過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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都会の片隅で

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路上のジャズフェスティバル Ⅰ


ペンシルバニア・アベニューはピッツバーグのダウンタウンの目抜き通りだ。 地元の住人たちにはペンアベニューの愛称で呼ばれている。
そのペンアベニューの3ヶ所にステージを設けて、3日間に渡って昼前から夜中までぶっ続けでジャズを演奏するのが、このピッツバーグ・ジャズフェスティバルだった。 60年代、70年代のジャズがアメリカではちゃんと健在しているのを知るのは嬉しいことだった。 そのうえ、入場料を払って行くお澄ましのコンサートではないから、3つのステージで演奏するそれぞれのグループを、数ブロック歩くだけで自由に行き来して聴くことができる。 ジャズはもともと庶民のものだったんだ、とあらためて感じさせられた。



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今日の聴衆をざっと見たところ、白人30%、黒人70% という感じがした。
ピッツバーグのデモグラフィック(人口動態)を調べたら、白人65%ということだから、今日のようなジャズの演奏会で白人がマイナリティということは、やはりジャズは黒人から生まれて黒人の中に生きていると考えて良いのかどうか。 しかし両者が和気あいあいとこのお祭りを楽しんでいるのを見るのはなかなか気分の良いことだった。 しかも気がついたのは、若い人よりも年配の人々が圧倒的に多かったということである。


《ザ・サイドワインダー》 リー・モーガン



リー・モーガンはペンシルバニア州ではピッツバーグと並ぶフィラデルフィアの出身だった。 若手のトランペッターとして、60年代のバップの旗頭だったアート・ブレーキーのバンドに採用されるという幸運に恵まれていながら、おぞましいヘロインの地獄へと落ちてしまう。 楽器も何もかも質に入れて麻薬を続けていたジャンキー同様のモーガンを救ったのは、のちに内縁の妻となったヘレン・モーアだっだ。 モーガンよりも13歳年上のヘレンは、金銭的にも精神的にも自分のすべてを投げ打ってモーガンを厚生させようとした。 彼にとってヘレンは妻であるばかりではなく、マネージャーでありプロモーターでもあったようだ。 そのヘレンのお陰で1963年にレコーディングをしたこのアルバム、 『サイドワインダー』 は商業的にも大成功を収めて、とっくに消えてしまったと思われていたモーガンが、再びジャズシーンに華々しく帰り咲いた。

そしてその9年後の2月のある日、ニューヨークのイーストビレッジのジャズクラブで演奏をしていたモーガンを、妻のヘレンは訪ねて行く。 出て来たモーガンを見ると、ヘレンはハンドバッグから拳銃を取り出して彼を撃つ。
こうして33歳のモーガンはその短い一生を閉じることになる。 自分がかつて命を救った男の人生を、今自分の手で終えなければならなかった46歳の女の胸中には何があったのだろうか?




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ペンアべニューのステージで若い黒人のグループが演奏する 『サイドワインダー』 を聴きながら、僕の心は40年前のニューヨークのハーレムに飛んでいた。 あれはリー・モーガンが死んだ翌年か2年後だったろうか。
あの頃の僕はジャズを捨ててしまったあと、ビザが切れて不法滞在者となりながら、といって日本には二度と戻るまいと決心をしていたから、自分がいったいどうなるのか希望も何も無かった。 ボストンからグレーハウンドに乗ってニューヨークへやって来た僕は、もうどうでもいい、死んでもいいや、という危険な感情に流されながらハーレムをうろついた。
なぜ死ななかったのだろう?
と今でも時々考えることがある。





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ピッツバーグの夜は訪れるのが遅い。 もう夜の9時を過ぎているというのに頭上の空にはまだ碧(あお)さが残っていた。
そんな残光の下で、周囲の喧騒から忘れられたような一角があって、そこにマグノリアがひっそりと咲いていた。
世界のどこかにこんな一角を見つけるために僕は旅をするのかも知れない。


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コメント:

*

Ⅳの写真、不思議な写真ですね。
マグノリアが人工的な花のよう。
編集でこんな感じにしてあるのですか?
この空の青は私が好きな青です。
2014/07/04 [ムー] URL #qiVfkayw [編集] 

