過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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長老と若者、あるいは恋のゆくえ

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生贄
Franklin, Ohio


毎年夏になると必ず招待されるのが妻の親族が集まる大パーティだ。
100人以上の招待客が全員何らかの形で血縁的につながっているのは、アメリカの大家族では珍しくはないけれど、またどこにでもあるというわけでもなかった。 僕がこの一族にただ一人の日本人として参加してからもう30年以上がたつから、パーティで見るほとんどの顔は見覚えがあるけれど、彼等が僕とどんな関係になるかなんて覚えられるわけがなかった。 何しろ妻の直系の家族を別にすれば、大部分の人達を見るのは1年に1度このパーティだけだったから、名前も思い出せないのが多かった。 ところが相手の方では異人種の僕を忘れるわけがなく、幼い子供たちでさえちゃんと僕の名前を知っている。

この30年の間に、若い世代の人達が次々に結婚して子供ができて一族の主流になっていくのは当然の世の習いだから、それと共に僕の年齢的なランクがどんどん上がっていって、いつの間にか少数派の長老グループに入れられているらしい。 若者たちが僕に話しかける時の敬意のこもった言葉や態度でそれが察せられる。 といっても、僕の上には10年20年以上も歳上の真の長老がまだ10人は健在で、彼等は逆に僕をまるで若者のように扱うからなんとも宙ぶらりんな場所に僕はいるわけだ。

毎年のこのパーティの主役はいつも2頭の豚だった。
庭に設置されたグリルで、串刺しにした豚を電動のモーターでぐるりぐるりとゆっくり回転させながら何時間もかけて焼く。 豚を焼くのも、焼きあがった豚をテーブルに乗せて切り分けるのも、このパーティを取り仕切る男、ジム(僕にとっては妻の従姉妹の亭主)の役目だった。 ところが哀れな生贄となった豚の死体を見ていると、ポークが好きな僕でもいつも食欲が失せてしまい、ほとんど食べられなくなってしまうのが常だった。
生贄(いけにえ)の豚を取り巻くアメリカ人たちの表情は、交通事故の現場を取り巻く野次馬のそれに似ていた。


そういえば数年前のこのパーティで、初めて日本人の女性に紹介されたことがあった。 僕にとっては甥にあたる大学4年生のスティーブのガールフレンドで、名前をアツコさんといい彼とは学校の同級生だそうだった。 二人がアツアツの仲なのは誰の眼にも明らかで、スティーブは彼女をまるでお姫様のように扱っていた。 そのスティーブが僕にそっと告げたのは、近々大学を卒業したら就職が決まりしだいに婚約をして、将来は結婚をしたい、と。
それを聞いて僕は、そうか、この巨大なアメリカ人の一族にもとうとう僕以外の日本人が加わることになるのか、と感慨深かった。

ところがあくる年の同じパーティにスティーブが連れてきたのは、アツコさんではなくアメリカ人の女の子だったのである。 当然ながら 「どうしたんだい?」 と訊く僕を、スティーブは周りに聞こえない場所へひっぱって行くと言った。
「聞いてよ、伯父さん。 アツコには非道い目にあったんだよ。 ボクは去年あのあと卒業してB社に就職したんだけどね。 ほんとはシカゴの一流会社のA社に就職が決まっていたので、アツコと一緒にシカゴへ移って彼女はそこで仕事を探す、ということになってたんだよね。 ところが、アツコがそのままここで大学院に行くと言い出したんだ。
それでボクは仕方なくA社を断ってそれほど魅力のなかった地元のB社に決めたんだ。 彼女とどうしても離ればなれにはなれなかったからだよ。 そしたらさあ、数ヶ月たっていきなりアツコが言い出したのは、他に好きな人ができたから別れましょう、だって。 信じられる? 非道いよ。 日本人の女性ってあんなこと平気でするの?」

「バカ、日本人に関係ないだろ。 女にピンからキリまであるのはどこの国だって同じだよ。 だいたい、お前もケツの青い22や23で婚約だの結婚だのって10年早いっつうんだよ。 振ってくれて良かったとそのうち彼女に感謝するようになるさ。 俺が保証する」。
さらに僕は続けた。
「実は今だから言うけど俺は彼女にあまりいい感じを持たなかったんだ。 彼女、あの時初対面の俺に向かって何と言ったと思う? 長年アメリカに住んでいらした割には英語に訛りがあるんですね、だって・・・
俺もムッときたから、あなたも日本人にしては珍しいくらいのブスですね。 私は女性の容貌には全然うるさくない方なんですけど、あなたとやる時はきっと顔に洗面器をかぶせてやらなきゃダメでしょう。 ほら、そこにいる丸焼きの豚ちゃんの方がずっと可愛いですよ。 と言いたかったけど、まあまあ将来スティーブの嫁さんになる人だから、と思って我慢をしたんだ」。





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コメント:

* 至極いねぇ

こんなパーティが今だに続いているなんて、至極いねぇ。

面白く楽しい(?)話で、ちょっとした短篇を読んだみたいだ。

いつも有難う。
2014/08/17 [henri8] URL #av6ed.vY [編集] 

* OMG!

