過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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ゲットーに住んで 1/2

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ゲットーのフォルクスワーゲン
Dayton, Ohio 1982


ゲットーとは、19世紀以前のヨーロッパの都市で、迫害されたユダヤ人の強制居住区域がそう呼ばれていたのが、20世紀になってゲットーが消滅したあとでもその名がそのまま残ってしまい、アメリカでは貧困階級の黒人たちが住む地域を指すようになった。俗語として使われるだけだから公式にゲットーという場所があるわけではない。ただ何となく、われわれ一般人が足を踏み入れる地域ではない、という感覚がその言葉の裏には潜んでいるようだ。

そんなゲットーに僕らの家族が1年ほど住んだことがある。
ボストン郊外のMという小さな町だった。それまで住んでいたケンブリッジの1ベッドルームのアパートが、娘のマヤが生まれてくるといかにも手狭(てぜま)になり、せめて2ベッドルームのアパートへ越したいと思っていた。しかもちょうどアパートのリースを更新する時期が迫っていて、それを機会にどこか他へ移ることに決めたのだった。といっても経済的に余裕のなかった僕らにとって、これはと思うアパートはボストンやケンブリッジ界隈ではレントが高すぎてとても手が出なかった。共稼ぎで働いていた僕ら夫婦だったが、子供ができて妻が仕事をやめて家で子育てをすることになり、一家の収入が僕一人の肩にかかってきたからである。グズグズしているうちにリースの期限が迫ってきていて、早急に次に住む場所を探す必要があったので僕はかなり焦ってきていた。

そんな僕を見ていた仕事場の同僚の黒人女性のブレンダが、「うちの2階は2ベッドルームのアパートで人に貸していたのが今ちょうど空いてるんだけど、来る? 地域としてはあなた達には理想的といえないかもしれないけど、とにかくそこへ入ったあとでゆっくりと良いところを探せばいいじゃない?」 と親切に言ってくれたのである。彼女が 「理想的とはいえない」 と言った理由は、それがゲットーと呼ばれる地域で、外からここに移って来たいという白人や日本人はまずいないだろうからだった。
「とにかく一度見にいらっしゃい」 とブレンダが言うので、妻と2歳になる娘を連れて、仕事場からはかなり遠くにあるこのMの町まで行ってみた。

行ってみるとそれは思ったよりもずっと大きなアパートで、家そのものは古いけど大家のブレンダとご主人がきれいに手入れをしてきたらしく、大小2つの寝室、広いリビングルーム、ウォークインのパントリーが付いたキッチンなど、なかなか快適そうな住まいになっていた。 すぐ階下にブレンダの夫婦が住んでいるのは何よりも心強いし、それに家賃がボストンの町中に比べると信じられないくらいに安かった。

僕らはその場でこのアパートを借りることに決めたのだった。

(続) 




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コメント:

* この写真

とても素敵です。絵に描かれているのはなんの建物なのでしょうか?また違うSeptember30さんのお話が聞けてうれしいです。
2014/10/12 [inei-reisan] URL #pNQOf01M [編集] 

* Re: この写真

inei-reisan さん、

描かれている絵は何なのか知りませんが、絵が書かれている建物は
アメリカのどの都市にもあるプロジェクトと呼ばれる、低額所得者のための公団住宅です。

ところで、ブログでお母様のことを知りました。
そのために急に日本に帰国したのですね。
お悔やみ申しあげます。
2014/10/13 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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