* Re: No title

ムーさん、

空やビルに反射する自然光と
マグナリアを照らしているタングステン(街灯)の人工光線という二つのまったく異質の光が
ぶつかり合う時に一種不思議なな色彩を生むことがあります。
編集をしたのかとお尋ねですが
現実的な雰囲気に似せるように編集をする代わりに(普段はそうします)
ここでは自分の中にある幻想を追って解釈をした
と言えばよいのでしょうか。
2014/07/04 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* マグノリア。名前がまず素晴らしい。

花言葉は自然への愛・恩恵・高潔な心・崇敬 ・持続性だそうです。こんなお話の後でこのお花をもってくるあたり、Spetemberさんらしいというかなんというか。。

このヘレンさんだって、誰かさんだって、必死だから自分が壊れないようになにかを捨てたんでしょうか?
2014/07/06 [ineireisan] URL #pNQOf01M [編集] 

* Re: マグノリア。名前がまず素晴らしい。

ineireisan さん、

マグノリアの日本名の木蓮(もくれん)も私は好きです。

ヘレンは数年服役した監獄から出たあとニューヨークにしばらく住んでいましたが
真相を明かすことは一度もないままに、郷里のソースキャロライナへ帰りました。
そして1996年に亡くなる直前に唯一のインタビューをして
その時にモーガンとの長い遍歴を語っています。

それ今読むと、世間が取り沙汰したような、モーガンの若い愛人への嫉妬だけではなくて
もっとずっと深いところに根があったようです。
ヘレン自身も一度は服毒自殺をはかって危うく助かっています。

誰かさんのことは
これも女によってその人生を変えられてしまった男の
典型といえるかもしれませんね。
2014/07/06 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* こんにちは

これを読んだ後、偶然こんな記事を見掛けて、その差を面白く感じました。
http://ameblo.jp/nezumi-size/entry-11889574307.html

今、土門拳さんの「死ぬことと生きること」という本を読んでいるのですが、プロとアマについての言葉がとても面白いです。
2014/07/09 [どくとる] URL #m.2.LkcQ [編集] 

* Re: こんにちは

どくとるクマさん、こんにちは。

キース・ジャレットのステージ上での奇行は知っていましたが
ここまでとは非常に驚きでした。
「傲慢は天才にのみ許される」 という言葉を思い出しました。

土門拳さんといえば数年前に日本へ行った時に
高校時代の恩師が秘蔵版の土門拳全写真集を私に送ってくれました。
布で立派に装丁された厚さが10センチもある大判の写真集で
なにしろその重量が凄くてスーツケースに収めることができず友人宅に預けてきたのですが、
その後、帰国の度に同じ理由でアメリカへ持ち帰ることができずそのままになっています。
2014/07/09 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

上のコメント、名前が途中までしか入力できていませんでした。失礼しました!

キース・ジャレット、天才なのでしょうか。そんなに人間の気配が嫌なら、自分独りで自分のために弾いていたらいいだけの話しなのに、やっぱりそうはできない辺りが凡人のにおいです。それに本当に天才なら、咳ごときで乱されてはならないでしょう。
まあ、随分病んでいるのでしょうね。
音楽とは何のためにあるのか、などなど、考えさせられました。

土門拳さんの「死ぬことと生きること」の中身は、タイトルから想像したのと全く違う、写真論でした。
全写真集とは、凄いですね。
2014/07/11 [どくとるくま] URL #m.2.LkcQ [編集] 

*

どくとるくまさん、

音楽はなんのためにあるのか? というより芸術はなんのためにあるのか?
と私も考えてしまいました。
創作者と鑑賞者のコミュニケーションが芸術の条件じゃないのかな、と私は思います。
つまり創作者の体験を鑑賞者が体験できるところに、芸術の意味があるのではないでしょうか。

たとえば写真家が自分の作品を誰にも見せないで箱に入れてベッドの下にしまいこんでいるとか、
ピアニストが、くまさんの言うように自分独りで自分のために弾いても
それは芸術でも何でも無い。
自分の作品を人とシェアしたい、というのは芸術家にとってはごく自然な欲求なのです。
それはただの顕示欲とか自己満足というよりもっと大きな、
自分のしあわせ、自分の悲しみ、喜び、苦しみなどを人と分かち合いたい、という
芸術家としては使命のようなものなのでしょう。

キース・ジャレットが天才かどうかは知りませんが
本人はそう信じているのかも知れませんね。(笑)
私は彼の演奏の中で非常に好きなものがいくつかありますが、
それはキース・ジャレット自身とはあまり関係がありません。
芸術家の作品は創造されてしまったあとは作者を離れて独り歩きしますから。







2014/07/11 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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