれたのは、その同期会から数年経ったあとだった。 その直前に、彼らと僕の音信が復活していたからである。
僕は自分が話題の中心になっているそのビデオを見ながら 「佐藤のやつ、人を勝手に殺しやがって」 と苦笑したり、それほど親しかったとはいえない川村が誰よりも的確に僕のことをわかってくれていた、と驚いたりした。 それはまるで、死んだ自分の通夜に集まってくれた仲間たちを、亡霊となった自分がその場に居て眺めているような、奇妙で不思議な錯覚を僕に与えた。

そしてビデオの中で川村が予言したように、それからしばらくして僕は24年ぶりの日本へ帰って行ったのだった。
(今日のこの文章は、偶然だけど4年前に書いた 『新宿駅東口二幸裏』 のイントロのようなものと言えるかも知れない)。




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コメント:

*

september さん、こんにちは。
『新宿駅東口二幸裏』まで読んで、ぼけなす頭が懐かしさにシャンとしてきます。四谷の文化放送裏に住んでいた頃、近所で数度出会った、ハイソでラッパを吹いていたのは中山さんと言わなかったのかな。彼の家の門まで(立派な家でした)案内されたことがありました。
四谷時代は都電に乗って新宿に酒を飲みに行ったものでした。つい先日ゴールデン街で久し振りに飲み、脇を走っていた(抜弁天へ向かっていく)都電の事を思い出し、不思議な感懐に陥っていました。
2014/06/15 [ペッシェクルード] URL #j9tLw1Y2 [編集] 

*

ペさん、こんにちは。お久しぶり!

『新宿駅東口二幸裏』に付いているぺさんのコメントは私にとっては
本文と同じくらいに大切です。
なにしろ私をあそこへ初めて連れて行ってくれたのはペさんでしたからね。

今日の記事中の人名はすべて仮名です。
だから、中山という男も実在しないんだけど
ぺさんが言っているのはたぶん北川のことでしょう。
彼は四谷に住居があります。
2014/06/15 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* なるほど

自分が出て行った後の人がどういう思いでいるか、考えたくはなかったですが、いろんな形で話にでてくるのは事実。でも死んだことにされたのは、私だったら見てるだけで卒倒してしまいそうです。自分の居場所なんてないと思っていたけど、実は自分の居場所にしっかり住み着いているかもっと思ってしまいました。
2014/06/16 [inei-reisan] URL #pNQOf01M [編集] 

* Re: なるほど

inei-reisan さん、

自分の居場所がなくて日本を離れたような気が長い間していました。
でも仲間たちの間では私の居場所はちゃんととってあったようです。
24年ぶりに新宿のホテルのロビーで彼らに再会した時のことを忘れません。
「もう死んじゃってるよ」なんて勝手な言を吐いていた佐藤は私を力いっぱいハグしたあと
まじまじと私の足を見て
「足があるよ。こいつ、幽霊じゃねーよ」
2014/06/16 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

おっしゃる通り、自分の通夜を見ているような不思議な感覚ですね。本当の通夜も大差ない気がします。
2014/06/18 [上海狂人] URL #ks8IdFps [編集] 

* Re: No title

上海狂人さん、

日常の生活で
そこに自分がいなくて話題の種になっている現場を見たり聴いたりする経験は
珍しいと言えるでしょうね。
2014/06/18 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* あいつもう・・・・・・。

多分西伊豆で開催された第1回目の同期会での出来事だったのでしょう。
その場にいた人間でしたがすっかり記憶の彼方です。
ビデオも貰ったと思うのですが1度も見ることもなく何処かに消えてしまいました。
Septemberがアメリカの何処かで生きている事を願ってはいましたが多分
佐藤の意見に同意していたと思う。
その数年後Septemberを迎えに成田空港に向かった時の嬉しさは格別だったね、イメージ通りのデカ鼻の赤銅色の人間を見つけた時は彼に間違いない!と思ったことを覚えています。
                       四ツ谷の住人
2014/06/19 [GxzvmacURL #Hb8WYnzA [編集] 

* Re: あいつもう・・・・・・。

Gxzvmac さん、

ああそうでした。
成田にホンダのアコードで迎えに来てくれたのでした。

そうか、あのビデオは同期会の第1回だったのですか?
それじゃあ私が逃したのは1回だけ、ということになります。
その後の2回はちゃんと出席したから。
2014/06/19 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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