過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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日本人とアメリカ人 (1/3)

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ピクニック
Franklin, Ohio USA



20代の後半までを日本で暮らしながら、僕は周囲の人達とどうもうまく歯車がかみ合わないことに気がついていた。
その理由は、日常の生活において、なんでも (日本語特有の紆余曲折を省いて) ストレートに表現をしてしまう僕の発言や、古いしきたりや慣習をつい軽んじてしまったり、周囲の誰に対してもいつもあけっぴろげな態度で接してしまうことに起因しているようだった。 No と言いたいときに一応最初は Yes と言っておいて、それから徐々に No に変えてゆく、というような日本式のテクニックを僕は知らないわけではなかった。 それにもかかわらず、そういう面倒な演出をする必要性をあまり認めていなかったような気がする。 言葉は真情の吐露だと信じていた僕は、明らかに心にも無いことを平気で口にする人達を軽蔑した。 しかも、相手から僕に向かって発せられた言葉のどこまでが本意で、どこからが儀礼なのかを、自分の中で何度も反芻して推測したり訂正しなければならない。 そんなメンタルゲームに、僕は疲れきってしまっていた。

僕が尊敬していたある先輩が、
「お前さんはちょっと見にはハナからケタが外れているように見えながら、実は心底では決して一線を超えていない。 そこがお前さんのいいところだ。 しばらくつきあっていればそれが分かるけど、普通の人から見ればただの礼儀知らずで傍若無人で鼻持ちならないやつ、とレッテルを貼られてしまうんだ。 お前さんみたいな人間はきっとアメリカのほうが性(しょう)に合ってるよ」 とアメリカでの商社勤めが長かったその人が言ったことがあった。 僕が日本を離れてアメリカへ渡ることを真剣に考えたのは、いくつかの理由があったけれど、その先輩の言葉がいつも心底に潜んでいた。
それでちょっと様子を見てこよう的なわりと軽い気持ちで日本を離れてしまったのである。

そしてアメリカ。
No がそのまま受け入れられる国。 敬語の無い国。 英語という曖昧な言いまわしには向かない言葉を持つ国。 人の目を気にすること無しに暮らせる国。 迷惑にさえならなければ、何を言っても何をしても誰も気にしない国。 感情がそのまま顔に表れる人たちの国。 煩雑な慣習や制度の元になる古い伝統を持たない国。
そのアメリカに住むようになって、僕は心からホッとした。 そしてアメリカ人の、単純と言っていいくらいのストレートさや陽気さを僕は愛した。 ここではもう 「礼儀知らずで傍若無人で鼻持ちならない」 と思われる事もなかったし、人の口から出てくる言葉の裏を読む必要も無かった (ほとんどの場合は、という意味だけれど)。
僕はアメリカで、水に放たれた魚のように生き生きとしていたと思う。 そしていつのまにか祖国日本へ帰るチャンスを失ってしまっていた。

こうして何十年もアメリカに住み続けてきた僕に、いつごろから異変が起きたのだろう? そんなに古くはない。 ここ数年来の事だと思う。 アメリカ人の徹底し過ぎる個人主義や、即物的なものの見方にうんざりとさせられるようになってきたのは。
それと同時に、今は時々訪れるようになった日本で、周りの人たちのちょっとした思いやりとか細かい気配りなどに、(ああ、やっぱり日本はいいなあ) と感激をしている自分がいた。
「自分はやはりどうしようもなく日本人なんだ」 という意識は昔からいつも持っていながら、その意識は長いあいだ心の奥の小さな引き出しに鍵をかけてしまいこまれていたようだ。 そしてその鍵もとっくにどこかへ失くしてしまった、と思っていた。
それが最近になって、優しい日本人たちがそれぞれの鍵を僕に手渡してくれる。
「ほら、ここにもあるよ」
「こちらの鍵もきっと合うかもしれないよ」

そうして久方ぶりにその引き出しを開けて、小さくなって縮(ちぢ)こまっていた古い自分を取りだすことができた。

(続)

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コメント:

* 玉手箱

Septemberさんの引き出しを開けて中身をのぞきたくて、みんないろんな鍵を鍵穴に突っ込んで、笑ったり泣いたり。いいえ、鍵をいただいているのはこちらのほうですね。今まで気がつかないふりをしていた心の小箱を開ける鍵をいただいて、おそるおそるあけてみると・・・・さて。
2010/12/11 [みん] URL #6moyDOY6 [編集] 

* Re: 玉手箱

みんさん、
きっと心の小箱は誰もが持ってるのでしょうね。
持ってることに気がつかないひともいるのだろうけど、それがある日、そんな小箱が自分にあるのに気がついて、今度はそれを開けてくれるひとを待っている。
浦島太郎みたいに開けてみたらとたんに醜い老人になるか、美しい若者として甦るか、それは開けたときのお楽しみ。(笑)

2010/12/11 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

* Septemberさんの心の奥の小さな引き出し

私がSeptemberさんの引き出しを覗き込んだ勝手な想像では醜い老人よりも美しい若者よりもずっと素敵ないぶし銀のセクシーな紳士ですが・・・いかがですか?大当たりでしょう?
2010/12/12 [みん] URL #6moyDOY6 [編集] 

* Re: Septemberさんの心の奥の小さな引き出し

みんさん。う~ん、
いかがですか? と聞かれると困ってしまいます。
「そうです」 と言うと自惚れになるし、「いえ、そんなことはありません」と答えると嘘になるし・・・(笑)
日本語って難しいです。
2010/12/12 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

*

この写真もまた、すごく面白いですね。
じっくり見ています。
私もどういうわけかやっぱり日本が好きです。
でも住めばどこもいいところだろうとも思いますしどのみち妄想していますから。 
2012/03/29 [アンリ] URL #0.M2lW/c [編集] 

* Re: No title

アンリさん、私もやっぱり日本が好きです。 それにやっぱり日本人が好きです。
こんなことが言えるようになるのに40年かかりました。
2012/03/30 [September30] URL #MAyMKToE [編集] 

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