下ネタにさえいつも品のあるSeptember30さんが、どうしたことでしょう!
「洗面器かぶせないと」って!!!
想像して笑ってしまいましたが、ということは、洗面器をかぶせれば大丈夫ってこともありえるわけですね。ふむう。メモしておきます。

若い世代が次々結婚して子供を産んで100人規模のパーティーを維持しているのは素晴らしいことですね。私も母方の一族がそういう感じでしたが、若い世代、つまり私たちの世代が殆ど子供を産まなかったため、親戚一同揃っての集まりは消滅してしまいました。ふと周りを見渡せば、同級生でも子供を産んでいる友達は半分ぐらいです。我が家は不妊カップルですけど、選択的に生まない人もいるし、未婚の人もたくさんいます。家族とは、努力して求めて維持してゆくものなのかもしれません。
それはさておき、スティーブさんはその後素敵な伴侶と巡り会えたのでしょうか?おばちゃんはそれが気になります。
2014/08/17 [nico] URL #KqigePfw [編集] 

* Re: 至極いねぇ

henri8 さん、

これだけ親族が多いと毎年の結婚式と葬式の数が馬鹿になりません。
近い家族だけが出席をするのが習慣になっているようです。

2014/08/17 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: OMG!

nico さん、

あ、そうか。
そんなに嫌ならしなければいいんだから、洗面器をかぶせてもするというのは
これは実に品のない話ですよね。
こういうのを、「語るに落ちる」 とい言うのでしたっけ?
あ、ちがうか。 「馬脚を現す」 というのかなあ。
日本語は難しい。

家族のことですが
アメリカでも、とくに堕胎を禁とするカトリックの家庭で
避妊や家族計画なしにとにかく7人も8人も産めなくなるまで産んだという時代は
妻の両親の世代で終わりになったようです。
(妻の親族はすべてカトリックです。 道理であの大パーティ・・・)
現代では平均すれば子供は二人か三人というのがアメリカでは常識ではないでしょうか。

スティーブのことですが、
ブログには書かなかったけどあの失恋は私の想像以上の打撃だったようで
長い間女性不信、人間不信に陥っていたようです。
頭も良く、good lookingでしかもとても良い性格の子なので
ガールフレンドを作るのは何の問題もないらしいのだけど
今は結婚など考えないで仕事に、というより金を稼ぐ方に全力投球しているみたいですよ。
26歳の若さで最近家を買ったそうです。

そのうち
「伯父さん、結婚することにしたから結婚式には絶対来てよ」 と言ってくるかもしれません。


2014/08/17 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

日本人にしてはめずらしいくらいのブスですね(あはは)
洗面器かぶせてにはもう大笑いしちゃいました。
売り言葉に買い言葉で言ってやればよかったのに。
悪態づくのがほんとにうまいなー。
こういうの私大好き~~

2014/08/18 [ムー] URL #qiVfkayw [編集] 

* Re: No title

ムーさん、

でもアツコさんが言ったことは真実なのです。
アメリカに長年住みながらついに訛りが抜けなかった自分の英語のことは
言われなくてもいつも自覚をしているだけに
それを初対面の彼女に指摘されて繊細な私が傷ついたのでありました。
いつになったら私はこんなつまらないことを超越できるんだろう?
2014/08/18 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

こんにちは。凄く大きな豚ですね。これはもう丸焼きにされてしまったものと理解しましたが、どうなんですか。それで美味しいのでしょうか。(そこが一番知りたいところです。) 
ところで私、随分昔に、日本人旅行者から、こんな平凡名前の日本人に外国で会うなんて驚いた・・・みたいなことを言われて気分を害したことがあります。この人は日本国内ではこんな失礼なことは言わないでしょう。言葉に気を付けるのが日本人の美点のはずですからね。私は自分の名前をとても気に入っているので、なんてこった!と、ひっくり返りそうになりましたよ。
2014/08/19 [yspringmind] URL #UOM.WK7I [編集] 

*

yspringmind さん、こんにちは。

そう、この豚はもう丸焼きにされてあとは解剖されるのを待っているのです。
豚肉の好きな人にとってはこれほど原始的でこれほど美味しい食べ方は他にないと言いますね。
私ももしこんな情景を見ないで、薄切りにされた肉だけだが眼の前に出て来たら
ガツガツ食べたでしょう。
3,4種類用意されたマスタードをたっぷり付けてね。

あなたの名前は古くて優雅で美しい名前だといつも思っていました。
それに子供の頃に私が熱く憧れていた友達のお姉さんと同じだし・・・ (笑)
そんなことを言う失礼な日本人には、洗面器で水をぶっかけてやればよかったのに。
洗面器にはいろんな使い方があるのです。

