過ぎたこと、過ぎて行くこと  by September30

アメリカに長く暮らしながら日本やヨーロッパを周る著者が、写真と文章と音楽で綴る随筆のようなもの

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青いチャペル

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Sainte Chapelle, Paris


サント・シャペルのステンドグラスが見たくてここまでやってきた。 すごい人である。 入場料を払うのに長い行列に並ばされてうんざりしたが、無理もないだろう。 ここはエッフェル塔や凱旋門やシャンゼリゼと並んで、パリでは人気の観光スポットになっている。 待つことの嫌いな僕はよっぽど列を離れてしまおうかと考えたが、ステンドグラスを見たいという欲望のまえに、まあまあと自分を宥(なだ)めてがまんをした。
僕らの前には一団の日本人観光客、うしろには東欧人らしい一団がいてどちらもおしゃべりに夢中になっている。 東欧人のほうは何語なのかわからないがその強い響きは、まるで言い合いをしているように聞こえた。 振りかえると、皆がニコニコと楽しそうな顔をしてるので 言い合いではないということがわかる。 前にいる日本人の一団は3組の中年のカップルで、こちらは亭主組と女房組に分かれて、女房組はおそろしく生真面目な顔をして、このあとのルイ・ヴィトンのショッピングの戦略を練っていて、いろいろな意見と反論が飛び交っていた。 それにくらべると亭主組のほうはずっと口数が少なく、ぼそぼそと相談しているのは翌日の出発の段取りのようである。

ようやく中に入ることができた。 僕らはまっすぐ階上の礼拝堂への階段へ向かうと、日本人組と東欧人組に挟まれたまま細い螺旋階段を一列になって登って行く。 登りきったところが狭い戸口になっていて、そこを入ると我々はいきなりこの大聖堂の中にいた。
そこには青いステンドグラスの海があった。 その海は横に洋々と広がるかわりに、上へ上へとどこまでも登りつめて行くような不思議な海だった。 螺旋階段のとちゅうでもおしゃべりを続けていたまわりの一団にも、一瞬沈黙が落ちていた。 
「ひょっとしたら、神は存在したのではないか?」 と無神論者の自分にも思わせるような荘厳さ。
この悠久の海のまえでは、ひとの一生なんてちっぽけなかすり傷みたいなものに思える。
そして僕の意識のずっと深いところからオルガンの音色が流れてくる。 弾いているのは僕自身にちがいなく、その歌は過ぎ去ったわれわれの青春のための鎮魂歌だった。
プロコール・ハルムが 60年代の終わりに沖縄のアメリカ軍を慰問に訪れたときに、彼の後ろで僕はハモンドオルガンを弾いていた。

青い影
Whiter Sahde of Pale



僕はわれにかえるとカメラバッグから20ミリを取り出していたが、このときほど17ミリを家に残してきたことを悔やんだことはない。 三脚を禁じられているこの場所では手持ちで1/6秒のシャッターが精一杯だった。 両足を踏んばりカメラを額(ひたい)にぴったりと当てて、息を止めてシャッターをきった。
それでもブレてしまった。


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コメント:

*

これは心のブレを表現しているのですからそれで良いのです。
2010/12/21 [上海狂人] URL #wuZV7DPc [編集] 

*

写真だけでも息をのむような神々しさ。
西欧は未経験ですがseptemberさんの素敵な写真を拝見しているとやはり行きたいと思うようになりました。
2010/12/21 [kaori] URL #- 

* Whiter Sahde of Pale

青い影
大好きです!
この素晴らしい写真と文章にぴったりですね。

プロコル・ハルムのバックで弾いてたなんて!!
すごいっ!
ハモンドっていいですよね~
ロニー・スミスとジャック・マクダフ
しか実際に観た事はありませんが
「すごい...魔法みたいだ」と思いました。
フェンダーローズも好きです。
2010/12/22 [kenURL #- 

*

おしゃべりに夢中な、なんとなく「こなす」ために来ているような観光客のグループを一瞬でも黙らせる、そういう空間というの、ありますよね。これを作らせたのは宗教の力ですが、あきらかに宗教を越えた何かがあるのというのか。

それにしても、フランス人は昔から青の使い方が上手ですね。ステンドグラスといえばもちろん彼らのオハコですが、これ、たぶんイタリア人が作っても絶対にこういうふうにならない気がします。
2010/12/22 [FumieURL #- 

* Re: No title

上海狂人さん、これは心のブレではなくて、アルコール依存症の病状である手ブレではないかと・・・
きっと、ウォッカを一杯キュウッとあおればブレなかったかな。(笑)
2010/12/22 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

Kaori さん、一度ぜひ行ってみるといいですよ。アメリカはしょせんヨーロッパ文明の末端だから、そんなに違ってはいないだろう、と思っていた私ほど、間違っていたものはありませんでした。
ヨーロッパはもっと深くて重いです。
2010/12/22 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: Whiter Sahde of Pale

Ken さん、プロコル・ハルムなんて、もう日本では覚えてる人もいないんじゃないかと思っていました。
あのハモンドの前奏は印象的で一度聴いたら忘れません。
あのころの(返還前の)沖縄にはジェームズ・テーラーだとかオーチス・レディングだとかナンシー・シナトラだとかグループのフィフス・ディメンションだとか、当時のスターたちがこぞって訪れました。
2010/12/22 [September30URL #MAyMKToE [編集] 

* Re: No title

Fumie さんの専門家としてのコメントはとても興味深いです。
美術だけではなく音楽も教会(宗教)というパトロンなしでは育たなかった。

フランス人の青といえば、そういえばあのノートルダム寺院のなかのステンドグラスも強い青色が基調になっていましたね。
2010/12/22 [September30URL #- 

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