2014/08/19 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

流石のオチですね。
海外で出会うハンサムな白人のパートナーの大和撫子には、信じられないブ○を良く見かけます。しかも自信家。なんででしょうかね。
2014/08/19 [上海狂人] URL #wuZV7DPc [編集] 

* Re: No title

上海狂人さん、

それはたぶんこの2つの理由でしょう。
1. 外国と日本の美の基準の違い
2. 外国人の東洋へのエキゾチシズム

だから日本であまり相手にされなかった人も、外国に来るととたんに周囲の興味を惹くから
「あれっ、わたしって捨てたもんじゃないじゃん!」 と少しずつ自信をつけ始め
それが長い間に確固とした自信に変わっていくのかもしれません。
2014/08/19 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

26歳で家を建てるって日本の感覚だとすごいけど、アメリカって国は能力があれば本当に登り詰めることができるのかもしれないって思わせるところがありますね。その弊害はいろいろあるんでしょうけど、日本だとなかなか難しいんじゃないかって感じます。

ところで丸焼きの話しですが、私は魚を釣ってそれを裁くと食べられなくなります。それは川魚の小さいのから、スズキのような大きな魚でも一緒で、いつも相棒には「食べないの?」っていわれます。そういえば先日のウニもそうでした。

ところがこれがケモノになると不思議なことに大丈夫なんですよ。以前イノシシを風呂場で解体して皮を剥いだことがありましたが(たった2回ですが)、美味しく食べることができました。私は海育ちで魚には馴れているはずなのに、魚はダメでケモノは大丈夫って不思議です。
2014/08/20 [川越URL #uvrEXygI [編集] 

* Re: No title

川越さん、

ケモノは大丈夫なのに魚はダメ、というのを知ってびっくりです。
私は両方とも自分で捌いたことなど生まれてから無いのでわからないけど
魚なら大丈夫という気がします。

川越さんはブログでもしょっちゅう拝見するように、奥様と共に食道楽の極みに達していて
しかも魚釣りにはあれほど打ち込んでいながら、その魚が食べられないというのは
心理学者のいう1種の mental disability (精神障害)のようですよ。(笑)
子供の頃に川越さんをそうさせた何かの起因があって、
それがそのまま深層心理の中に住み着いてしまったに違いありません。
何かのきっかけさえあればそれが取り除かれるかも知れません。

私も若いころ徹底的な日本人嫌いに陥って、日本人は見るのも嫌という時期があったのが
いまでは日本人大好きになったのだけれど
これはまたちょっと話が違うかな?
2014/08/20 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

*

>September30さま
自分では今までそういったトラウマがあるとは考えたことがないのですが、どうも私は自分が嫌だと感じることは記憶にふたをしてしまい、なかったことにしてしまう傾向があるように感じます。

おかげでうちの親が何歳で死んだのかもわからずじまい、母の名前が曖昧な記憶だとかですが、そういことはいろいろあって、親族の間柄がわからないとか(これはただのバ●かも?)、自分でも不思議に感じます。でもこれはなんとなく思い当たることもあります。

でも魚のトラウマは自分ではわからないです。海で隣のお兄さんが亡くなっているけど、それに類することが記憶から消されているのかもしれません。・・・と、ここまで書いてなんとなく思い当たることがちょっとでてきました。魚ではないけど海に関することですが、それが影響しているのかな。すみません、オープンにするような記憶ではないので、またいつかお話しできるときがあれば。でもまた記憶の奥底にしまわれそうですけど。
2014/08/21 [川越URL #uvrEXygI [編集] 

* Re: No title

川越さん、

嫌なこと、思い出したくないことに蓋をしてしまうというのは多かれ少なかれ誰でもがやっていると思うのです。
それって自分の精神を正常に保つための人間の無意識の自衛メカニズムのようなものでしょう。
アメリカ人が大好きなシュリンク(精神分析医)の仕事というのはそういう潜在意識下のトラウマを掘り出して
本人にそれと対処させることによって心の歪んだ部分を治療するのだと思いますが
私はシュリンクにかかったことがないのでよくはわかりません。
人の話を聞いたり映画で見たりするだけです。

でもよく考えてみると、私がブログで昔のことをあれこれ掘り出して、
もう思い出したくないようなことや、人に知られるのが恥ずかしいことなどを細かに書いたのは
あれは自分で自分のシュリンクになっているようなところがあるのじゃないか、という気がします。
あるいはクリスチャンがやるあの「懺悔」もそれと同じかも知れませんね。

そういう意味では私はブログを書くことで随分と気持ちがスッキリしてきたようですよ。
過ぎたことも過ぎて行くことも、目を背けたり逃げたりしないで、しっかりと見てやろう、という気が強いです。

「魚のトラウマ」あるいは「海のトラウマ」のお話はいつかゆっくり聞きたいですね。
2014/08/22 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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